HERO GIRL

□私の夏休みと水玉
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正直言おう…キラキラしすぎて逆に居心地が悪い!
半ば逃げる様に店の外に出て、流星の元に駆け寄る
その切羽詰まった様子に、彼は少しだけ驚いていた




「お前、どうした?」
「キラキラコワイ」
「は? なんでカタコト?」
「眩しすぎて私には直視できません」




思わず両手で顔を覆えば、流星は訳が解らないと溜息を吐いた

先に出てきた地味子と、まだ店内に居るであろう瑞希と美怜を交互に見る




「女ってこーいうとこ好きなんじゃねぇの?」
「全員が全員、好きとは限らないの。私には居心地が悪い」
「ますますわかんねぇ…けど、それは男が言うセリフだ」




普通のレディース服ならまだ我慢できるが、此処は…何と言うか、居心地が悪すぎる
何処に居ても女の人の視線が気になってしまうのは、彼が男だからと言う理由に他ならない





「…俺が居るって解ってて選んでるんだからな、あいつらは」
「下着専門店って何。なんかスケスケしたやつとかキラキラした奴とか、あっ、紐の下着もあった! 二人とも買ってた!」

「そんな報告要らねぇっ!!」




顔を真っ赤にして叫べば、またじろじろと通行人に見られてしまった
この場所に待機しているのは、瑞希が此処に居てほしいと言うから仕方なくいるだけだ
この、下着専門店の前に――
そして男が一人で立っていれば、店の前を通る通行人と絶対に目が合ってしまう
その度に睨んでやった、ぜひとも見ないでほしいからだ




「あんな場所、私は2度と入らない」
「お前は女だろ。何で苦手なんだよ」
「あんな薄い布きれで一体何が護れると言うの。第一動きにくい」
「…高校生だろ、てめーは。そういうのだって、その…つけるだろ」




言葉を選び、流星は恥ずかしがりながら言う
しかし地味子はますます困惑した




「スポーツブラでいいじゃない」
「はっきり言うな! っていうか、お前…マジかよ」




高校生にもなってそれを付けているのだろうか
確かに瑞希と違って、まな板のようなそれをちらりと盗み見る
すると、彼女は不敵な笑みを浮かべた




「それかサラシ?」
「窮屈じゃねぇの。って、そんな心配ねぇか」




またもやちらりと盗み見る
そんなまな板ならば、着けても着けてなくても一緒だろうと…
って、自分は何をやっているのだろうと頭を振り、我に返る




「お前、ほんとに女だよな…?」
「何言ってるの。女だよ? スカート履いてるし」




ひらりスカートの裾を持ち上げる
世の中には、男の娘というものが居る事をご存じだろうか
きっと、彼女はそれを知らないのだと流星は思った




「女ってもっとぎゃーぎゃー言うと思ってた」
「なぁにそれ。偏見? 人それぞれだよ」




世間知らずと言えば聞こえはいいが、瑞希や美怜との会話を聞く限りでは、女の子らしいといった事に触れて来なかったようだ

今回遊びに誘った事もそうだが、女友達との交流が乏しい
戸惑いや困惑している場面をこの半日でどれだけ目にしたことだろう
瑞希は優しいから、そんな彼女に対して邪険にはしない
美怜もまた楽しそうに彼女と行動を共にしている


――楽しいのならそれでいい、か…





「お待たせー!」
「おせーよ」
「流星聞いて。瑞希ったら凄いの選んでたのよ! スケスケの奴!」
「ちょっと、美怜…!」
「おまっ…! だからそう言う報告要らねぇって!!」




程なくして瑞樹と美怜が店を出てきた
購入したアイテムの入った袋を抱え、嬉しそうな表情だ




「そうね。別に流星に見せるわけでもないんだし」
「うっ。み、瑞希…それを誰かに見せるってのか??」
「さあねー」




がっくりと肩を落とす流星
瑞希はその様子を楽しんでくすくす笑っていた





「そうそう。これ地味子にあげる!」
「え?」




美怜から受け取ったのは、彼女達が持っている此処のお店のロゴが入った小さな袋
一体なんだろうとそれに目を落としていたら、瑞希はニコニコしながら言った




「私達で選んだの」
「いいの?」
「水玉も可愛いけど、こういうのもいいかなーって。ね、美怜?」
「うんうん!」





やけに二人の笑顔が眩しく感じられる
女友達からのプレゼントなんて、涙が出るほど嬉しいものだ




「あ、ありがとう! 大事にするね!」
「着てみて感想聞かせてね!」
「あ、服なんだ」
「服って言うか…あ、見るのは帰ってからのお楽しみね」





中を見ようとしたら、瑞希に可愛く制止されてしまった
断りもせずに確認しようとしたのが不味かったのだろうかと、地味子は肩を落とす




「お前…間違ってもそれを今あけるなよ」
「何で流星が?」
「…考えりゃわかんだろ」




そう言って流星はふいっと顔を背けた
一体何なんだ、とりあえず今は見ないほうが賢明なのかもしれない
しかし、このプレゼントは一生大事にしよう、地味子はそう思った




「買い物はもう済んだのか?」
「うん、待っててくれてありがとう。流星」
「べっ、別に…瑞希が行きてぇって言うんなら…っ」
「ねぇねぇ、今度はゲーセン行かない? プリクラしたい!」





美怜の提案に流星は少しばかり目を輝かせた
今まで自分が入りにくい店ばかりを選んでいた為、そのストレスは半端ない
何処かで発散させたいと思っていたところだ、プリクラは撮る気しないが、美怜にしてはいい選択をしたと思う




「そうね。じゃあ行きましょうか」
「プ、プリクラ…?」




プリクラって、あのプリクラ?
しかも女の子同士で!?――其処に流星はいない――今日一番の難易度高いミッションではないか!


プリクラなんて…小さい頃に晃司や翔瑠と面白半分に撮った記憶しかない
自分も晃司もどんな顔をしていいのか解らず、証明写真のようになってしまった記憶しかない
翔瑠はどうしてあんなにもはっちゃけた笑顔だったのだろう

そのプリクラは、自分の机の上に今も大事に飾ってある
ちゃんと額縁に入れて





「地味子? もしかして初めて?」
「ううんっ。晃司と翔瑠――あっ、幼馴染と撮ったことあるよ!」
「って事は、女の子同士では初めてってことね」
「瑞希ちゃん、エスパー!?」
「(今の流れで解るだろ、普通…)」




しかし、口には出さない流星だった



ゲームセンターに来るのは、中学校以来だ
休日には晃司や翔瑠と一緒にパンチングマシーンやハンマーショットなど、力比べと称して記録を競い合って遊んだ
そう言えばUFOキャッチャーをしたけれど、晃司は全く取れなかった
翔瑠はこう言う繊細な遊びは得意と言って、いくつかぬいぐるみを取ってくれたっけ
…後で晃司が泣いていたのも記憶に残っている

このゲームセンターは比較的遊べる種類が多く、店内も広い
人で賑わっていても、息苦しさを感じさせなかった




「あー。凄い混んでるみたい」
「そうねぇ」




当然、プリクラ機周辺も人で賑わっている
主に女性客が多く、中にはカップルで来ているのか男性客もいた
ここなら流星も気兼ねなくいられるなと、彼の方を見ると――


ドゴォオ!!!



…物凄い音がした
同時に大当たりのような軽快な音が鳴り響く




「ふぅ。こんなもんか」
「うわー、凄い。記録更新!?」
「うぉっ!? ビビらせんなよ…」




流星がパンチングマシーンで最高得点を叩き出していた
先程の音はそれだったのかと納得する




「凄いねっ! 流石流星!!」
「そ、そんな褒めてもなにもでねーぞ」
「ね、ね、もう一回出来るみたいだね!」
「…聞いてねぇ」




記録を更新すれば、ボーナスでもう一度パンチングマシーンで遊ぶことが出来る
流星は再びパンチングマシーンの前に立つと、スッと構えた




「(あ、ボクシングの構え…)」





口に出さなかったのは、彼が集中している時を乱したくなかったからだ
流星が構えるスタイルから目を離さず、しっかりと前に出されるストレートを静観する




ドゴォオオ!!




先程よりも大きな音が響き渡る
これがボクシングか、と地味子は目をキラキラさせた




「うわー、うわー!」
「…お前もやってみろよ」
「えっ。ど、どうしようかな…」




ちゃりん、とパンチングマシーンにコインが投入される
自分じゃなく、流星が入れたものだ




「ほら」
「えっ、えっ」
「はやくやれよ」




起動するパンチングマシーン
あたふたしながらも、地味子はパンチングマシーンの前に立つ
先程の流星が出した記録を見て、ギャラリーが集まり出していた




「何だ? 今度はあの女の子がやるのか」
「いいぞー。やれやれー」
「いいセン言っても結局女だからなぁ」




そんな声を耳にしながら、流星はにやりと笑う
此処に居るギャラリー共は、この女の凄さを解っちゃいない
ドロップキックをかますほどの身体能力だ
おまけに空手や格闘技に通じている分、其処らの女子には引けを取らない強さを持っている筈…

彼女をパンチングマシーンに立たせたのは、どれだけのパワーがあるかを測り知る為だった




「…ふぅ」




一呼吸おいて、地味子はパンチングマシーンを見つめる
高校に入ってから、これで遊ぶのは初めてだった
今の自分がどれだけ強くなったのか、知りたいと言うのは確かである


集中しよう――

店内の喧騒
耳障りなギャラリーの声
そこらじゅうで聞こえるゲーム機の音


その全てをシャットダウンし、集中する
無音――そして、静寂が自分の中を支配した



先程流星が見せてくれたボクシングの型をそのまま、トレースするように地味子は構えを取った




「(――あいつ、経験者なのか…!?)」




驚くのも無理はない
その型は流星の見せたボクシングスタイルそのままなのだ




ぐっと拳を握り締め


勢いよく――




「地味子、頑張って!!」
「――!?(ビクゥッ!!)」




ポコンッ




「あ…」




…殴れなかった

記録は、一般女子の平均値よりも下回る結果に終わった




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