HERO GIRL

□私と君と誤解
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見ている分には普通だと思うけれど、蛍介だけじゃなくあの道也までそんな事を言いだすものだから、自然とその日は流星も地味子を気にするようになった



授業中は平気で寝る

起きるのは休み時間か、体育の授業だけ

男女別の授業なのだが、その時だけは地味子が物凄い活躍をしたと言うのを美怜から聞いた
身体を動かす事は好きなんだな――と思い知らされるが、その次の時間はまるで糸が切れたようにぐっすり眠っていた

またこいつはどやされるんだろうなと、青筋を立てて授業をする担任を見て思う
チョーク割るなよ、センセー





「地味子―。お昼だよー?」
「むぁっ!? …大きなプリンに埋もれてた…」
「なぁにそれ? 面白―い!」
「いやいや…食べきれないし、窒息するかと思った」




昼飯時になると、瑞希と美怜を伴ってあいつは学食に向かった
もうその光景が当たり前で、其処に自分が加わることで一つのテーブルが埋まる

たまに道也が乱入してくるが、今日は一徹と喜介と一緒にパシリ(森永)で遊んでいるようだ


苛めなんて…するもんじゃねぇと思ったのは、その痛みが自分にも解ったからだった





「地味子ってば太らないよね。…羨ましい!」

「むぐむぐ…」
「本当に美味しそうに食べるのね…見ていて微笑ましい」

「むぐむぐ…」
「(聞いてねぇな…)」




あれだけ寝てたのによく飯が食えるもんだ
瑞希が話しかけてやってんのに、何で答えねぇんだよ?!




「建築学科だ!」
「あれ、バスコが居ねぇぞ…?」




ざわっとどよめく方に視線を向ければ、建築学科の連中が数人いた
見たことのある顔ぶれの中に、しかしリーダーの姿はない




「バスコが休んでるってマジだったのか!」
「何十人も相手にしたって噂だぜ!」




――噂には尾鰭がつくものだ

いろんな噂がたてられても、バスコが誰と戦ったまでは語られない
あくまでバーンナックル内にとどめられているが、その代わり少しだけ噂話に変化が合ったようだ



「むぐむぐ…」




地味子は建築学科の方を一目見ただけで、再び昼飯に目を落とす
興味がない、と言った印象だった
いつもなら建築学科の姿を見ただけで、駆け寄ってあの禿――大木の身体を執拗なぐらいにベタベタ触ると言う変態さを見せていたのに…




「建築学科のあいつ、今日は休みなのか?」
「むぐむぐ…そうみたいだねぇ」




いくら幼馴染でも、休み事情は知らないようだ




「朝も居なかったし…仕方ないかな」
「ぁ? 仕方ねぇってどういう――」
「ご馳走さまでしたーっ」




それ以上を聞くことが出来ず、地味子はそのまま食器を返却口へ持っていく





「何だあいつ…」
「ちょっと変よねぇ」
「あ、あぁ。瑞希もそう思うか?」




うん、と瑞希は頷いた
詳細を口にしなくても通じてしまう辺り、俺達は幼馴染なんだなと嬉しくなる




「地味子ってば、いつもはもうちょっと食べるんだけどね」
「…あれ以上にまだ食うのかよ」
「流星並みに食べるわよ」
「マジか…」
「お腹痛いのかなぁー」




少しだけずれた答えが返って来て、流星は椅子からこけそうになった





――ど、どうしよう…


昨日の蛍介よろしく、彼は戸惑っていた
あの事を謝ろうと思うのだが、地味子と話す時間が全くない
教室では瑞希や美怜が居るため切り出しにくいし、お昼休みを狙っても周りの黄色い声と女子たちが取り囲んでくる
それが凄く怖くて、逃げる様に森永とテーブルに着いた
彼女とはかなり離れた席で、遠目から様子を伺うことしか出来ない

午後の授業が始まっても彼女は変わらず眠り続けて――


結局、本日の授業が終わるチャイムが鳴り響く




「では、今日はこれで終わり。号令―」
「…すぅすぅ」
「北原―。後でそいつに職員室に来るように言ってくれー」
「何で俺が…」
「仲いいだろ、お前らー」




瑞希ほどじゃねぇ!!




「頼むぞー」




何か言いたげな流星は、顔がとても怖かったと蛍介はびくびくする




「地味子―。また呼ばれたよー」
「うう…巨大な巻きずしに、くるくるに…」
「どんな夢見てんのよあんた」





美怜がポンポンと肩を叩くと、地味子ははっと目が覚めたようだ




「…鮨詰め怖い」
「うんうん。くるくる巻かれたんだね」
「何で知ってるの、美怜ちゃんってエスパー??」
「おい。先公がまた呼んでたぞ」





小さく欠伸を噛み殺して、地味子が流星を見る
その隣には蛍介もいたが、はっきりと覚醒している訳でない頭に、目の焦点はいまいち合う様子はない




「またー? 先生ってば私の事好きなのねぇ」
「あっは! それヤバーい! でも副担任を狙ってるんでしょ?」
「あー、それ、一応秘密なんだけどなぁ」
「先生見てたら解るわよ。バレバレ!」





可哀想な事に、担任の気持ちは空回るばかりなのだ




「ちゃんと伝えたからな。おい瑞希、帰ろうぜ」
「うん。じゃあ美怜、地味子。またね」
「ばいばいー」
「また明日―」




流星が瑞希と共に教室から出ていくのを見送る
すると美怜も帰るのか鞄を手にした




「じゃあね。また明日!」
「美怜ちゃんバイバイ!」




ヒラヒラと手を振って、彼女を見送る
次第に教室の中は人が減っていくが、蛍介はずっと地味子を見たまま緊張をしていた

今なら、謝れるかもしれない
自分にかけられた声にも気づかず、蛍介はじっと彼女の後姿を見つめて立ち上がるのを待った




「あ、あの…っ。地味子ちゃん!」
「ん?」
「えっと、その…」




彼女は振り返るものの、なかなか言葉が出てこない
まだ抱き締めた感覚が腕の中に残り、顔を赤くする




「大丈夫? 風邪でも引いてるんじゃない?」
「そ、そんなことないよっ」
「…そうだ。蛍介の事、噂に流れなくてよかったね」
「え――」
「ねぇ、蛍介は――本当に勝ったの?」




誰に、とは彼女も口にしなかった
教室にはいつの間にか二人しかいないけれど、何処で誰が聞いてるとも限らない





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