HERO GIRL

□私とコンビニとお客様は○○
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「おっと。仕事に戻らなきゃ。そろそろ蛍ちゃんが来る頃かな」
「…さよなら」

「『さよなら』じゃないですよ? こういう時は『またね』って言うべきです。だってまた会いたいですから。貴方に」

「…僕に?」

「今度はお客さんとして来て下さいね。サービスしますよ! 気持ちだけですけどね」




そう言ってにっこりと彼女は笑って居た
変わらない、僕の知る『地味子ちゃん』




「…訂正するよ」
「?」
「君は姉さんとは似てないや」




姉さんの影を追いかけていた、あの頃の僕は――もう何処にもいない

それから、急いで元来た道を走っていく彼女を、僕はずっと見つめていた




「さよならじゃなく、またね――か」




また、なんて事がこの僕に許されるはずがないけれど、その言葉は何故か心を落ち着かせてくれた



――カチン、と金属音が聞こえた

ふと見れば、電柱の影がほんのり明るくなった




「はぁ。漸くタバコが吸える…」




『彼女』に存在を知られたくない為か、呟いたその人は紫煙を深く吐いた
そっと出てきた、僕にとってはとても頭の上がらない人――




「…ありがとうございました。それとすみません。一目見るだけの約束を…」



本当は会話をすべきではないと解っていた
彼女の姿を少しだけ見て、それで終わりだったのだ

僕に気付いたとしても、ただの通行人と思ってくれればよかった



「優しい娘に免じて許してあげる。君の事、時々聞いてきたからさ。それなりに心配してたんじゃないかな」

「…」


彼女が僕を心配?

そんな事ある訳が――ない、とも言いきれなかった

それならばこうして僕を追ってくるはずがない
僕が僕であることに、気付いたことも納得がいく気がした




「さて。明日から君は忙しくなるぞー」
「…いきなり就職だなんて、信じられないです」





僕は社会復帰する


こんな僕に、最初から最後まで親身になってくれたこの人には、感謝してもしきれない恩があった



「大丈夫。受け入れてくれるところはいい人なんだ、君もきっと驚くよ」
「…?」







「ふんふーん」
「地味子ちゃんご機嫌だね。何かいい事あった?」
「えへへっ。何でもないよ蛍ちゃん!」

「地味子ちゃん、ポスター…」
「あぁっ。すみません店長!!」




――次に会う時は、名前ぐらい聞いてもいいよね





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