HERO GIRL

□私と幼馴染と彫り師のお兄さん
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回転率が速い筈の牛丼屋
自分達以外にも食べている客は多く、待っていてもなかなか来ない

注文してからまだ5分も経っていないのに、早くも俺はイライラしていた
腹の減り過ぎって言うのもある



「明日が楽しみだなぁ。蛍ちゃんにも、新しいジャージを自慢しよう!」

「あいつはどうなんだ、バスコ」
「蛍介は運動を頑張っているぞ」
「前みたいに間食はしなくなったけど、まだ食べる量は多いかも」
「よく食うもんな、蛍介」



毎日筋トレをして、鍛えていると聞いているが…
なるほど、日々の努力は裏切らないと言う事か



「…何だ。お前ら三人だけじゃないのか?」
「バイト先が同じ人が居るんです。蛍ちゃんって言うんですけど」
「あのコンビニか」
「そう言えばお兄さん、あれ以来なかなか来てくれませんよね」



あぁ――施術代を教えちまった時か



「あれ以来?」
「うん。私の値段を教えてくれたの」

「「…は?」」

「おい。勘違いさせるようなことを言うんじゃねぇっ」
「だって本当の事――あ、牛丼来た」



話しが途中になってしまって喜んでいいのか、悪いのか…
とにかく、人数分の牛丼がそれぞれに行き渡ったところで、漸く飯にありつく

うん、旨い



「もぐもぐ…お兄さん、また来て下さいね!」
「家からあのコンビニに行くまでに、何軒かコンビニを通るんだが?」
「私に会いに来てくれてもいいんですよ? サービスします、気持ちだけ!」
「お前、そう言うの誰にでも言ってんの?」
「まさか。あ、でもこの前犬を連れたお客さんに、同じ事言いましたけど」



…誰だ、こいつに変な教育をしたのは
あの親父か?
いや、娘を溺愛していたからそれはない、か…?



「その内、変な奴に引っかかるんじゃねぇの、お前」
「すみません。味噌汁もくださーい」
「聞いてねぇし…!」
「だ、大丈夫です。俺達が見てますからっ」



そう言ったお前が、一番の苦労人みたいな気がするけどな
まあ、こいつらが居るなら安心か
見ただけでも牽制になるしな
半分は刺青効果って言うのも、あるかもしれないが――



「翔瑠、ミルクが飲みたい」
「帰りにコンビニ行こうぜ、バスコ」
「解った」
「私はアイスが食べたいなー」



三人に彫られた刺青
それぞれの胸や腕には、青い鳥が刻まれている
他にも色々と施してはいるが、印象的なのはそれだった

未成年への施術は違法
捕まっても文句は言えないが、何とか今日まで無事に仕事が出来ている



「やっぱり味噌汁は、豚汁に替えて貰っていいですかー?」



それを言うのも、こいつの父親が手を回してくれたからってのが大きい

そう考えると、一応感謝をすべきなのだろうか――…



「その、なんだ…お前ら、たまにはそれを見せに来い」

「「え?」」

「若い奴らは喧嘩ばっかりするからな。たまにはケアしてやらないと…特にお前だ」

「む」

「気が向いたらでいいぞ」
「解った。ありがとう!」

「…ふん」



幾らガタいよく成長しても、その笑顔は相変わらずだった



「すみません、追加で牛皿くださーい!」
「お前はドレだけ食うんだよっ!?」
「あはは。なんかお腹空いちゃって」



既に彼女の前には、空になった丼が一つ…



「並盛じゃ足りないってか!」
「地味子、太るぞ…」
「あ、明日からまた頑張るもんっ」
「それは自己管理が出来ない奴の言う台詞だ」

「うう…お兄さん、それもからかってるって事でいいよね?」



解釈は自由だ、馬鹿野郎




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