HERO GIRL

□私と同中と怖い人
4ページ/9ページ



「俺はまだそのデブから謝罪してもらってねぇけど? 人の女をジロジロとよぉ」
「ご、ごめんなさい…っ」
「はあ?『申し訳ありません』だろーがっ!」
「!!!?」




バンッとカウンターを叩く男
何、急に怒り出したよ、ちょっと吃驚した
あ、蛍ちゃん…気絶してる? あ、復活した…そして泣いてる




「うう…」
「蛍ちゃん大丈夫?」
「う、うん…」
「おいお前、そのデブにも気があるのか。あ? 聞いてた通りだなっ!」
「は? 何言って――」




ただ彼を心配していただけなのに、なんだその言い草は
しかも聞いてた通りってなに、何の事

するとグラサン男は唯を振り返った



「唯。こいつってビッチなんだろ?」
「…っ」
「何とか言えよ。お前が言ったんだろーが!」



――唯ちゃん、そうなの?

驚きに瞳が見開かれる
彼女は未だそっぽ向いていたけれど――その顔が一瞬、地味子を見た気がした




「そ、そうよ…その子ビッチなのよ。中学の時からねっ!」
「唯ちゃん…」
「馴れ馴れしく呼ばないでよっ。あんたなんか――あたし嫌いなんだから」



…面と向かって言われると、その言葉はとても堪える




「あたしの方が可愛いのに、なんであんたが選ばれるのよ。なんで『ミス才源』なのよ。落札額50万てなに!?」
「ぶほっ…ご、50万!?」
「男に囲まれてちやほやされて――ビッチよ! この尻軽女!」
「やっぱサイテーだな!」
「おっふ…」




結構ぼろくそ言われたけれど、ちやほやされているつもりないし、ビッチとか尻軽とか――なにそれ美味しいの
しかも二人そろって責められて――え、今日は厄日ですか




「地味子ちゃん…」
「男と遊んでんだろ。こんなデブで豚を相手に満足してんのか? 何発ヤッてんだよ?」
「蛍ちゃん、この人は何言ってるの。ヤるって何。」
「え、えぇっと…(本気で聞いてるのかなっ)」




それと、何処かで聞いた事のある言葉がいろいろと飛び交った
またも封印されし記憶が――あぁ、呼び起されている




「――思い出した。あの時の女子が唯ちゃんだ」
「は?」
「唯ちゃんも中学の時、似たようなこと言ってた。ビッチとか尻軽とか、あぁ…そうか、私ってば本当に唯ちゃんとクラスメイトだったんだ」

「今頃思い出したの!?」




そうそう、そんな顔で驚いていた
今の方が中学時代にそっくりだよ、漸く思い出せたとすっきりする

用が済んだら早く帰ってくれないかな
ちょっと今、唯ちゃんにいい思い出ないし、友達じゃないって言われたことにもショックだし…



ちりん


こんな状況で来店するお客様、どうかお引き取りを――




「って、流星?」
「おう…」



あいつがこんな時間までバイトしてるのが珍しくて入ったけど…

…なんでこんなに知り合いが溜まってんだ?




「流星…」
「何だ。知り合いか?」
「う、うん。同じクラスなの」




唯と――誰だ、このグラサン
彼氏か? ガラわりぃ…見る目ねぇなあいつ




「流星、今ちょっと取り込み中で…」
「あ? どうした?」
「えぇと――」



説明するのも面倒だし、巻き込むのも何だか気が引ける
って、蛍ちゃんは何でびくびくしてるの
流星なら大丈夫だよ――? 見た目が怖そうだからかな




「ちっ。行こうぜ唯。こんなとこに居たら尻軽になっちまう」
「は? 尻軽?」
「お前もこいつの男か?」
「はぁ? んなわけねーし」




こいつ、とは地味子の事を指しているのだろうか
何だこの男――むかつく




「唯もダチは選べよ。特にこんな女――お前に悪影響だ」
「そ、そうよね…っ。こんな子、あたしの友達じゃないし」
「おい? 唯、何言ってんだ…地味子?」
「ははは…」




もう笑うしかなかった
本当に嫌われているなと、地味子は涙も出ない
思えば、中学時代から彼女はそうだった
何故か自分を目の敵にして――




「晃司君と翔瑠君、どっちを選ぶの? それとも両方?」
「…は?」

「ほーんと計算高い女よね。どっちにもちやほやされてまるでお姫様! 友達なんて一人もいなかったくせに、あの二人だけはあんたの事ばかり…! いくら幼馴染でも馬鹿みたいに一緒に居てさ!」

「唯ちゃん…」
「馴れ馴れしく呼ぶなって言ったでしょ!? あんたさえいなければ、晃司君や翔瑠君の前で恥をかくことなんてなかった! あの二人はあたしが――…」

「晃司? 翔瑠? おい唯――」



誰だそれ、と男の眼の色が変わっても、彼女は止まらない




「…っ。どうせあの二人も仕方がなくあんたといるんでしょ!? 3人揃って傷の舐め合いよ! あんな事件を起こしたんだから――!」

「唯ちゃん」

「な、なによっ。何度も言わせないでっ。馴れ馴れしく――」




唯ちゃんは、今まで育ててきた自分へ気持ちを吐き出してきた
それは聞いている方も決して気持ちいいわけじゃなくて、訳の分からない事ばかりだったけど――

一つだけ解るのは、それが流石に頭に来た、と言う事だった




「…いくら友達でも、ちょっと怒っちゃった」
「地味子ちゃん、事件って――」




それ以上を、蛍介は聞けなかった
笑顔に隠されたその怒りを、傍に居てひしひしと感じる

顔は、本当に笑顔なんだ――あれ、感情がごちゃまぜになってる?




「おい、晃司と翔瑠って誰だ、唯」
「修ちゃんは黙ってて…!」
「…あ?」
「唯ちゃん、いろいろ言ってくれたけど、そのままお返しするよ。唯ちゃんだって尻軽でビッチじゃん」
「なっ…」



いきなり口火を切った地味子に、流星と蛍介は唖然とする
女が怖いと思ったのは、瑞希以外に初めてだった





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ