HERO GIRL

□私と担任と不祥事
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「犯人は名無しの身近な人物ですか?」
「そして貴方にも…と、私は考えているのですがね。なかなか尻尾を出さないのですよ、彼女は」
「彼女?」
「彼女――と言ってもいいのか解りかねますがね」




その物言いは、まるで犯人が誰か既に解っているような口振りだった

彼女と言うからにはきっと女性
そして俺や彼女に身近な女性――

じわり、全身に嫌な汗が噴き出す
室内はそう暑い室温ではない
夕方近くという事もあり、涼しすぎるぐらいの気候だ

なのに、どうしてこうも――暑いのだろうか




「報告書」
「はい。両親は幼い頃に死に別れ、弟と施設で育ったようですね。成人してからは施設を出て、姉弟で一緒に暮らしていたそうです」





つらつらと部下の人は書類を取り出して文面を読み始めた
いきなり何の説明もなしだったが、彼女――と言うのが誰なのか、何となく頭の何処かで想像はついていたと思う





「近所の人からも仲の良い姉弟という風に見られていたようですが、一年前のある時を境に、急に弟の姿が見えなくなりました。理由は――盗撮と監禁ですね。それが起因して彼は今、指名手配犯となっています」

「し、指名手配犯だって?」

「住んでいた家にも張り込んでは見ましたが、出入りするのは姉の姿だけ。弟の姿は誰一人として見ていない…」

「待って下さい。盗撮犯の話じゃなかったのですか? なんで急に指名手配犯なんか――」




確か、その指名手配犯の罪状は『盗撮・監禁』だと聞いたばかりだ
それと一体何の関係が?




「その指名手配犯って奴が、私を盗撮していた奴なんじゃないの」
「は?」
「私ってことごとく指名手配犯に縁があるみたいですね。やだやだ」




溜息を吐いた彼女がマグカップを四つ、お盆に乗せて持ってきた




「先生。お客様用の湯呑みすらないんですか。適当にダメダメですね」
「一人暮らしの男の家に、そこまで文句つけるか」




とりあえず、マグカップが四つあっただけでもよしとして欲しい
だってお客様が来るなんて滅多にないし
来客と言っても男友達か昔の彼女ぐらいだったし!


ソファに座って呑気にマグカップを手にする彼女は、呑気にお茶を啜っていた
俺は驚きの目を刑事に向けた




「って! 指名手配犯って本当ですか?」
「まだ推測の域でしかないですがね。それに――不可解な点もあります」
「不可解な点?」
「お姉さんの方。彼女はこの世にはいない筈の人間なんですよ」
「…は?」
「なななな何それホラー…!」





おい、手が震えてるぞ?
何気に怖いのか、そうかお前怖がりか




「既に彼女は死んでいる――その筈の人間が、こうして生きているなんて、ホラー過ぎませんか」
「死んでるって…どういう事ですか?言っている意味がよく…」




でしょうね、その刑事は笑った




「死んでいる筈の姉。消えた弟。実に不可解です」
「そ、そんなの…何かの間違いに決まっています! 現に彼女は生きているじゃないですか…っ」
「おや。心当たりがおありで?」
「心当たりも何も――副担の彼女に限ってそんな事!」




その笑みが、意地悪い物に変わった気がした




「私は一度として『副担の先生』の名は、口にしていませんがね?」
「…っ」
「彼女が今の高校に務められたのは、今から一年ほど前だそうです」
「はい…俺の少し後に入ってきたんです。彼女は」
「その頃にはもう、弟さんは姿を晦ませていたのですが――同時期にお姉さんも亡くなっている」



亡くなっている…?



「な、亡くなられた理由って?」
「調書には『過労』と書かれていますが――最近解ったことですからなんとも」
「?」
「彼女の死が判明したのは、ほんの最近なんですよ。一年前に亡くなっている筈なのにね」
「…え」
「おかしいと思いませんか。それじゃあ我々が見た彼女は一体誰だったのか…」




言葉が出なかった

もしそれが本当なら――今まで見てきた彼女は誰だ?





「ゆゆゆゆ幽霊…!?」
「落ち着け」




とりあえず、お前はガクブルするのをやめなさい
折角の高いお茶が零れて台無しだ

読み上げれば読み上げるほど、聞けば聞くほどそれは初めて知る『彼女』の姿――





「盗撮は現行犯でなければ逮捕出来ない。犯人がその人だと言う証拠も今はない。ただ――彼女が指名手配の彼であるならば、話は別だ」
「…彼って」
「あ―…先生、指名手配犯は弟って話だったじゃないですか?」
「…弟。おとうと――」
「ちなみにね。双子だそうですよ。一卵性の」
「え?」





…ちょっと待って?

嫌な予感がする――


えぇと、今までの情報をゆっくりと整理しよう

本当に、ゆっくりと――



うん、時間を掛けよう…





「…おーい?」
「駄目ですね。聞いちゃいません」
「むしろ現実逃避してるよねー。あぁ、でも幽霊じゃなくてよかった」





ホッと安堵した様に息を吐く

眼に見えない何かよりも、生きている人間の方が怖い





「なんにしても――先生にはちょっと辛い事かも」




そう呟いて、地味子は少しだけ温くなったお茶を口にした





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