HERO GIRL

□私と幼馴染と謝罪
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「女子を殴るとかサイテー」
「だったらやめてくんね!? いい加減キレっぞ!」
「カルシウム足りないんじゃない」




誰のせいだ!と貴仁が叫んだ時だった




「おい。物を粗末にするな」
「あ、晃司」
「建築学科のバスコ…!!」




貴仁の後ろにバーンナックルのメンバーを伴ったバスコが居た
彼の姿を目にした人々は、口々にある噂を口にする




「おい、バスコだぜ」
「喧嘩して休んでたんだろ?」
「何十人も相手にしたって噂だぜ」
「人間じゃねぇよ…」




いろんな噂が流れているみたいだが、バスコは平然としていた




「コップはちゃんと返却口に返せ」
「なんだと…!」
「マナーは守れと親に教育されなかったか?」
「てめぇもこいつと同じようなこと言いやがって…!!」




こいつ、と聞いてバスコは顔を顰める




「こいつじゃない。地味子だ」
「細けぇことはいいんだよっ」
「細かくない」
「あー、もうっ!! どいつもこいつもうざってぇ!!」





――カルシウムが足りてないんだな、と同じような事をバスコも思った

それから苛立ったままの貴仁は、敏斗を一睨みしてその場を立ち去っていく
びくびくとした敏斗に、地味子は困ったように笑いかけた





「君、大丈夫?」
「あぁ…うん」
「蛍介のお友達?」
「僕じゃなくて森永のだよ。今日初めて知り合ったんだ」




へぇ…と地味子の眼が森永に向けられる
すると森永は、少し緊張した面持ちでドヤ顔を決めた




「そ、そうさ。僕が誘ったんだよ。蛍介がどうしてもって言うからさぁ――」
「ふぅん。あ、私はファッション学科の名無し地味子って言うんだ」
「(あれ、興味すら持たれてない!?)」




――名無し地味子と、口の中で繰り返す

女の子が…僕みたいなやつに普通に話しかけてくるなんて、奇跡としか言いようがなかった
クラスの女子はまるで汚物を見るような目で見てくるし、男子に至っては貴仁のように下に見るか、興味がない




「貴方の名前は?」
「ぼ、僕は…今敏斗」
「敏斗? よろしくね」




よろしくって…どう言うことだろう
どうして彼女は、僕を気持ち悪がらないんだろう
戸惑いながら、視線はずっと下を向いていた
彼女のようにキラキラした人を、直視できなかった




「び、敏斗はヴォーカルダンス学科なんだぜ!」





やめて森永、なんで其処強調してくるの!?
なんで胸張って言うんだ?
僕みたいなやつがヴォーカルダンスなんて、胸張って言えることじゃ――




「おお。じゃあ歌ったり踊ったりするの?」
「え、まあ…」
「すごーい!!!」




…どうせ、僕みたいなやつが歌ったり踊ったりなんて、ネタにしか考えられないよね
本当に実力のあるやつに比べれば、僕なんて…

拍手なんてやめてくれよ…




「ぼ、僕なんかより…貴仁の方が凄いよ。実力もあるし」
「貴仁? 誰だっけ」
「えぇと…さっきの奴だよ」




そこまで教えてやれば、やっと地味子は思い出したように両手を合わせた
本当に忘れていたのだろうか、あれだけ言い合っていたのに――ほんの少しだけ、貴仁には同情する




「いいなぁ。歌が上手い人って憧れる」
「べ、別に上手いわけじゃ――」
「私は好きな曲ばかり歌ってるから、それしか解らないんだよねぇ」
「地味子ちゃん『ヒーローマン』好きだもんね」




ヒーローマンって、あのアニメの?

驚いたように、敏斗は顔を上げる
そこでやっと、彼女の顔を見ることが出来た――満面の笑みを浮かべた、彼女を




「うん、大好き!」
「…っ。そ、そうなんだ」

「さ、地味子ちゃん。今のもう一回言ってくんね!? スマホに録音するから!! あとその笑顔をもう一度!! シャッターに収めるから!!」

「黙れ道也。この下種野郎」
「あれぇえええ!? 俺が聞きたかったのはそれじゃないんだけど!!!」




ちょっと、吃驚した
こんなにもはっきりと物を言う女子に

名無し地味子と言う人に、少しだけ興味が出た


見た目が怖そうな男子に対しても、躊躇なく辛辣な言葉を投げかけて、それでも彼は嬉しそうだった
…ドМなのだろうか




「…面白い人だね。彼女」
「うん。地味子ちゃんは面白いよ」
「なんてったってバスコの幼馴染だからさ!」




…だからどうして森永が威張るんだろう





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