HERO GIRL

□私と幼馴染とテレパシー
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夏の早朝はまだまだ暑いが、太陽が昇る前ならまだ涼しい
着慣れたジャージに身を包んで、今日もランニングを始める
走り出して数分経った頃、晃司と合流した
彼もまた同じように走っていたらしい




「おはようー」
「あぁ、おはよう」




そのまま何処へ行くとも打ち合わせず、二人は並んで町内を走り続ける
目的地は決まって何処かの公園なのだが、その日の気分によって行く場所も違う
何より晃司が道を決めていることもあって、地味子は何となくそれに付いて行く流れの方が多かった




「この前、あの少年に会った」
「少年?」




走りながらの会話でも、お互いに息一つ乱さない
それがもう当たり前のようになっていた




「コンビニの少年だ。悪い奴らに絡まれていた」
「えっ。じゃああの怪我もそうだったのかな…」




先日顔を腫らせて出勤した彼を思い出し、地味子は後悔する
助けてあげられなくてごめん、とその後悔は身を引き裂く想いだ




「安心しろ。俺がやっつけた。そそのかされた少年も無事だ」
「誰?」
「さあ…俺の事を知っていたから、同じ学校だとは思う」




蛍介もだが、そのそそのかされたという少年もまた被害者なのだろうか
どいつもこいつもワルばかりだと、地味子は唇を噛み締める




「そっか、ありがとう。私も蛍ちゃんを気にかけとくね」
「…随分と、コンビニ少年を気にしているんだな?」

「同じバイト仲間だし、夜だと変なお客さんもいるから、心配なんだよね」
「彼は男だ」
「うん、でも…誰もが最初から強いわけじゃないもんね」




そう地味子が口にすると、晃司は黙ってしまった




「本当は私も夜には入れればいいんだけど――多分許してくれないだろうから」




親の言うことは絶対で、夜に出歩くことをよしとしていない
今のバイトだって、ギリギリのラインと言ったところだろう




「晃司も蛍ちゃんのこと、気にかけてくれたら嬉しいな」
「友達なのか?」
「友達…うん、そうだね」
「…そうか」




そんな会話をしながら、二人は公園に辿り着いた
此処から晃司はいつも通り、スクワットや腕立て、腹筋をこなしていく
地味子も準備運動で身体を伸ばしていると、ジャージのポケットに入れてあるスマホが震えているのに気づいた




「電話――翔瑠だ。…もしもーし。おはよー」

『おう。お前ら今、何処に居んの?』

「あー、桜が綺麗だった公園。ゾウさんの滑り台あるとこ」

『解った』




電話の後、翔瑠は直ぐにやって来た





「おす。今日はこっちか」
「うん」
「たまに場所変わるからなぁ。探す方の身にもなってくれよ」
「あはっ。でも、翔瑠はちゃんと電話してから来てくれるよね」




早朝であるにもかかわらず、翔瑠はきちんと筋トレに参加してくれる
もちろん集合場所は、その日の気分によってまちまちだが、大抵は公園だ
その公園も三人の住む近辺には幾つかあり、それら全てを回って探すのは時間がかかる

地味子と晃司は大体一緒の時間に集まっている事が多いので、翔瑠は集合場所を地味子に聞いてからやってくるのだ




「まあな。地味子が居てくれるからいいけど、バスコはたまにフラッと何処か行く事があるから、探すのも一苦労だぜ」

「うーん。電話したらいいんじゃない?」

「それもそうだけど…いちいちかけるのも面倒だ」




確かに、ちょっとしたことですぐに電話するのも気が引ける
せめて、彼が何処に居るか見ただけでわかればいいものの――
 



「かといってバスコを探し回るのものなぁ…」
「テレパシー出来たらいいねぇ」
「…何でテレパシー?」




それなら電話の方が早いんじゃないか?




「頭に直接語り掛けるの。『聞こえますか…』って!」
「そんな事出来たらな」
「うーん…じゃあ、びーびーえすは?」
「何だそれ」




あれ、と地味子は少し考える
びーびーえす、びーえすぴー、などの意味不明な単語を繰り返し、頭を悩ませている




「えぇと…スマホの機能でそう言うのあるんだって。位置が解るとか、なんとか」
「GPS?」
「あっ、それ!! バイトの子から教えてもらったの」





スマホをまだ使い慣れていない事を言ったら、蛍介は丁寧に教えてくれた
特に道に迷ったりしたらGPSと言う機能で、今自分が何処に居るのかを知ることが出来るらしい
別に迷子癖があるわけではないが、蛍介曰く、放っておけないそうだ
何それ酷い

ちなみにGPSで登録したお互いの居場所を知るアプリがあるらしい
ただし、それは恋人が主に使うアプリだ
蛍介にもそういう人がいるのかと聞いてみれば、彼はずーんと落ち込んでしまった


じゃあなんでこんなの知っているんだ…と思わず突っ込めば、昔、友達にそう言うアプリを入れられたらしい
その友達は恋人でもなんでもなくて、ただ蛍介の居場所を知りたい為だそうだが、不思議な友達もいるもんだ




「あー、恋人アプリねぇ」
「それで晃司の居場所解るんでしょ。やってみたら?」




いい考えではあるが、問題はどうやってバスコのスマホにそれを入れるかだ
そう簡単にスマホを貸してくれるだろうか――



「晃司−。ちょっとスマホ貸してー」
「!?」
「あぁ、いいぞ。翔瑠も来ていたのか」
「あ、あぁ…」




早くも筋トレのメニューをこなした晃司は、汗を流しながらスマホを差し出してきた




「翔瑠が『恋人アプリ』を――もがっ」
「い、家にスマホ忘れちまってな! バスコのを貸してくんねぇか。すぐに返すから!」
「解った。…それより地味子が苦しそうだぞ」




馬鹿正直に理由を口にしようとした地味子を、翔瑠は当然止めた
バスコにインストールしたアプリを知られたくなかったし、たぶん入れたとしても彼は気付かないと思う

地味子と同じでバスコもスマホを使い慣れていないからだ
それは断言できる




「あ、あぁ…悪い地味子」
「ぷはっ…吃驚したぁ」
「大丈夫か」
「うん。えぇと…」




翔瑠はじっと地味子を見て、小刻みに首を振った
『言うな』と彼が訴えてきていることが伝わり、頷く




「はっ…これがテレパシー!?」
「テレパシー?」
「あー、地味子。バスコと組み手したいんじゃなかったのか」

「えっ、そうだっけ…いや、そうだ。私は晃司と無性に組み手がしたい! …気がする!」




それは一体どっちなんだと、翔瑠は肩を竦めた
しかし晃司はとても嬉しそうな顔で地味子を見ていた




「よしっ。やろう」
「今日はシャイニングウィザードがやりたい!」
「またそんな物騒な技を…」
「解った。かかってこい!」




お前も乗るなよ、と翔瑠は言いかけた言葉を飲み込んだ





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