HERO GIRL

□私とカフェとくまさん
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「…はぁ」




――裏口から店内に入ると、直ぐに壁に寄りかかった

それくらいに疲労は蓄積していたし、既に身体が参っている自分が居る




「お疲れ様。ありがとう」
「! いえ…」




自分を出迎えてくれ、労いの言葉まで掛けてくれるなんて、本当にこの人は優しいと思う

ただ、何処からともなく急に現れるのだけは心臓に悪い…
店内のサポートに入っている筈なのに、のんびりコーヒー飲んでるし
店は大丈夫なのか、ホント


漸く着ぐるみを脱げると、まずはくまの頭から取り外そうとする




「バイトの彼は何とか回復したみたいで、今はフロアに居るわ」
「そっすか」

「翔瑠君も少し休んだら――って、大丈夫? 顔が凄く赤いけど…」
「えっ…」




熊の頭を外すと、大量の汗がますます噴き出していた
涼しい微風が顔を撫で、それだけでも火照った顔には十分心地いい




「…あ、あぁ。着ぐるみですよ。これって結構暑いっすね」
「うーん。もっと涼し気になる様に改良してみないとね…」
「…」
「…翔瑠君。大丈夫なの?」

「だ、大丈夫です。忙しいんすよね? 着替えたら俺も店に戻りますから…」

「そう。じゃあ私もフロアに戻るわね。ゆっくり休んでから来なさい」

「はい」







…――パタン







「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」





店長が居なくなるのを見計らってから、ずるずると壁伝いに腰を下ろす
顔が赤いのが、暑さだけの理由じゃない事は、自分がよく解っていた

ごろんとくまの顔が目の前に転がって、つぶらな瞳と目が合う
その視界は、自分の両手によって簡単に塞がれた




「…畜生」




顔はずっと熱を持ち続け、心臓はバクバクと音が聞こえてきそうなくらいに高鳴っている



まだ残る、心地いいあの感触




随分と忘れかけていたそれを思い出した



募る想いを、今一度自覚せざるを得なかった…




「――あいつを抱き締めたのって、いつぶりだっけ…」




顔の火照りが収まるまで


心臓の高鳴りが収まるまで


俺は、その場から一歩も動く事が出来なかった




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