HERO GIRL

□彼女と初恋と刑事さん
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翔瑠から来たメッセージに従って、地味子は校舎口で待っていた
生徒たちが帰って行く姿を眺めていると――




「地味子さん…」
「あれ、大木さん。今帰りですか?」
「は、はい。あの…一緒に帰りませんか!」




え、と地味子は吃驚した
彼に誘われることは初めてで、しかも晃司たちはいない…

ついでに言うと、翔瑠と待ち合わせしてるんだけど――どうしよう?
翔瑠が来るまで待ってる? そしたら三人で帰れるもんね
あ、晃司も一緒だから四人だ!




「えーっと…」
「バ、バスコや翔瑠が居ないと、駄目ですか…!」
「いや、そうじゃなくて――その翔瑠と…」




ぴろりん♪

お。メッセだ、と地味子はスマホを見る



翔瑠『大木と帰ってくれ! 頼む!』


…なんだ、このメッセージは?

翔瑠の必死過ぎる光景が頭を過ぎった――


思わず辺りを見渡して…



「Oh…」
「地味子さん?」




居た、居たよあそこに…
どうして皆、同じ場所に隠れたりするんだろう

バレバレなことこの上ないし――なんかデジャヴだ




「…『いつもの』を奢りでね」
「え? いつものって――」




ぴろりん♪

翔瑠『好きなだけ作ってやる!!』




「よし、行こうか大木さん」
「えっ、は、はい…!」




こうして地味子は大木と一緒に帰ることになった
ホッとした様子でそれを見送る翔瑠

そして後ろから、バスコがそれを見ていた




「…翔瑠、どう言うことだ? なんで地味子が大木と?」
「(う、うっわぁあああ…!!)」



――さて、バスコになんて言おう…?


翔瑠はまたもや冷や汗を流していた





「それでねー。その時晃司と翔瑠がねぇ…」




大木は、今隣を歩いている彼女にとても緊張していた
彼女は話題を色々と振り、口下手な自分との会話を、必死に繋いでくれているのに…なんて様だ!
女の子とどんな会話をしたらいいのか解らないし、共通の話題なんてバスコや翔瑠の話だ!

あ、だからさっきから彼女は二人の名前を出すのか――




「大木さん? 大木さーん?」
「は、はいっ!?!?」
「どうしたんですか。ぼーっとしちゃって。あと、危ないですよ。もう少しで踏むとこでした」




何を…と足元を見て、直ぐに視線を背ける
見なければよかったと、一瞬にして血の気が引いていくのが解った




「こっちです。こっち」




彼女はぐいっと腕を引っ張り、安全な道を選んでくれた
む、胸が当たってる…意外と柔らかい
なんてことを考えるのは、女の子に免疫がないからだ。ただの変態だからだ




「意外とお茶目さんなんですね、大木さん」
「は、はは…(お茶目って…)」
「見た目はこーんな強いのにね」
「…俺って、そんなに強そうに見えますか?」




思わず聞いてみた
バスコが強いのなんて当たり前だし、力だけなら翔瑠にだって負けない
他のバーンナックルのメンバーにだって、引けを取らないと自信がある




「? はい。実際強いですよね。筋肉凄いし」
「地味子さんは筋肉で人の強さを見分けてるんですか…」
「あははっ。昔からそう言うのが好きなんですよー。晃司と翔瑠が鍛え始めた頃かな。ひょろひょろだった二人が日に日に強くなっていって――」
「…?」




ふと、其処で彼女は言葉を止めてしまった
顔を見ようとも俯いているのか、背の高い自分からはよく解らない
だがすぐに、彼女はパッと顔を上げた…ちょっとだけ、目が紅い気がした




「…っ。筋肉ムキムキな人って格好いいじゃないですか!」
「そ、そうですか…?」
「そうです! だから大木さんも格好いいですよ!」




彼女は、何気なく言っているつもりなのだろうけど
その言葉の一つ一つが、この胸を高鳴らせていることを知らない…




「あ、ありがとうございます…っ」
「あれ、泣いてる?」




筋肉質でよかったと、この時ばかりは泣いて思った





「晃司もだけど、皆さん涙脆いですね」
「お、男が涙脆いって、駄目ですか?」
「うーん…駄目じゃないですよ? 泣くって事はその人が弱さを見せてるってことだから」
「でも、強い男が好きとか…よく言ってますけど」
「うん、好きだよ?」




余りにもそれを普通に言ってくるので、本当に心臓がもたないと思う





「涙を見せたら弱いんじゃ――」
「泣かない事が強さじゃないよ。泣いて、それから強くなってくれたらいいんだよ」
「え…?」
「いっぱい泣いて、泣いて、それでも――立ち上がって、前に進んでくれたらいい。どん底でも、這い上がっていける強さがあればいい」



それは、一緒に居る自分ではなく
まるで他の誰かに言い聞かせるように――彼女はそう言っていた




「私は、そう思うんだっ。どうかな大木さん!」
「…いいと思います」
「ホント? わーい」




本当に、無邪気に彼女は笑っていた
つられて大木もまた笑う

その笑顔を一番傍で見られる幼馴染たちを、少し羨ましく思った





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