HERO GIRL

□私とストーカー女とヒーローマン
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「んー。君、何処かで見たような?」
「あのっ。地味子ちゃんのお父さんですよねっ! 僕、コンビニの長谷川 蛍介です!」
「はせがわけいすけ…はぁあああ」
「えっ」




どういう訳か、いきなり大きな溜息を吐かれてしまった
僕、何かしたかな?




「先輩?」
「…なぁ、聞いてくれよ。地味子が蛍介君の事気になるんだって」
「え?」
「その内『彼氏でーす』とか言って紹介されちゃうのかなぁ」
「は?」
「参ったなぁ。晃司君たち、ちゃんと見ててくれないと…」
「あ、あのっ…」




よく解らないが、何だか落ち込ませてしまっている
こんな事をしている場合じゃないのに、どうにも本題に入れなくてもどかしかった

すると、部下の人もまた溜息を吐いた
ちょっとした苦労がかげに見えた気がする




「何を言ってるんですか先輩。彼はコンビニの子ですよ。ほら、バイトの」
「コンビニ? あ、蛍ちゃん?」
「そ、そうですっ」
「眼鏡をしていないから気づかなかったよ。凄い澄んだ目をしているんだね、君」
「えっと…ありがとうございます?」




何故か褒められてしまったので、曖昧なお礼を言っておく




「その蛍ちゃんが何で此処にいるの? 遊びに来たの? その格好で?」
「こ、この服の事は触れないでください…っ」
「あはは。ごめんね、おじさんどうしても気になっちゃって」
「これには事情があって――」




僕は、地味子ちゃんのお父さんに監禁されていた事や、友達が捕まって危ない事を話した
もう何度も繰り返したその話に、二人の向こうでおじさんが、聞き飽きたと言いたげな顔をしている




「か、監禁だって!?」
「…何それ。穏やかじゃないね」
「す、すみません。さっきも言ったとおり、こいつは酒を飲んで…」
「飲んでない!」
「はいはい。嘘はいいからさ」




このおじさんは、まだ僕が酔っ払ってでまかせを言っているんだと思ってる
このままじゃ埒があかない
頼れる人はもう、この人達しかいないんだ…!




「お願いです! 助けて下さい! 時間がないんです!」
「あのねぇ…この人は暇じゃないんだ。とってもお忙しい方で――」
「あんた、ちょっと黙っててくれる?」
「えっ…」
「ついでに給与査定も下げておこうか」
「そ、そんな…っ」
「困ってる人に耳を傾けない警察が何処に居る」




…おじさんは、膝から崩れ落ちる様に愕然としていた
地味子ちゃんのお父さんってそんな権限もあったんだ…
このおじさんのほうが年上に見えるのに、もしかして凄い人なのかな




「蛍ちゃん。おじさんにもうちょっと詳しい話を聞かせてくれないかな?」
「は、はいっ」
「先輩…そんな権限ないですよね。あの人可哀想っすよ」
「いい薬だろ。あぁ言う奴が居るから警察が駄目だと言われるんだ」
「ホント、警察の鑑っすね」




あ、実は権限がなかったのか
でもあのおじさん――立ち直れないみたいだなぁ




「緊急を要するから、車に乗って。友達が何処に居るか解るかな?」
「えっと――目星はつけているんです。これからその場所を聞こうと思って」
「誰に?」
「宝城って言う中華ラーメン店です。そこなら出前を頼んだ女の住所を教えてくれるかなって」
「宝城? 何だ知ってるよ。其処の店主は顔馴染みだから」
「ほ、本当ですか!?」




意外な答えが返ってきて、本当に吃驚した
地味子ちゃんのお父さんは顔も広いんだ!

スーツのポケットからスマホを取り出す
どうやら直ぐに電話を掛けてくれるようだった




「じゃあ長谷川君。今のうちに車に乗って」
「はいっ。…あ」





そうだ、まだ明里ちゃんのお姉さんが一緒だったんだ




「せっかく来て貰ったのに…すみません」
「いいえ。警察の方が一緒なら安心です。でも気を付けてくださいね。何があるか解りませんから」
「あ、ありがとうございます」
「私はこれで失礼しますね」




とても優しい言葉を投げかけてくれた彼女は、ぺこりと頭を下げてその場を立ち去った
言動のキツい人だと印象付けていたけれど、実は優しい人なのかな…




「日ノ出町の○○××。友達は其処に居るみたいだ」
「えっ? 其処って――」
「知ってるの?」
「ぼ、僕の家です!」

「「…は?」」




聞き慣れた住所を耳にした
其処は僕が住んでいる家だった
あの異様なインテリアから、何処かに誘拐されたものだとばかり思っていたけれど、実は違ったんだ




「本当に君の家?」
「はいっ。間違いないです!」
「…何にしても場所が割れてよかったね。じゃあ直ぐ其処に向かおう。乗って!」




足早に運転席に乗り込む部下の人
助手席には地味子ちゃんのお父さんが乗るだろうから、僕は後部座席を選んでドアを開ける

これでこっちの身体はもう大丈夫だ
あとは、家に着いてあのストーカー女を…




『助けて。ヒーローマン』




えっ。今、地味子ちゃんの声が聞こえた気が――

次の瞬間には、地味子ちゃんのお父さんがスマホを、物凄い勢いで耳に当てていた
僕も部下の人も吃驚だった




「もしもし。地味子…?」




電話の着信音だったんだろうか
着ボイスが自分の娘って、本当に大好きなんだなぁと思う
これが父親の普通なのかな? 僕に解らないや…

暫く彼の様子を見ていたけれど、何も言葉を口にする事なく、微動だにしなかった
地味子ちゃんと通話中じゃないのかな?
それにしては、表情がとても険しく――怒っているように見える
その異様な雰囲気を察してか、部下の人がゆっくりと車から降りた




「…先輩?」
「ど、どうかしたんですか?」




僕も恐る恐る聞いてみると、彼はゆっくりとスマホを操作してポケットに入れた
結局何も喋らないままだった




「んー…娘からのSOS」
「え?」
「何で君の家に居るのか解らないけど、地味子も其処に居るよ。今まさにストーカーと格闘中」
「えぇっ!?」
「はぁ…まーたどやされちゃうよ」
「し、心配ですよねっ。早く行かないと!」
「うん、そうだね」




…あれ。地味子ちゃんが危ないなら、血相抱えてもいいと思うんだけど
どういう訳か、彼は至って冷静だった
娘が危ないっている割には、とても落ち着いている気がする
すると、そんな僕の表情を読み取ったのか、少しだけ笑みを零した




「こういう時こそ落ち着かないとね。それに地味子なら大丈夫だよ」
「そ、そうですか、ね…!?」
「ちょっ!? いきなり寝るかな普通!!」
「は、長谷川君!?」
「あー。さっきもこうなったんですよねー。やっぱ酒ですよ、酒」
「あんたまだ居たんだ」




――いきなり意識が飛ぶなんて…


あっちの身体に何か遭ったのかな…!



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