HERO GIRL

□私とグラサン男と超絶美人
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――約束の日は直ぐにやって来た

とりあえず何を着ていくべきか悩みに悩んで、結局お母さんにコーディネートしてもらった
何処に行くのか、誰と会うのか聞かれたけれど…ややこしいから、知り合いのお姉さんと言っておいた
お母さんは勿論『?』だった
物凄く美人なお姉さんだから、隣を歩いても彼女が恥ずかしくない服装をお願いしたら、何だか呆れられた




「とりあえず、それで行きなさい。見た目は悪くないんだから」
「はーい」




流石お母さんだと地味子は感謝した
とりあえず雑誌に載っているような流行のスタイルで家を出る
トレンドなんて言葉解らないけど、お母さんがこれと言うのだから間違いない

駅前には、約束の時間より少し早めについた
近年この駅前もにぎわいを見せており、繁華街も近い事から人が多く行き交う
待ち合わせ場所にも目立つ噴水などがあり、地味子以外にも人の姿があった
正直、こんな人の中から明里さんとグラサン男を見つけるのは難しいかも――




「何か遭ったら電話すればいいかな?」




以前明里さんがくれた電話番号は、しっかりスマホの中に登録されている
一度も掛けた事がないけれど、いきなり掛けて驚かれないだろうか


――ざわ、ざわ…


ふと、人々の喧騒がやけに大きくなったような気がする
何分道路に面しており、車は勿論すぐ上では鉄道も走っている
騒がしい事この上ないのだが…




「あぁ、いたいた――地味子!」



自分の名を呼ばれた気がして、辺りを見渡す――

…何あの美人

あ、明里さんか


余りにも綺麗に笑って手を振るので、思わず見とれてしまった
きっと辺りが急に騒がしくなったのも彼女は現れたからだろう
あと、いかついグラサン男も




「ごめんなさい。遅れちゃったかしら?」
「ううん、私も今来たところで――」
「そう、よかったわ。それにしてもここは随分と騒がしいのね」




貴女を見ているからです、とは口に出せなかった
誰も彼も――特に男が彼女を見ては顔を赤くしている
美人が居るだけでこうも違うんだなと、地味子は正直に思った




「そう言えば、私服を見るのは初めてね。ふふ、可愛い」
「あ、ありがとうございます…っ」




お母さん、やったよ、褒められた!




「お嬢、何処に行くんだ」
「この近くのカフェよ。私が好きな場所」
「さっさと行くぞ。此処は煩い」



とりあえず、彼女への視線はこの男の出現によって阻まれることになった
明里の姿を見ようものなら、このグラサン男が黙っていない――そんな威圧感が感じられる

まあ、確かにこの視線から逃れたいのはわかる気もした



「はいはい。行きましょう、地味子」
「うん」



グラサン男はチラッと地味子を見たが、明里が歩き出すとその後に続いた
隣を歩いているのは地味子だが、一方後ろを歩いている姿は何とも恐ろしい――ただ着いてきているだけなのにね



そのカフェは、地味子の知る中でトップクラスだった
この界隈では何処よりもお洒落で、何処よりも高く、何処よりも美味しい紅茶やコーヒー、そしてケーキを取り扱っている
なにより従業員の接客も満点だ
明里がお気に入りと言うだけの事はある

オープンカフェテラスと言うやつで、中でも外でも楽しめるそうだ
正直…お高いところである
こんなお洒落過ぎるお店に、地味子は少しだけガクブルしていた
高級レストランの食事マナーみたいに、このカフェにでもそういったものがあるのだろうか

…私が入れるのは、翔瑠の居るカフェかスタボぐらいです




「どうしたの? さあ、好きなのを選んで頂戴」
「…見たことのない数字が並んでる」
「気にしないでいいわ。コーヒーでも紅茶でもケーキだってどうぞ」
「うむむ…」




これまた上品なメニューを手渡されて、地味子は大いに悩んでいた
こんな素敵なお店に来ることなんて、一生ないかもしれない
しかもメニューにはコーヒーや紅茶、ケーキ、どれをとっても目移りする品ばかりだ

何このスペシャルケーキって、とんでもない大きさだよ
季節の果物盛りだくさんだよ、明らかにカフェで出す奴じゃないよね
え、此処ってケーキ屋さんも兼ねてるの?

あ、このホットケーキも美味しそう!
ワッフルもある! 翔瑠の店とはまた違ったやつだ!




「早く選べ」
「紅茶とショートケーキ下さい!」
「譲さん…」
「こいつの声はダダ漏れだ」




え、全部口に出てた?
ヤバい恥ずかしい…よく見たら彼女も笑ってる
明里さんが店員さんに注文をしてくれた
この二人はコーヒーを頼むみたいだ、大人だね。
私は紅茶が好きなんだけどな




「何故、俺も此処にいる」
「地味子にしたことを貴方、忘れたわけじゃないでしょ?」
「…ふん」
「譲さん!」
「き、気にしないで明里さん。私も別にいいから!」



嘘だ、本当は気にしている
またこのグラサン男――譲さんに会うなんて思わなかったけれど、何と言うか改めてみると…やはり強い

そして少しだけ私に対する睨みをやめてもらえませんか?
正直他のお客さんがビビってるんですよね、貴方の存在に



「それに、無理に居なくてもいいんですよ、グラサンさん」
「地味子…」
「お嬢を護るのが俺の役目だ」
「あ、そうですか」




結局、譲さんは椅子に座ったままだった
何だそれ




「珍しいこともあるもんだ。お嬢が名前を教えるなんてな」
「え?」
「譲さん、この子は女の子だから…!」
「そうだったな。お嬢目当てで寄ってくるハイエナとは違うか」



何それ、ハイエナって何
明里さんは慌てた様に譲さんを怒っていたけれど、何この人さっきから不機嫌なのかな?





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