HERO GIRL

□ノートとカレーとお袋の味
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そして翌日――



「地味子ちゃん、これ」
「何これ。手紙?」



学校で蛍介から差し出された、一通の手紙
何だろうと首を傾げていると、傍に居た美怜ちゃんが言い出した



「えっ。蛍介が地味子にラブレター!?」

「「ええっ!?」」



途端にクラス中の眼は此方に注がれる
そんな注目よりも、美怜ちゃんの声に一番驚いたんだけど?



「え。困るよ蛍介。私はまだ死にたくない」
「どういう事!?」
「クラス中の女子からの視線が痛いんだ。私、きっと殺されるんじゃないかな」
「ちっ、違うよ! そんなんじゃないんだっ」
「やだ。慌てるところがますます怪しいー!」



それくらいにしてあげて美怜ちゃん
私も蛍介もどうしていいか解らないから



「美怜ちゃん、違うからこそ慌てるんだよ」
「解ってますー。蛍介だって地味子にお髭の人が居るって知ってるもんねっ」
「は、はは…」



このネタは何時まで引っ張られるのやら…



「えぇと? ごめん蛍介。何だっけ」

「母ちゃん――蛍介のお母さんから、地味子ちゃんにって。ほら、昨日の煮物の…」

「煮物? あ。ホントだ」



受け取った手紙は、ご丁寧にも封筒に入れられていた
中を開けると、手紙には優しい字で『また来てね』と言う事と、蛍ちゃんを宜しく
あと、煮物を食べた感想と改善点が事細かく書かれていた

どれだけダメダメだったか解る、私の料理事情は置いといて…
蛍ちゃんのお母さんは、更に煮物を作る際の切り方、染み込ませ方など、煮物のエキスパートになれるんじゃないかっていうくらいに、細やかなやさしさが其処にあった




「ヤバい。涙ぐみそうだ…」
「地味子、煮物って? お料理? 勉強してるの?」
「うん、まだまだなんだけどね」
「あ、お弁当とか、お髭の人に食べさせるの? やるぅ!」



誰もそんな事は言ってないのだが…
まあ、否定はしない
勉強中とだけ言っておこう




「今は無理。絶対にお腹壊して、救急搬送されるから」
「そこまでっ!?」
「蛍ちゃん大丈夫だったかな。おばさんも…」



早速煮物を食べてくれたのは嬉しいが、身体の調子は大丈夫だろうか
もしかしたら、本当に救急のお世話になったりとか…
どうしよう。菓子折りを持ってお見舞いに行くべきだろうか

心配しすぎて、逆にガクブルだった



「だ、大丈夫だと思うよ。蛍介は元気だったし、おばさんも」
「そ、そっか。よかったー」
「あっは! 地味子の料理って殺人級なの? 命が幾つあっても足りないじゃん!」
「美怜ちゃん、笑いながらでもいう事は酷い…」



そして言い返せないのが悔しい




「ありがとう蛍介。凄く嬉しい!」
「どういたしまして」
「いいなぁ。私もぶーちゃんのお母さんに教わりたーい」
「美怜ちゃんは料理するの?」
「全然! 今からでも花嫁修業頑張ろうかなぁ。ぶーちゃんの為に…なーんてね!」



花嫁修業…?



「今度、お弁当作ってぶーちゃんに持って行こうかな。差し入れ!」
「それいいかもね。蛍ちゃんてば、いつもコンビニの廃棄食べてるからさ」
「うんうん! せっかく運動してるんだし、身体にいいもの食べてもらわないとっ」
「(ぼ、僕に美怜ちゃんが手作り!? ちょっと嬉しいかも…)」



美怜ちゃんがお弁当作りに熱を入れているようだ
凄いなぁ、私にはまだお弁当作りなんて高度な技術、備わってないよ

お昼はいつもパン争奪戦一択だから
幻のパン、これは譲れない



「お弁当かぁ。私にはまだ作れる気がしないなー」
「えー。冷凍食品詰め込んで終わりでしょ?」
「それくらいなら私も出来るんだけど…蛍介はどう思う?」

「欲を言えば、美怜ちゃんの手作りな物が一つでもあった方が。蛍介も嬉しいんじゃないかな? なんて…」

「も、勿論卵焼きやタコさんウィンナーとかも入れるわよっ!? やだなぁ蛍介。おほほほ!」

「美怜ちゃんがおかしい」



美怜ちゃんのお料理事情は、私と似たようなものだったことに、安心していいのかどうかは解らないけど…


とにかく、おばさんありがとうございます!

早速作ってみたいと思います!






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