HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
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――三人は、いつも一緒だった



「俺はヒーローマン。正義の味方―」



赤い布をマントに見立てて、翔瑠がヒーローの向上を口にする
いつもの光景



「弱い者虐めとは何事だ! かかってこい。俺は絶対に負けないぞ」

「きゃー。ヒーローマン、助けてー」



そして、人質役の地味子はいつも同じ言葉を口にする
これもいつもの光景




「地味子、お前ってもう少し人質らしくできねーの?」
「人質らしくってなーに?」
「もっとこう…『助けてー!』って」
「この前それやったら、お父さんが来たの忘れた?」
「…防犯ブザーも涙目の登場ぶりだった」




晃司は悪役だが、あの時は本当に涙目だった
悪役が自分の娘を人質に取っていると解った時の、地味子の父親は…思い出すだけでもガクブルだ
娘のヘルプに本気で走ってくる人は初めてだ
先輩って人が物凄くお父さんを叱ってたっけ




「お父さん、ワルを捕まえる人になったんだって。お母さんが言ってた。その前は交番にずっといたのにね」
「ってことは、あの交番前を通るたびに、もうびくびくしなくていいんだ! やったぜ晃司!」
「それは翔瑠だけだ」
「えっ」
「ねぇねぇ。続きやろうよー」




三人は共通してヒーローマンが大好きだったし、三人とも仲良しだった
その関係は小学校から中学に上がっても、変わらなかった




「何で、私だけ別のクラス!?」
「あー。見事に別れたな」
「晃司と翔瑠は一緒のクラスなのにねっ」
「…寂しい」




私もだよぅと地味子は目をウルウルさせていた
彼女だけが違うクラスになって、翔瑠も晃司もちょっと心配だった
今まで地味子は友達と呼べる人が、彼ら幼馴染しかいなかったから
クラスでも男子に混ざって遊んでいたし、女子と一緒に居るところなんて見たことない




「地味子、クラスが離れてても飯とか一緒に食ってやるからな!」
「翔瑠。その優しさが嬉しい!」
「俺も」
「ありがとう、晃司!」
「でもクラスではちゃんと友達も作れよ?」
「…が、頑張りまーす」




小学校とは違って、中学は何もかもが初めての事ばかり
勉強は難しくて解らないし、いつの間にかクラスではグループが出来て、友達作りに乗り遅れたし…
まあ一人の方が楽でいいけれど、翔瑠に言われた手前、何もしない訳にはいかない

幸いこのクラスには同小の人が何人かいた
その事は休み時間も遊んだりと仲が良かったので、自然とそのグループに属していた

…あれ、此処って男子ばかりじゃん
気づいた時には遅かった…女子から変な目で見られるのも時間の問題だった


昼休みには、晃司と翔瑠が必ず誘いに来た
売店でお昼ごはんを買って、一緒に地味子の教室で食べるのが日課になっていた


異変は…ある時から起こり始めていた




「焼きそばパン…いや、コロッケパン?」
「パンばっかじゃねぇか」
「美味しいんだよ?」
「俺も好きだ」




ガヤガヤと騒がしい売店は、いつも人で混んでいた
パン一つを買うにも一苦労だった

今度からお母さんにお弁当頼もうかな?
忙しそうだから遠慮してたけど、うーん…

それにしても列から抜け出すのに苦労する
すみません、通して…




「いてっ」
「あ、ごめんなさい」
「いてぇなこの――」
「おい、やめろ女子だ…君は一年かな?」
「…信号機だ」
「は?」
「いや、あの…はいっ。一年生です」




三年生だろうか、両脇には友達らしき人を二人連れ添っている
赤・青・黄、それぞれのジャケット着た人たちだ

一瞬怒られるかと思ったけれど、どうやら余計な心配だったらしい

直ぐににこっと微笑んでくれた黄色いその人は、とても優しそうに見えた
隣に居る二人は強面で、ちょっと太めの赤とひょろっとした青
それぞれのカラージャケットを着ている
まるで信号機の印象…不思議な組み合わせの友達だと思った
とりあえず、私が足を踏んだのはこの赤い人だと言う事で、深々と頭を下げた




「足を踏んですみません…」
「地味子!」
「あ、翔瑠。パンは買えた――?」
「地味子に何かしたのか」
「晃司? どうしたの」




晃司が間に割って入ってきた
グイッと腕を引かれれば、翔瑠が冷や汗をだらだら流して、その場を離れる様に言ってきた



「何かしただぁ?」
「されたのはこっちだっての!」




何、どうしたの――

ふと優しい三年生の顔が、晃司を見て変わった気がした




「お前の…女か?」
「違う。地味子は関係ない」




晃司ははっきりとそう言った
三年生がじっと此方を見ている――翔瑠、なんでそんなに震えているの?




「地味子か。いい名前だ」
「…!」
「晃司、その人の友達に私がぶつかっちゃったんだ」
「あぁ、ものすごーく痛かったぜ!」




あれ、それほど強く踏んだつもりはないんだけどな
そんなに体重も重い気はしないし、寧ろこの先輩の方が重いと思う




「地味子は謝った。そうだろう?」
「うん」
「じゃあもう用はないはずだ。行こう地味子、翔瑠」
「待て、一年坊」




ガシッと優しい人の手が晃司の肩を掴んだ
晃司は表情を歪めて振り返る




「今から一緒に来い。逃げるなんてことはしねーよな」
「あの、晃司は今から私たちとご飯を食べるんだけど…」
「お、おい。地味子…!?」
「あー。ちょっとお友達を借りるだけだ。その間、デカ耳が一緒だからいいだろ?」




…デカ耳って、翔瑠の事?

優しそうな三年生だと思ったけれど、最初だけだったのかな…
何で三年生と晃司が一緒に行くの、友達なの?
いつの間に仲良しになったのかな

本当に…仲良し?
ふと晃司が心配になってしまった




「…晃司」
「地味子、気にせず翔瑠と一緒に行ってくれ。あと今日は一緒に食べられなくてごめん」
「ううん。いいんだけど…」
「い、行こうぜ地味子!」
「翔瑠は何をそんなに急いでるの? 引っ張らなくっても行くってば…」




――小さな、小さな石ころが

水辺に投げられて波紋を呼ぶように


それは次第に大きく…

確かに、変化が起き始めていた――




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