HERO GIRL

□私と君と誤解
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その次の日、バスコは学校を休んだ
珍しく連絡もつかないと、翔瑠はスマホを見つめて思案する



「おい、バスコが負けたってホントか?」
「マジかよ。あのバスコだぜ!」
「転校生にやられたって嘘だよな――」




バスコが転校生に負けた事は、彼らだけの秘密だった
だが、どんな秘密にも何処かに綻びは生じる

何処から漏れたのやら、バーンナックルの奴らには例の件が早くも知れ渡っていた
教室にバスコの姿はなく、今日はそれがとても違和感に感じる
あいつが休むなんて珍しい――そう考えて、ふと中学校の頃を思い出した


…あの頃とは違う、大丈夫だ

自分に言い聞かせるように、翔瑠は頷いた


とにかく今は、メンバーを落ち着かせるしかない
あの転校生がどんな実力を持っているのか定かではないし、バスコがどんな負け方をしたのかだって解らない
下手に動けば此方がやられる――今は慎重さが重要だった

だからこそ、翔瑠はメンバーたちの前では、バスコが居なくても大丈夫だと言う、余裕さを見せている




「おい翔瑠。バスコが転校生に負けたってマジ?」
「どうなんだよ?」
「今日、学校休んだっぽいぜ」
「…」




翔瑠には、沈黙しかなかった
全てはバスコからの連絡を待ちだが、メッセージを入れても返信がない

流石に一人でこの状況を耐え続けるのも、難しい気がしてきた
大木や折緒には口止めをしてあるから、真実をいうことはないだろう

二人が黙って何も言わないのがその証拠だ



ぴろりん♪




「…バスコだ」

「「おおっ!」」





漸く来た、待ち人の返信
翔瑠のスマホに通知されたそれを見て、逸る心を落ち着かせる




『翔瑠 画面が割れた』

『修理に出したしたいんだけど いくらかかる?』

『こんな感じ』




そんなメッセージと共に送られてきたのは、またもやあの待ち受けだった




「(キャプチャーで画面割れが解るかよっ!! っていうかまだその待ち受けだったのか!!!)」




ツッコミどころの多いそれに、翔瑠は静かに己を震わせた
またも見ることになった幼馴染である彼女の姿
それが一枚の写真となって送られてきたから、驚きだ

バスコ…やはりお前は馬鹿だよ


待ち望んだバスコからの連絡に、メンバーは興味津々だ




「翔瑠、バスコは何て?」

「…あー」




さて、どうしよう…

バスコが居ない今、下手に動いても駄目だ
転校生の実力が解らず挑んだとしても、それはきっとバスコが望まない

バーンナックルは、決して負けてはいけない――




「『噂を立てないって事は、何か企んでいるに違いない。今はおとなしく俺を待ってくれ』…以上、バスコ」
「おおお!!!」
「さすがバスコ!!」




バスコもだが、こいつらも案外信じやすいなと、翔瑠はホッと胸を撫で下ろした


とりあえず、今はこれでいい

問題は――地味子の方だ…





いつも通りの朝を迎えて


いつも通りの教室に向かう


教室に入るのがこんなにもためらわれるのは――転校する前と同じだと思った



あの頃は虐められていて、毎日が嫌で仕方がなかった
今は…皆が優しくしてくれるからいい、問題は――彼女と顔を合わせる事が凄く恥ずかしい事だ

昨日の出来事を思い出すだけで、顔から火が出そうだと赤面する
幸い夜の蛍介が昨日、地味子と会うことはなかった
彼女はバイトが丁度休みだったため、何処か蛍介はホッとしていた


――や、やっぱり緊張するな…

何で僕、あんなことしちゃったんだろう…お酒を飲んでいたわけでもないのに




以前、お酒を誤って口にしたときは、自分が自分でないようだった
美怜に言わせれば、かなりワイルドだったと好印象らしいけど、普段の自分から考えたら変にテンションが上がっていたと自己嫌悪に陥りたくなる

昨日もよく解らないテンションのまま、彼女に失礼な事をしてしまった


嫌われていないだろうか――それだけが心配の種だ





「…穴があったら入りたい」
「?」
「あ、四宮。おはよー!」




流星との喧嘩を止めようとしてくれていた四宮は、きっと優しい人だと蛍介は思う
もっと仲良くなりたいなと言う気持ちを込めて、朝の挨拶は欠かさなかった
帰るときもちゃんと挨拶をして、何とか接点を持たなきゃ
クラスメイトなんだから――と、また彼女を思い出す

…そう言えば、結局二人の関係って何だったのだろう



あの放課後の出来事を思い出して、またもや赤面してしまった蛍介だった




「あっ。蛍介―!」
「おはよう、皆!」
「おっはよー!!」





教室に入れば、挨拶を返してくれる優しいクラスメイト
以前の自分だったら考えられないと、彼は今でも涙ながらに喜んでいた
まるで人気者みたいだ、と


そして――彼女は其処に居た




「あ、あのっ…おはよう、地味子ちゃんっ」




勇気を持って彼女に挨拶をするが、彼女は――




「…おはよう」




ただそれだけを口にした

…あれっ?と、蛍介は思う
いつもなら、同じように『おはよう、蛍介!』と笑ってくれるのだが、今日に限ってはそれがない
顔に笑顔がないのは、朝だしまだ眠いのかな?と、不思議そうに思いながら自分の席に着く




「おはよう、流星!」
「気安く話しかけんな。瑞希を見たらぶっ殺す!」
「ねぇねぇ。今日の地味子ちゃんって何か元気ないよね?」
「聞いてんのか、てめぇっ…あぁ? 別にいつも通りじゃねーか」




流星はそう言って、地味子の方を見る
後ろからでは解りにくいが、美怜や瑞希と楽しそうに会話をしている

いつも通りオドオドしていて

いつも通り女友達に慣れようと努力している…そう流星は思った




「…そうなのかな」
「おい、瑞希を見んなっつったべ?」




蛍介は別に瑞希を見ている訳ではない
単に地味子の傍に彼女が居るだけだ
それを流星に言い聞かせても、きっと納得はしてくれないと思う
彼が瑞希に対して好意を抱いていることは、蛍介にもよく解るからだ




「はよーっす!!」
「朝から煩い」
「挨拶しただけなのにっ!?」




煩い奴が来た――



「朝一番に声かけてくれるなんて、俺って幸せもんだ!!」
「頭がお花畑かしら」
「朝から辛辣!! お、流星―! ちーっす!」




煩い奴がこっちに来る
やめろ、瑞希が嫌そうな目で見てんじゃねぇか
俺まで変な目で見られんだろ、この馬鹿…!




「なーんか…今日の地味子ちゃんって変だな」
「ぁあ? おめーまで何言いだしてんだ」
「なんつーかよぉ…なんか違うんだべ」




その違いが何なのか、ぜひとも教えてもらいたいものだ
しかし、道也に気付かれるなんてあいつは一体どうしたのか





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