HERO GIRL

□私と同中と怖い人
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――僕は、あんなすごい人のパンチを、ホントに避けたんだろうか




数秒後にはグラサンごと顔面を殴られた男に怯えながら、流星を見上げる
ボクシングの技をいくつか見せて、彼は簡単に男に勝利した

ガクブルだったけど、頼もしいと思った




「おおー…流星のフック、ジャブ。しかと見た!」
「目ぇキラキラしてんぞ…大したことねぇべ」




彼女はこれ以上ないくらいにキラキラした顔を見せている
あれ、さっきまで怒ってなかった?と聞きたい

それより唯ちゃんは大丈夫だろうか――
血はなかなか止まってくれないし、やっぱり警察に…



「そういや…グラサンも眼鏡だよな」
「ん? そうだね?」
「…やべー。おい、あいつにも言うなよ? 知られたらめんどくせぇ」



誰に、とは聞かなかった
地味子はただニコニコ笑って頷いた




「て、めぇ…!!」
「まだやんのか。勝負はついたろ?」
「ふざけんな…っ! この俺が!」
「あー、どいつもこいつもめんどくせぇ」




ガシガシと頭を掻いて、どうしようかと考える
すると、それよりも先に動く影があった――地味子だ




「いい加減にしてよ。見苦しい。ついでに言うと営業妨害」
「ぁあっ!?」
「そうやって威嚇してビビると思った? 唯ちゃんじゃないんだから」
「…うっ」
「てめぇ…ぶっ殺す!」




おお。まだ元気そうだ
流星のパンチをあれだけ受けたのに、膝はがくがくしてるけど大丈夫かな?

地味子は冷静に男の状態を分析して――笑った



「何笑ってやがんだ…おらあっ!」
「地味子ちゃん!」
「…っ!!」




蛍介が叫び、唯が目を背けた

だが流星はしっかりと見ていた


繰り出された拳を難なく右に避けて、




「なっ…」
「よっと」




その腕を引いて、足払いをかけ――




「よいしょっと」
「ぐああああああっ!!」




一気に組み敷く!!

あっという間に、男は固い床に顔面ごと堕ち、その上に地味子が圧し掛かった
暴れないように、片腕をしっかり捻って後ろ手に押さえつけている
もう片方の腕は、それとなく地味子が足で踏みつけているのもまた見えた

なにあれ、凄く痛そう…




「柔道か?」
「そう。暴漢相手にはこれがいいって聞いたから」
「誰にだよ…」
「へへ」



――こいつが負けるわけねぇだろ

そんな確信を持っていた



「くそっ、たかが女に…!」
「流星のパンチ受けてるから、弱ってるんだよ。きっと」
「この女…っ!」
「大丈夫、唯ちゃん?」
「え…えぇ…」




どうして、彼女はそんな風に笑うの
あたしがあんたに何を言ったか、解ってるんでしょ…




「よかった。早く病院行かないと…お?」



其処で、聞き慣れた電子音が耳につき
長く続くそれが電話の呼び出しだと気づいて、地味子は震えるそれをポケットから取り出した
勿論、男を逃がさないように組み敷いたままで




「…え。なんで? ――もしもーし」




スマホの画面を見て少し驚いた地味子は、直ぐに画面をタッチして話し始めた
誰もが静かにする中で、彼女の声が響く




『もしもーし。お父さんだよー』

「…どうしたの。仕事中じゃないの?」

『愛する娘が気になってさー。ちょっとかけてみたんだー』




…この給料泥棒め、と思わずスマホに力が入る
小さくもその声は確かに皆にも聞こえていて、それが彼女のお父さんだと言う事もすぐわかった

ふと時計を見上げる
夜も23時を過ぎている頃だ…




「もう23時だよ? 私もそろそろ寝る頃だって」
「(え…)」



地味子ちゃん、嘘をついている――?

蛍介は驚いたように彼女を見た
声には出せなかった…




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