HERO GIRL

□私の夏休みと水玉
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待ち合わせ時間の10分前に到着した
普段から時間には気を使っているため、遅刻の心配はない
しかし、その集合場所には既に美怜たち三人の姿があった事に、地味子は驚いて駆け寄ってしまった




「こ、こんにちは。遅くなってごめんね?」
「そんなことないよー。ほら、まだ10分前だし!」




美怜は笑いながら自分のスマホを確認する
確かにそうなのだが…と、地味子の眼は隣の瑞希に向けられる

あれ、何だか怒ってる…?
流星が怒ったような顔なのはいつもの事なのだが、彼女の場合は違う




「み、瑞希ちゃん…?」
「地味子。…どうしたの?」

「いや、どうしたもこうしたも――や、やっぱりもっと早く来るべきだった!?」




びくびくと瑞希の表情を窺うと、途端に彼女はきょとんとして…




「ふふっ。そんな早く来ても待つの大変でしょー?」





くすくすと笑いだした
よかった、いつもの瑞希だとホッと胸を撫で下ろす




「っていうか聞いてよ。この馬鹿ったらさっき道端で人を殴ったんだよっ」
「えっ」
「あれはあのデブが、瑞希に声を掛けるから…!」



帽子キャップを前後逆に被った流星が反論する
彼の機嫌がいつもより悪いような気がしたのは、そのせいなのかと地味子は思った




「ただ声を掛けられただけじゃない。しかもその様子がもうSNSにアップされてるの!」
「うわぁ。あの人だかりってそれだったのね」
「ちっ。思い出しても腹が立つぜあのデブ」




瑞希に関する事には、途端に機嫌が悪くなる流星だ
幼馴染と言う言葉だけでは表せない何かがあるのだろう

…幼馴染か
ふと、あの二人を思い出した
確かに彼らに何かあれば、自分も黙ってはいられない




「流星はホントに瑞希ちゃんが好きなんだね」
「はっ!? おまっ…そんなんじゃねーって!! よ、よくそんな事言えるな!」
「えっ。素直に思っただけなんだけど…なんかごめん?」

「(タチ悪ぃ…)」
「あははっ! 流星、顔真っ赤じゃーん!!」
「てめーは黙ってろ、美怜!」
「ひどーい!! こんなやつ放ってもういこ!!」




瑞希はただ笑って頷いていた

夏休みともあって、繁華街は人で賑わっていた
初めてのお出かけ しかも友達と
地味子は何をどうしていいのか解らず、ただ美怜と瑞希の傍を離れないように歩いた
人混みにはぐれてしまえば、もう2度と二人に会えないと大げさなまでに本気で思っていたからだ
着いていくの必死だが、自分達の後ろから流星がしっかりついてきているのを確認するのは忘れなかった


ウィンドウショッピングで服を試着したり、コスメを試したりと、一人では億劫だったことも友達となら楽しめる気がした
しかし、男の流星にはその居心地の悪さが半端ない
その顔には少々の苛立ちはあるものの、きゃあきゃあ楽しそうな瑞希の顔を見られるので、それは彼なりに我慢しているようだ





「うぷぷ。流星の奴、イライラしてるわね」
「美怜ちゃん、面白がっているみたいだけど…」




何軒目かの服屋を巡って、目ぼしいアイテムを手にした美怜が、店の外で待機する流星を見て笑った
こっそりタバコを吸って、道行く人にメンチ切ってるではないか




「実は瑞希って流星から映画に誘われてたのよ」
「えっ」
「デート…と思うでしょ? でも、その後なんか私も呼ばれて、それなら地味子も呼ぼうってなったの。勿論瑞希が言い出したことなんだけど…あいつにしてみたらがっかりだったかも」




うぷぷ、と美怜はまた楽しそうに服を選んで手に取っていた

男女のデートというものがいまいち地味子には理解できなかったが、自分が居る事で流星が苛立っているのなら、何だか悪い気がした




「瑞希は何とも思ってないと思うのよね。今は」
「今は?」
「ほら、流星って格好いいでしょ。幼馴染で近くに居過ぎたから、きっと気づかないだけなのかも」
「ふぅん?」




美怜の説明に思わず首を傾げる
近くに居過ぎて気づかないとは、どう言うことなのだろう?




「私もあいつは狙ってたんだけどねー」
「えっ、美怜ちゃんが?」
「でも、顔は良くても性格が…いや、でも良い奴には違いなんだけどね。面白いし。何せ、お酒を飲んだときとか――」

「…ん? お酒?」




聞き捨てならない単語に、ピクリと反応する




「あっ!? これ、探してたやつだー!!」
「ホントだ。美怜ったらずっと欲しいって言ってたものね」




しかし、美怜はそれよりも気になるアイテムを見つけたようで、直ぐに購入を決めたらしい
いつの間にか瑞希が戻ってきていた
その手にはいくつかのアイテムがある
なるほど、女の子はそういうものを着るのか…とこっそり勉強になった




「ちょっと買ってくる!」
「私も。地味子は何かいいの見つけた?」
「ううん、特には。じゃあ先に店の外に出てるね」




キラキラした内装
煌びやかな品々
華やかな店員さん…瑞希や美怜が居たから、何とかなったけれど、今は一刻も早く此処から出たかった




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