HERO GIRL

□私と幼馴染達
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幼い頃から、彼女は男の子に混じって遊ぶような、活発な子だった


おままごとやお人形遊びなど、女の子らしい遊びは全くと言っていいほど皆無で、よく遊びに出掛けては傷をつくって帰ってきた


その度に母は娘を叱る
父は元気がいいなと笑い飛ばしては、母に叱られていた
ちょっと不憫だった


ボール遊び、鬼ごっこ、かくれんぼ、ヒーローごっこ…
とっぷりと日が暮れるまでずっと、地味子は身体を動かすことが大好きだった









「貴女、春から中学生なのよ?」
「うん?」




中学に入ると、流石に母も娘を心配し出した



「せめて髪は伸ばしなさい。女の子なんだから」
「んー…考えとく」



今までずっと髪は短く、肩まで伸ばすなんてことは一度もなかった
身体を動かすことが好きだった私は、正直今の髪の方が楽だったのだが、周りの友人たちも徐々に髪を伸ばし始めたのを見て、何となく自分も伸ばしてみようと考える

邪魔になったら切ればいいし、一度長くしたら母も文句は言わないだろう
そんな安易な考えで髪を伸ばし、中学生になった

ちょっとだけ目が悪くなってしまい、心機一転で眼鏡をかける事にした




「地味子がスカート!? ぷぷっ…!」
「何で笑うの!?」
「眼鏡、初めて見た…!」
「こっちは何で驚いてるの!?」




中学からは制服というものを着るらしい
男子、女子と服装が決まっていて、私はこのスカートというものが苦手だ
ヒラヒラして動きにくい
あとスース―して気持ち悪い
両隣を歩く男子二人が羨ましかった




「あーあ。翔瑠、制服交換しよ? 私がそれ着るから」
「はっ!? お、俺はそんな趣味ないから!」
「えー? じゃあ、晃司…」
「…」
「…ご、ごめん。そんなに泣かないで?」




中学生になっても自分は変わらないと思っていたけれど、周りの変化に徐々について行くのに気が付いた
思春期というものか、ある日から男女の関係がまるで壁のように感じられた
小学校から遊んでいた男子も、私とつるむことをしなくなった

男子は男子、女子は女子と言ったようにいつの間にか線引きされているようで、なんだか居心地が悪い
女子同士の会話なんて何を話していいのか解らないし、休み時間も思いっきり身体が動かせない事が歯がゆかった


時に孤立することもあれど、二人が居れば楽しさの方が上回った
自分の問題なのだ――解決するのもまた自分…どうしたらいいのかなんて解らない


昔はドッジボールや鬼ごっこなど、毎日のようにやっていたが、流石に中学に入ってまで、しかも女子がそれに乗ることはない

それでも男子に混じって遊んでいれば、どういう訳か『気があるのか?』とか言われる、意味が解らない


女子からも同じような事を言われ、終いには仲良かったはずの女子から嫌われてしまう始末、これも意味が解らない


やはり自分が子供すぎるのだろうかと考えたのは、髪が両肩にかかるくらいに伸びた頃だった




「地味子。一緒に帰ろうぜ!」




居心地の悪い中学生活だけど、唯一の楽しみと言えば登下校ぐらいだ

毎日のように私のクラスに来ては、こうして声をかけてくれる




「駅前にハンバーガー屋さんが出来たんだってよ!」
「え、ほんとに?」
「帰りに食いに行こうぜ。な、晃司?」
「…寄り道は、ワルだ」
「お腹すいたから行こうよ。晃司!」




しかし、だが…と堅苦しい話し言葉をする晃司はいつもの事だ
こうして何かを提案しては否定するのだが、結局翔瑠に連れ回されている事が多い

そして、何故かほろりと泣く




「何で泣くの!?」
「今日は部活ないんだろ?」
「うん。今はテスト期間だから」




テスト期間中は原則として部活動も禁止だ
中学に入った時、運動系で何に入るかとても迷った


幼い頃から体を動かすことが好きだったため、出来る事ならすべての部活動を!と意気込んでいたところ、担任からは『無理だ』の一点張り
そりゃそうだと、翔瑠からは思い切り笑われたのを、鉄拳制裁で黙らせたのはいい思い出だ


その見事なストレートに『ボクシング部は?』と、晃司が口にしたのだが、生憎うちの学校にそんな部活はない




結局選んだのは、空手部だった
勿論女子空手部なんてものは存在しない

部員は全員が男子だったが、迷わず入部した
当初は男所帯に女子が一人と言うことで、かなり戸惑われた
自分を見る目が異様に気持ち悪かったのを憶えている
勿論すべての眼が、と言うわけではない


顧問のおじいちゃん先生がとてもいい人で、女子でも歓迎してくれた
これを機に女子部員も増えてほしいとのことだったが、残念ながら自分が卒業するまで、一人も来ないと言っておこう

そして寧ろ男子部員がさらに増えることになる





「待ってて。すぐに鞄用意するから――」


「勉強もせずに男と遊ぶなんて違うわねぇ」





鞄に教科書を入れる手が、ぴたりと止まる




「余裕なの? もしかしてアッチの遊びも優秀なのかしら?」




教室の中で、そんな声が聞こえてきた
くすくすと笑う声がとても耳障りだ





「何言ってんだ? 地味子はバカだぞ。勉強出来ないからな!」
「あぁ、そうだ。俺と一緒だからな。バカだ」
「二人とも、バカバカって言わないでよ! あと晃司、真剣な顔して言わないでくれる!?」





誰がそんな言葉を発したのかなんて、解り切っていた
このクラスの女子の中を牛耳る、リーダー的存在だ
中学生の身でありながら、髪を染め、メイクをし、スカートを短く制服を改造している
おまけに巨乳…胸の谷間がブラウスから丸見えだ


…自分と比べると――殺意が湧くほどに


一見してケバケバしい印象の彼女は、何かと自分に絡んでくる
正直しつこい





「私達、そんなんじゃないけど」
「あら、謙遜?」





くすくすと笑うこの女子は、同じ中学生にしては実に大人びている
言動も、スタイルも

噂じゃ大学生と付き合ってるらしいが、その情報源も彼女自身が話している事なので、あまり信憑性がない
彼女にかかれば、他の女子の存在なんて月と鼈なのだろう


中学生なんて所詮子供だ
明らかな校則違反の象徴である彼女は、全てを見下している
しかし、誰一人としてそれに抗うことはない

クラスを牛耳るリーダー的存在だ
彼女の一声で、たった一人を標的に虐めだって巻き起こる…





「謙遜も何も――本当の事だけど」
「ふふふ…ねぇ、どっちとヤッたの? まさか両方?」
「は、ヤる? …意味わかんない」


「ねぇ、またやってるよ」
「と、止めたほうがいいんじゃない?」




ざわざわと次第に教室内がどよめきだす
この女子は――名前も覚える気がないが――何かに対して私に喧嘩を吹っかけてくる

正直、彼女は好きになれない
人を外見で判断するのはとても嫌なことだし、何より知りもしないで勝手なことばかりを口にする

彼女とはクラス替えで今学年が初めてだが、その時から余りいい印象を持たれてなかった気がする

初対面での挨拶をしなかったとか、たったそれだけの事だ
クラス全員から崇められたいのだろうか、まるで女王様だ


自分以外の人間は全て言いなりにならないと、気が済まないのかもしれない
一緒に居る男をとっかえひっかえ、男遊びがうまい女、なんてことを言われたことがあったが、あれは単に小学校の延長だ


小学校の頃と同じで、男子と遊ぶことに抵抗を見せない自分に、徐々に打ち解けていく男子がちらほらいただけである





「あー…なんだ地味子。取込み中?」




クラスの微々たる変化に気づいたのか、翔瑠は言いにくそうに口にする
彼はそう言った変化にとても敏感だ
不思議そうに首を傾げる晃司とは訳が違う、そしてたぶん何も解ってない




「ううん、大丈夫。行こう?」




気にせず鞄に必要なものを押し込んで立ち上がる
早いとここんな教室からおさらばだ、お腹もすいたし…

すると、ふわりと香りが鼻を擽った
それは決して良いとは言えないもので、教室に居る誰もが嗅いだことのある――彼女の香水だった

香水の匂い全般が苦手な自分にとって、この教室は苦痛でしかない





「ねぇ、遊びに行くならあたしも混ぜて?」
「あ?」
「あの子じゃ物足りないんじゃない? あたしなら…あの子よりももっと楽しませてあげられるけど…?」





二人の前で彼女がそう言った
確かに彼女は綺麗だ
クラスの男子が羨望の入り混じった表情で、その姿を追うのも解る
彼女と付き合いたいと思うことだってあるだろう
正直、彼女は自分を解っているし、どう動けば喜ばれるのかだって理解している


今だって、上目遣いに晃司に迫り、胸の谷間を強調させていた
晃司だって男子だ
まだまだ発展途上な魅力的な身体を前にして、心揺らがない筈がない――と思う

なんかきょとんとしているけど



じくり、胸の奥が嫌な気分だった
理由は解らないけど



「…楽しませてくれるのか?」
「こ、晃司!?」
「えぇ、勿論よ」




彼女はにやりと笑っていた



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