HERO GIRL

□私と同中と怖い人
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『地味子ちゃん』そして『ミス才源』
この2つの単語が一人の人物を示しているなんて、最初は知らなかった

でも、SNS上で爆発的に再生数を叩き出し、ランキング上位に入ることで有名な、この『地味子ちゃん』が『ミス才源』の称号を持っている…



「名無し地味子…!」



忌々しいと――唯はスマホ画面に映る、『ミスコン』で優勝した彼女を指ではじく
『ベストBJ』である自分よりも遥に人気があるなんて、同じ『パプリカTV』をしている訳でもないのに、劣等感を感じた

普段学校で見せている彼女とは似ても似つかないくらい、今の唯の表情は険しい
憎むように、彼女は地味子を見つめていた




「何怖い顔してんだよ?」
「修ちゃん…」




今のあたしの彼氏、修ちゃんが後ろから抱き締めてくる
首筋にかかると意気がくすぐったくて、身を捩ればギュッと力が強くなった




「誰これ」
「あん、ちょっと。スマホ盗らないでよ…」
「『ミス才源』?」
「あたしのクラスの子で、中学時代の同級生」
「ふーん。『地味子』ってまんま地味な奴だな。唯の方が美人で綺麗だ」
「ありがと、大好きよ修ちゃん」



クラスの子、同級生…
言葉にするのも汚らわしかった


あの女があたしにした仕打ちを、忘れるわけがないのだから
皆の前で、あんな恥をかかさせた『名無し地味子』を――!




「あたしをビッチと呼ぶなんて、許さないわ――!」
「あ? ビッチ? 誰が?」
「こ、この子よ…!?『ミス才源』なんて呼ばれてるけど、いつも男をとっかえひっかえで――尻軽女だわっ」
「人は見た目に寄らねぇんだな…こんな地味女がビッチか。最低だな! こんな奴とダチなんてやめろよお前!」
「そ、そうよねっ!? で、でもお友達だもの…っ」




危ない、と唯は苦笑いを浮かべる
修ちゃん――この男はお金や物を与えれば単純に喜ぶ。
彼もまたいいカモだった、おまけに凄く強いし、あたしを護ってくれる

ただ…少し、嫌かなり短期と言う事だ
特に自身を裏切るような真似は――絶対に許さない
それが例え女であっても…この男は平気で暴力を振るう…




「唯は優しいんだな。俺はそんなお前を愛してるぜ」
「うふふ…ありがとう。あたしも修ちゃんが大好きっ」



単純な男――

こんな奴が喜安高校の番長なんてね――



だけど、この男にもそろそろ飽きてきた
他にいい男はいないのかしら…






――*




「大木、例の彼女とはどうなったんだ?」
「…」
「おい、もしかして――フラれ…」
「まだ、言ってない…!!」




大木は涙ながらにそう口にした

そ、そうか――建築学科の面々は何処かホッとした様に彼を見る
自分より先に彼女が出来るなんて…っ、考えただけで涙が出る




「でも――言うつもりもない…」

「「はっ!?」」

「お、おいおい…何言ってんだ、大木?」
「翔瑠…あんな怖いお父さん、俺には勝てそうにない…」

「(地味子の父さんに会ったのか――?)」




それは災難だったなと、翔瑠は静かにぽんと肩を叩いた

お父さん!?
いきなりハードル高くないか、おい!?

結婚を迫ったのか!?
まだ告白もしてねぇのにか!

そんな声があちこちから聞こえてくる
大木はただ何も言わず、ぐすぐすと泣き続けていた

これはもう、告白は無理だな――



「大木…元気出せよ。女は星の数ほどいるじゃねぇか」
「…うう」
「お前はたまたまその女が好きになって、その――たまたま不運だっただけだ」
「…知ってたのか。翔瑠は」
「お、俺が知るわけねぇだろ…っ。お前の好きな女が、誰かも知らねぇんだぜ…!」




ごめん、大木。昔からその人知ってる――!!




「そうだ。元気出せよ大木!」
「おう! また次の女を見つければいい!」
「…あ、あんなにいい女性、他に居ない…ぐすっ」

「「(そこまで言わせる女って一体――!?)」」

「ははは…」




翔瑠は苦笑いをするしかなかった



「皆の言う通りだぜ。お前はまだたった一人しか好きになったことねぇから、そんなこと言うんだ」
「…うう」
「女に惚れて、傷付いて、また好きになって…それでまた、男は大きくなるんだ。何度でも」
「翔瑠――お前、そんなにフラれてきたのか?」
「んなこと言ってねぇだろ! お、俺だって―――な、何言わせんだ!」




言いかけて、ギロッと仲間達を見る




「じゃあ経験豊富なのか? マジで? 翔瑠が?」
「嘘だろ!? 先を越された―!!!」
「翔瑠が…脱・童…」
「おい。今ほざいたやつ出て来いよ。許さねぇ」
「ううう…ぐすぐす…」
「お、大木。泣くなよ…その内涙も出なくなるさ。今がそんなに泣いているのは――そいつがお前の初めて好きになった女だからだ」




翔瑠、格好いいことを言う――

そっと仲間たちを見守っていた晃司


どうしてそんなに語れるんだ

どうしてそんなに恋愛というものが解るんだ

翔瑠は、本当に経験豊富なのか――?


大人なんだな、翔瑠は…!!




「お、俺…好きなやつが出来た時は思い切り貢いでたぜ」
「俺も! 毎日ジュース買ってた!」
「…ほら。皆、こうやって大人になっていくんだ。だから落ち込むな大木」
「翔瑠…!」
「男なら誰もが通る道なんだ」




――静かに涙を流した




「…じゃあ俺は――男じゃ、ない…!?」

「バスコ? 何で泣いてるんだ…」
「翔瑠の話に感動したんだろ?」
「そ、そうなのか。バスコ?」
「…(こくっ)」




バスコ――!!
でも大木の好きなやつって、地味子だからな!?

あの時、お前には『大木の相談に乗る為』って言ったけどな!


そしたらお前、簡単に納得したけどな!!



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