HERO GIRL

□私と幼馴染と踏み出す一歩
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――結局のところ、地味子は地味子のままだった

あれだけ悩んで吐き出した想いは何処へやら…


それは、俺だけが知っていることだ
俺だけが知っていればいい


バスコの気持ちにもこいつは答えてないだろうし…
そもそも、バスコが遠回しに言うのが悪い
言うならもっとズバッと――言ってたら、俺はきっと落ち込んでいただろうな…


自分の知らない所で、幼馴染達がいつの間にか彼氏彼女になってたら、相当へこむと思う
バスコだって、答えがない事に落ち込んでいたんだ




…その筈なのだが、バスコはそんなに気にしていないようにも見える
寧ろ笑顔だ、本当に


笑顔で食後の組み手を地味子としていた
スカートでやるのは本当にやめた方がいいと思う
皆には悪いが、バーンナックルが居なくてよかった
先に教室に帰って貰ってて、本当によかった!




「おい、バスコ」
「ん? どうした翔瑠。お前もやるか?」
「いや、いい…お前、結局地味子の事――」
「おい、地味子!」
「雨宮? なにー?」
「お前、バスコに返事をしたのかっ!?」





空気の読めない奴が来たー!!!

何考えてんだこいつ
いきなり直球で聞くことか?

いや、バスコや地味子にはそれが一番なんだろうけど…
周りに誰もいないようにしていたのが幸いだった

でも当事者だぞ、こいつら!




「返事?」
「バスコの事、どう思ってんだよ? す、好きなのかっ?」
「えっと…好きだけど?」
「んなっ!?」




雨宮は思い切り驚いていた
サラッと言う地味子だけど、あれは…うん、そうだろうな




「じゃ、じゃあ翔瑠は!?」
「おい、先輩を付けろよ…」
「え、好きだけど」
「ええええっ!!?」
「雨宮、驚きすぎ―。何か変なこと言ったかな?」
「いや、お前…っ。はぁああっ!?」




口をパクパクさせて、まるで金魚みたいだ
事の展開についていけないようで、動揺しているのがまるわかりだった

お前の反応が正しいよ、雨宮…



「頭がパンクするぐらいなら、二人とも好きでいた方がいいかなって」
「何だこいつ!?」
「頭がパンクしたのか地味子。大丈夫か、心配だ。病院に行こう!」
「揃いも揃って馬鹿かよ!」




…結局のところ、何も変わっていない気がする
寧ろガキっぽさに拍車がかかったようだ
余計タチが悪くなったぞ

でも、バスコはどう言う訳か嬉しそうだ




「嬉しいな翔瑠。地味子が好きだと言ってくれたぞ!」
「そ、そうだな」
「それでいいのかっ!?」
「どうした後輩?」
「お前が本当にどうした、だよっ!!」
「…痛い」



相変わらず、雨宮はバスコに対して容赦がない
拗ね蹴りは、流石のバスコにもキツいだろうな、泣いてるし…




「あーあ、泣いちゃった」
「お前もだよっ!?」
「雨宮どうしたの。あ、もしかして好きって言って欲しかった?」
「はぁ?! んなわけねー!」
「はいはい。ちゃんと好きですよー」
「ちゃんと!?」



ぎゃあぎゃあと言うのは主に雨宮なのだが、地味子と言い合いになっている様子を、バスコが何だか微笑ましく見ていた




「…ま、いいか。前に進んだ結果がこれだもんな」



地味子とバスコが前に進んだのではなく、其処に俺が加わった
結局のところ、三人揃って前に進む形になった

何も変わる筈がなかった

幼馴染も

関係も

何一つとして


ガラス細工みたいな関係もまた、綺麗なままの形で保っているようだ


もう少し、もう少しだけこの関係が続くことを、ちょっとだけ嬉しく思う




ただ、強いてあげるのなら――

ほんの少しだけ、地味子が自分の気持ちに気付いてくれたことだろうか



俺ではなく

バスコへの気持ちに







「…バスコ」
「何だ?」
「俺、地味子が好きだ」
「…」



黙ったままのバスコの顔を、しっかりと見据えた

馬鹿をやる二人を傍観して、ただの幼馴染を演じて笑うのはもう止める
自分の気持ちに眼を逸らすのはもう、止めにしたんだ




「ずっと黙ってた。悪い…」
「あぁ、知っている」
「! …そうか」
「幼馴染だからな。あと、俺も好きだ。地味子の事」
「知ってる」




密かに告白されていると言うのに、地味子は雨宮とまだ言い合いっていて聞こえていない
その方がいいのは、お互い様だろう

ずっと言えなかった気持ちを吐き出したら、何だか笑いがこみ上げてきた




「はは…ライバルだな、俺達」
「そうだな。これで筋は通った」
「筋…?」



何のことだと考えて思い出したのは、遠足で行った遊園地だった
あの時も、『筋は通すべきだ』と彼は言っていた気がする




「もしかしてお前、遊園地で言ってたのって…」
「翔瑠の気持ちを知っていたからな。フライングはなしだ」
「…俺に遠慮してたのかよ」




何処までも馬鹿だと笑い飛ばすしかなかった



「すまない」
「何言ってんだよ。気にすんなって、もう腹は括ったし」




それに――




「選ぶのはあいつだ」



自分達の幼馴染であり、思いを寄せる彼女を見て思う




「バーカ! 雨宮のバーカ!」
「餓鬼かよ! バーカ!」
「馬鹿っていったほうがバーカ!」
「それ言ったらお前が馬鹿だからなっ。この鈍感!」
「ちょっと何言ってるか解んないです、理央ちゃん」
「理央ちゃんって言うな馬鹿!!! 雨宮って呼べ!」




自分より一つ下の後輩と言い合う姿は、小学生、いや幼稚園児すら彷彿させる


どっちも馬鹿だよお前らは…
人が集まり出していることに気付かないんだからな





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