HERO GIRL

□私と同中と怖い人
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「いらっしゃいませー」




夜のコンビニは、昼間に比べて本当に暇だと思う
お客さんの入りは半減するし、店の前には怖い人が屯したりするから怖いけど、それ以外は本当に静かだ




「ねぇ地味子ちゃん」
「どうしたの蛍ちゃん?」
「何で今日は…夜なの?」




時刻は22時
普段は21時までと決まっている勤務を越えても、彼女はまだそこにいた



「だって、蛍ちゃん時々いなくなるって聞いたから」
「えっ」
「たまーにお腹の調子悪くなるよね? 鍵を閉めてるからって言っても、コンビニを空けるのは良くないよ」




蛍介は時々店を空けてしまう事がある
それはトイレに行く名目で、酔っ払い客の介抱や不良に絡まれて連れて行かれるからで――
決して本位な理由じゃない
あとは本当にお腹が痛くなって、トイレに引きこもることもある――それは正解だった





「店長も心配してたから、今日は私も一緒に居るよ。お腹痛くなったらいつでも行ってきてね!」
「あ、ありがとう…でも、あんまり遅くなると親も心配するんじゃ――」
「今日は大丈夫。お母さんはまた仕事だし。お父さんは今日も帰ってこないだろうし」
「…また?」



思わず蛍介は聞いていた
人の家庭事情なんて首を突っ込むことじゃないことは解っている
でも、以前彼女はコンビニでたくさん買い物をしていた
夜は寂しいと、誰かに泊まりに来てほしいぐらいとも言っていた
あの夜は――建築学科の人が泊まったんだろうか、そう考えるとなんだか胸がもやもやする




「うん。夜一人でいるのもつまんないし、どうせなら働こうかなーって」
「でも――遅くに女の子が働くのって、危ないよ…」
「蛍ちゃんがいるから大丈夫」
「ぼ、僕っ!?」
「何かあれば、蛍ちゃんが護ってくれるから」




そう言って彼女は微笑んだ
それが余りにも綺麗で、スッと言葉が入ってきて――



「ぼ、僕なんかより――地味子ちゃんの方が強いよ」
「あはは、そうだね。私強いから!」
「う、うん…」



食堂で怖そうなグラサンを相手にしたり、見せてもらった動画の件に関してもそうだ
彼女は強い、護られなくても――
自分なんかより、ずっと…



「で、でもさ。やっぱり地味子ちゃんは女の子だから、僕が護らなきゃね」
「んー。蛍ちゃん無理しないでいいよ。ね、ホントに、殴られたら痛いでしょ。怖いでしょ」
「(逆に心配された―!?)」




一応自分も男だけど、彼女にしてみたらきっと弱いんだろうな…
蛍介はシクシクと泣いていた




「それに、お母さんにバレなければ平気かなって」
「え。お父さんは?」
「お父さんは…何とか言いくるめれば大丈夫でしょ」
「そんなあっさり!?」




夜にバイトを入れない
入れるときは誰かに迎えに来てもらう

それが、地味子がバイトをする際に、お母さんと決めた約束だった
勿論地味子はそれをちゃんと守ってきたし、これからも破るつもりはない
だが、誰かの為とあれば話は別である
だからごめんね、お母さん。今回だけは許してください…!




「うん。意外とお父さんは、あっさり許してくれるんじゃないかな」
「へ、へぇ…優しい(?)お父さんだね」
「優しいよ。ウザったいくらいにお母さんと娘を溺愛しているわ」



…何となく、それは解る気がすると蛍介は思った
だって地味子ちゃん、可愛いから――って口が裂けても言えないけど!



「…昔、一度だけ怒ったけど。あれ一度だけかな」
「へー、地味子ちゃん怒られたの?」
「私がって言うか…相手が? 半殺しにする勢いだったなー。正義の味方なのにさ」




えっ、何それ怖い
どんな怖い人なんだろうと、蛍介はガタガタと震えた



ちりん




「いらっしゃいませー」
「あんた寒くないの? もう9月だけど」
「全然?」



うわぁ…そろそろ寒くなってきたのにまだタンクトップとか
あの人馬鹿なのかな
あ、晃司もだ、あれも馬鹿だった




「鳥肌立ってるのバレバレなんだけど――」
「あれ、唯ちゃん」
「え? あ…地味子」
「(ゆ、唯ちゃんだ! 隣の人は…お兄さんかな?)」




蛍介は、最近自分をよく気にかけてくれる唯の事を、よく覚えていた
時々地味子と一緒に居るところをよく見かけていたし、何より彼女は――自分によくプレゼントをくれていた
勿論それは申し訳ないと断っていたし、ある日なんか物凄く高そうな財布まで渡そうとして来た

あれは本当に吃驚したけど、理由もないのに貰うなんてこと出来ない
どうしてそんなにプレゼントをくれるのか、お金は大丈夫かなんて思うけれど、敏斗から聞けば彼女も『パプリカTV』で動画配信をしているそうだ
しかもとても人気者で、月風船も沢山貰っているらしいから…納得できることかもしれない




「此処で働いてたんだ。コンビニ」
「うん」
「唯、これでいーだろ?」
「…早く買いなさいよ」
「何怒ってんだ?」




別に、と唯はそっけなく返していた事に、ふと思う
彼女の様子が――学校と違う気がした
学校でしか彼女を知らないのだからそれは当たり前だけど…

そう考えていると、レジカウンターに男の人が立った



「あれ…なんかあんた、見たことあるな」
「え?」
「修ちゃん。何してんの、早く買って帰ろうよ」
「なぁ唯。こいつって――地味子か?」




『地味子』と言う単語にピクリと反応する
なんでそのことを知ってるんだろう…

唯は腕を組んで男からも地味子からも視線を逸らしていた

あ、なんかこの顔見たことある――



「…そ、そうよ。だから何?」
「こーんなのが『ミス才源』って大丈夫かよ?」

「…お買い上げは1点でよろしいですね?」
「おう」
「ぼ、僕がやるよ…(こんなもの地味子ちゃんには駄目だ)」




腹が立つが、相手は唯ちゃんの――多分お兄さんかな
買う物がちょっとアレだけど、仕事だから売らない訳にはいかない

あれ、お兄さんだよね?
違うよね、まさか唯ちゃんとなんて――




「おいデブ。何見てんだコラ」
「えっ…」
「今、唯をジロジロ見てただろ、てめぇ…」
「そ、そんな事――」



ただ、唯ちゃんとどういう関係なんだろうって思っただけで――
それだけで眼を付けられるなんて、僕が何をしたって言うんだろう




「おえっ。最悪…気持ち悪い」



唯ちゃん…

僕が…見た目通り気持ち悪いから?

ショックだった
彼女が、人を見た目で判断するって思わなかったから

だって、彼女は言ってたよ?
『どんなに太っていても、その人には変わらない』って――




「修ちゃん。気分悪いから帰ろう?」
「いや待て。このデブは許さねぇ」
「もういいってば――」

「…お客様、大変申し訳ありません」
「ぁあ?」

「地味子ちゃん…」



君まで――と、少しだけ視界が歪む
だけど彼女は深々と頭を下げていた――僕が悪いのに、地味子ちゃんは悪くないのに




「彼にはしっかりと指導しておきます。唯ちゃんもごめんね」
「え…」
「――地味女って思ったけどよ、近くで見たら結構…」
「しゅ、修ちゃん…!?」

「近いです。お客様」




グラサン叩き割っていい?
なんで男ってグラサンかけたいんだろう、似合ってると思ってるのかな
自分が強く見せられるからかな

ラッパーにでもなりたいんだろうか、皆
あ、でもあの譲って人は違うと思う…




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