HERO GIRL

□私と幼馴染と謝罪
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いつの間にか、三人だったテーブルには一人増えて、四人になっていた




「ねーねー。ヴォーカルダンス学科ってどんなとこ? ほかの学科ってよく知らないんだよね」

「えっと…」





余りにも自然過ぎて、敏斗は上手く言葉が出なかった
例の転校生である蛍介とご飯を食べるのですら奇跡なのに、何故彼女ともテーブルを囲んでいるのだろう




「さっき言ったとおり、歌ったり踊ったりそれぞれの分野を磨いているんだ。殆どが先生からの課題をこなすけど、たまに自分で創作したりしてる」

「創作?」
「うん、歌も踊りも自分で作るんだ。…僕もやってるんだけどね」
「えぇっ!? すごーい!!」
「そ、そんなに驚くことじゃ…!!」




というか、驚き過ぎじゃないだろうか
敏斗の言葉を一つ一つ真剣に聞いて、その度に大きなリアクションをして…
わざとやっているのかとも思ってしまう




「ホント凄いよね。敏斗って」
「き、君までそんなこと言わないでくれよ…っ」
「ははっ。敏斗、恥ずかしがってやんの!」




森永は、にやにやと笑った

友達の会話を久しぶりに楽しめたと思う
転校生や彼女を覗いて、僕と森永は常に虐められる側の人間だ
人の顔色を窺い、ストレスの捌け口にさせられている


だからわかるんだ…
森永、君は僕を下に見ているね?
まぁ、別にいいけどさ…




「そう言えば、この学校の学園祭って有名って聞いたんだけど…」
「あぁ、それは僕も知ってるよ! 学科ごとに出店やイベントが行われていて、他校から訪れる人も多いんだって!」
「へー、何が有名なの?」
「えぇっと…」




森永はこっそりと、地味子に背を向けて何かを見ていた
手帳のようなものを見ている…そこには学園祭に関する内容がびっしりと書き込まれていたのを蛍介は見た

勉強熱心なんだなと、感心するが――ふと閉じられたその手帳のタイトルは『女子と会話する内容』と書かれていた


…森永? それってネタ帳なの?




「やっぱり目玉はドレオクとミスコンだね! あとは有志による後夜祭ライブさ!」

「ドレオク?」
「ミスコン?」
「ライブ…」




地味子と蛍介はきょとんとして聞いて来た
ふふん、今は僕が主役だと森永はますますドヤ顔をして見せる




「ドレオク――奴隷オークションは、学科ごとに一名選出された男子を、女子限定で落札するんだ! 勿論一番になった高額者は、落札者を一日限定で自由に出来る」

「だから、奴隷?」




それは…男子にしてみたら、どう言った気持ちなのだろうか



「ミスコンはその逆で、学科ごとに選ばれた女子を男子限定で落札するんだ。ちなみに、一番になった女子にはミスコンの名誉が与えられるんだって! あ、男子が女子を一日限定で自由にできる権利はないけどね! そんなの卑劣だし、あくまでコンテストだから!」

「へぇー」

「学園祭で稼いだ賞金額は、全部施設に寄付されるんだよ」
「まあ、そうだろうね」



まあ、自分には縁のない事だけど、と蛍介は笑う
地味子もまた笑っていた

うちの学科には瑞希や美怜と言った綺麗どころがいるのだから




「森永、詳しいんだね」
「へへっ。まあね!!」




照れくさそうに鼻を擦る森永
例の手帳を後ろ手に隠している事なんてきっと、彼女は知らないのだろう




「後夜祭のライブも賑やかになりそうだねっ」
「地味子ちゃんそう言うの好きなの?」

「皆で楽しめるものなら何でも! でも、歌は一つしか知らないからなぁ…ライブは無理かな」

「え。出る気だったの?」



ちょっと驚いたように蛍介は言う
余りにも前へ前へ行く発言に、とてもじゃないが真似できないと思った




「君、凄いね…僕なんかそんな真似できないよ」
「(敏斗も同じこと思ってたなんて…っ)」
「えー。何事も経験だよ。それに、楽しければいいと思うんだ」




それは…顔が整っていて、実力と自信があるやつが言えることだ
顔が不細工で実力もなくて、自信がない奴は――そこまで辿り着けない




「ライブ、敏斗は出ないの?」
「僕なんかが…無理だよ。エミネームなんかになれやしないさ…」
「エミ…なんて?」
「えぇと――とにかく、僕なんかじゃ無理だよ、絶対」





そう言ってやると、彼女は押し黙っていた
納得してくれたのだろうか、こんなやつがライブに出るなんてありえないと

僕みたいなやつが出るライブなんて、きっとお笑い芸人と間違われてしまうに違いない――



「え。何それ、なんでそんなこと思うの?」
「…お笑い芸人だし」
「いやいや。意味解んないし。敏斗はさっきから『僕なんか』しか言ってないよ?」




僕なんか――それはただ、自分を貶めて卑下する言葉に過ぎない
以前、蛍介は彼女に言われたことを思い出した

夜の自分も今の敏斗と同じような事を口にした――『僕なんか』って




「やる前から諦めるなんて駄目だよ。当たって砕けなきゃ!」
「く、砕けるの…!?」




それって結局駄目じゃん!と、森永が代わりに鋭いツッコミを入れてくれた




「あれ…違うの?」
「地味子ちゃん、言葉の意味がおかしいよ」




はは、と蛍介は苦笑した

彼女の言うことは一理あるけれど、それでも敏斗には勇気がなかった
後夜祭ライブなんて夢のまた夢なのだと、今はまだ諦めていた――





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