HERO GIRL

□私と合宿と一日目
6ページ/8ページ


「では、明日は早いので各自部屋に戻る様に」

「「はーい」」



女子たちの声がこんなにも揃うことがあるだろうか
ゼウスが何かを言うたび、目を合わせる度、彼女たちは頬を染めている
それは瑞希や美怜も例外じゃなく、彼の容姿に見とれているようだった




「…私が変なのかな?」




あのゼウスと言う指導員を見ても、何とも思わないのは――
あ、強そうって事は何となく解る
筋肉の付き方が、格闘技に通ずる人に良く似ていた

暫くゼウスを見ていたら、何度か目が合ってしかも微笑まれた
あぁ、人の事を不躾に見つめるのも失礼だなと、地味子は笑い返す




「君も部屋に戻るんだよ?」
「あー、はい…解りました」
「部屋まで送ろうか」
「いえ? 大丈夫です」




彼が優しいという面では地味子も納得だった
生徒一人一人を気遣い、こうして部屋まで案内してくれるなんて――

本当に優しい人
訝しんでいた自分のほうがワルではないか




「あ、タクさん。お休みなさーい」
「タ、タクさんって…俺の事?」
「指導員なのに失礼ですよね。土下座して謝ります」
「いやいやいやっ…!!」




本当に土下座をしかねない彼女に、タクさんは慌て出す
何なんだこの子は――




「ゼウスさん? 何見てるんですかー」
「あぁ、いや…珍しい子だなって」
「えー。あ、名無しさんですか。あの子ちょっと変わってるんです」
「へぇ…」




聞いてもいないのに、煩い女子生徒は自分から『彼女』について教えてくれた




「授業中は寝るし、試験も散々だったし、今日なんて遅刻したし…」
「うん。人の悪口になってしまうね、それは。悪い子だ」
「えっと…あっ! いい事ならありますっ。あの子、うちの学校のミスを勝ち取ったんですから!」
「ミス? ミスコンかな?」
「はいっ。『ミス才源』なんて呼ばれてますよ」





ふーん…『ミス才源』ねぇ

そこいらの女の子に比べたら顔はよさそうだが、胸はそんなないし、本当にそうなのかと疑いたくなる
これならすぐ傍に居る、茶髪のJKの方がマシだと思った
彼女は『ミス才源』と一緒に居るところをよく見る――きっと友達なのだろう




「…あの?」
「あぁ、何でもないよ。瑞希さんだっけ。早く部屋に戻りなさい」
「はい」
「君達も早く戻って寝なさい。また明日ね」

「「はーい!」」




夜時間が迫る――

素直な生徒達が部屋に戻っていくのを見て、ゼウスは爽やかに笑った




…その様子を、タクさんが心配そうに見ていた






――*




「地味子は?」
「お風呂だよ。汗掻いたんだって」
「さっき大浴場で入ったんじゃ?」
「ううん。あの子だけは部屋で済ませるからって――あ、出てきた」

「ふぅ…あれ、何見てるの」

「「何でバスタオル一枚!?」」




出てきた地味子の格好に、三人は驚いた
身体にバスタオルを巻きつけてお風呂場から出てくるなんて、思わなかったのだ

此処は家じゃないぞ?
いや、家でもそうなのか?




「え…いつもこうだけど」
「せめてちゃんと拭こうよ。まだ濡れてるじゃん」




唯が呆れたように言って――ふと気づく




「地味子、それ…何?」
「何って?」
「その左肩の奴――」




言われて、思い出したように頷く
自分の左肩に彫られた、青い鳥――




「格好いいでしょ?」
「いや、そうじゃなくて…刺青?」
「うん」
「地味子って、そんなのしてたんだ…」
「美怜ちゃんは知ってるよね?」




うん、とぎこちなく美怜が頷く
彼女はクレイジーおじさんの一件でそれを見られている
しかも、コンビニの制服を破られてまで…あれは泣いたなぁ




「もしかして、それがあるからこっちで入ったの?」
「だっていろんな人に見られるじゃん。それで騒がれたらなんかもう面倒で」
「いや、だってあたし達だって…」
「瑞希ちゃんたちはいいんだよ。大事な友達だから」

「「え」」




恥ずかしげもなくさらりと言った地味子に、瑞希たちは言葉を失う

当の本人はにこにこと笑っていた
本当は見られたくない物を、曝してまで――




「体育の時とか、着替えになんか変だなって思ってたのよねぇ」
「地味子ってば、怪しいくらいにこそこそしてるんだもん」
「あははっ。今思えば、アレってそれが原因だったんだねー」





この学校にプールがなくて本当によかったと思う
体育の授業は選択制だから、たとえ真夏日でもグラウンドや体育館で地味子は暴れるだろう




「でも、どうして刺青なんか?」
「あっ。幼馴染とお揃いとか!?」
「美怜ちゃん正解。ふふふ」




沙也は嬉しそうに笑っていた




「でもさ、刺青って地味子の言うワルじゃないの?」
「うーん…」




ピンポーン――…




「あ、誰か来た」
「見回りかな?」
「はいはーい」
「ちょ、地味子!?」




瑞希が止める間もなく扉を開けたのは――地味子だった




「あ、流星と蛍介」
「おまっ…!?」
「地味子ちゃん…!?」




何故驚くのだろう――

あ、忘れてた




「地味子! 服着て!」
「おっふ。ついいつもの癖で…」
「もしかして、家でもそんな感じ――!?」





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ