HERO GIRL

□私とスカウトと芸能人(仮)
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「蛍介、Aクラスになったんだって?」
「う、うん。この前の月末評価でね」
「きゃー!!」
「すごーい!」
「じゃあもうデビューとか!?」
「今のうちにサイン貰っとこうかな!」




…朝学校に行くと、教室であの男が女子に囲まれていた
『PTJ』に練習生として在籍しているのは知っていたけど、もうAクラスだなんて

――彼には、とんでもない才能があるみたい




「あっ。明里ちゃんおはよう!」
「おはようございます」
「今日もいい天気だねっ」
「…曇り空よ」
「あ、あれっ!?」




この空を見て、何処がいい天気だと言うのだろう


…今日の天気も解らないくらいに疲れてるのかしら?




「明里、おはようー」
「おはようございます、美怜さん」




彼女は美怜 クラスメイト

そして――『こっち』の私の友達




「ねぇねぇ。昨日のテレビ観てくれた? 私がお薦めしたやつー!」
「えぇ観たわ。とても面白い内容だったわね」
「でしょでしょ!」
「二人共おはよう、何の話?」
「あっ、おはよう! 昨日見たテレビの話だよ!」
「あぁ。美怜が絶対観てって言ってたあれね」



彼女は瑞希

同じく、私の友達




「流星、おはよー!」
「おう。唯」
「昨日ね、クッキーを作りすぎちゃって。良かったら貰ってくれないかな?」
「へぇ。お前そんなもん作れんのか。さんきゅー。腹減ってんだ…お、うまい」
「ホント!?」




彼女は唯

『パプリカTV』で大人気の女性配信者であり、私のビジネスの稼ぎ頭

彼女も友達だ




「明里も食べる?」
「ありがとう」




可愛くラッピングされたそれを受け取った

未だに信じられないの
この子たちが、こっちの私と仲良くしてくれるなんて

これも全ては、あの子が仲を取り持ってくれたおかげなのだけど――




「蛍介凄いね。もう立派な芸能人だ!」
「ち、違うんだけどな。地味子ちゃん…」
「いいな。私もサイン欲しいなー! 頂戴?」
「えぇっ!?」




彼を囲む女子の中に、あの子がいた

名無し 地味子――




「何か手の届かない遠くに行っちゃったみたいな感じ」
「え」
「学校でもなかなか会えないし」
「うん。クラスが上がると、練習量も増えるんだ。最近また忙しくなってきてね」




Aクラスに上がったなら、今まで以上にハードな練習をしている筈
その中でも実力を持つ者だけが、デビューを許される
本当に敷居が高く、狭き門なのだ




「でも寂しいなぁ」
「えっ」
「芸能人になったら、友達だなんて言えないのかなー」
「そ、そんなことないよっ。地味子ちゃんの事は、いつまでも友達だ」
「ホント? わーい!」




友達――か

あの男を囲む女子達が、地味子を妬むように見ているけれど…本人はそれに気づいていないみたい
大体、何で地味子がそんな目で見られなきゃいけないのかしら?

全部あの男の所為よ…!




「明里ちゃん。どうしたの、怖い顔」
「えっと…何でもないのよ、地味子。何を持ってるの?」
「えへへ。蛍介にサイン貰っちゃった」



ノートのページに『長谷川 蛍介』と書かれているそれをみて、地味子はにこにこしていた
正直、芸能人のするそれとはかけ離れた筆記体だ
あれではただの署名である




「そ、そう。よかったわね」
「うん! 部屋に飾ろうっと!」
「そこまで…!?」




彼女の事だから、本当に飾りそうで怖かった









「蛍介。芸能人になったと言うのは本当か?」
「バ、バスコ。何処でそんな事を?」
「地味子が言っていた。サインも見せてくれたぞ!」
「あはは…芸能人じゃないんだけどな」





敏斗と一緒に食堂で昼食をとっていたら、バスコが来てそう言った
このキラキラした顔は、何処かで見た事が――あぁ、そうだ。今朝の地味子ちゃんに似ているんだ

その地味子ちゃんは、今日も限定パンの争奪戦に参加しているらしい
食堂の一角では、生徒達が集まっている




「凄いな蛍介!」
「敏斗も同じ事務所で練習してるんだ。ね!」
「そんな…僕はまだまだだよ。努力が足りないし。蛍介に比べたら…」
「おお! 少年、そうなのか! 努力するのはいい事だぞっ」
「こ、この前は助けてくれてありがとう」




敏斗はバスコと面識があったんだね
さすがバスコ、優しいなぁ




「気にするな。少年は悪くない」
「うん…」

「ちっ!」
「…?」




何処かで誰かが舌打ちをした気がした
あれは――PPPの人だ




「ところで蛍介」
「ん?」
「俺も見学に行きたい」
「…え?」





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