HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
3ページ/9ページ


「翔瑠、晃司は?」
「!!」
「どうしたの。急に声を掛けたから吃驚した?」
「あ、あぁ…晃司なら、ちょっと呼ばれてる」
「?」



先生かな、何か遭ったのかな晃司は――

仕方がない、忘れてしまった教科書は翔瑠に借りよう



「数学の教科書忘れちゃったんだ」
「おう、貸してやるよ…」
「あ、晃司だ」
「!」




ガラッと扉が開いて、晃司が入ってきた
途端に翔瑠が表情を変える




「晃司――先生に呼ばれていたの?」
「…あぁ」
「きょ、教科書はこれでいいんだよなっ!?」
「あ、うん。ありがとう翔瑠」
「じゃ、じゃあ授業が始まる前に教室に戻れよ。なっ!?」
「えー、まだ時間あるし、此処にいたいー」



教室に戻ってもつまらないし、と言えば、翔瑠は肩を竦めた




「お前…入学してもう何日経ったと思ってんだよ」
「あれ、晃司。血が出てる…転んだ?」
「大丈夫だ」
「そう?」




晃司は口端を切る怪我をしているようだった
よく見ると、制服も何だか汚れている――

翔瑠にもそれが解った
しかも制服は血で滲んでいるように見える

そんなに強く、殴られたのだろうか――




「今日もボコボコだ…」
「これで何日目?」
「ヤバくない?」

「――地味子! そろそろ戻ろうぜ! なっ!?」
「ちょっ、翔瑠、どうしたのさ」




ひそひそと声が聞こえる
それが地味子の耳に入らないように、翔瑠は慌てて教室の外に無理矢理連れ出した




「今日はもう数学ないし、いつでも返しに来てくれていいからよ!」
「…もう。なんなんだか」




眼前で締め切られた扉を前に、地味子はちょっと泣きそうだった
あんなに毛嫌いしなくてもいいのになぁ


…翔瑠が変だと言うことに、気付き始めたのもその頃だった


入学して一ヶ月も経った頃には、翔瑠と晃司、どちらも売店に誘ってくることが無くなった
勿論、一緒にお昼を食べる事もない
これは…自分に課せられた試練なのだろうか
翔瑠の事だ、クラスで友達をつくれと言っていたのだから、きっとそうだ…!
地味子は、今日も同小の男子を頼ってお昼ご飯を食べていた

いつも翔瑠と晃司が一緒だとその子は知っていたので、何気なく聞いてみたら…
地味子が目をウルウルさせていたから本当に焦った




「これは…試練なのよ…!」
「(試練って何だ…!?)」



しかし、彼女とお昼を食べられるのは、少なからず小学校から好意を持っていた身としては、とても嬉しい事だった
あの二人がいるときは、どうにも近寄れなかったからと、彼は笑う

結局女子の友達が一人も出来ず、同じような毎日を繰り返して――漸く気づいた




「翔瑠一人なの? 晃司は?」
「地味子…っ」




いつも一緒だったはずの二人が、何故か一緒に居なかった
売店に並ぶ列の中に、もう一人の幼馴染は居るのだろうか?

しかし、翔瑠の傍には――見慣れないクラスの人らしき三人が居た




「翔瑠の友達?」
「え、えぇと…」
「翔瑠、そいつは?」
「お、俺の幼馴染…なんだ!」
「ふぅん…あたしの方が可愛いわね!」
「お前、直ぐに他の女子と比べるのやめろよ。どっちもどっちだって」
「は?」



…なんだろう、この人たち
三人は小学校からの友人らしいから解るけど、翔瑠は――あとから加わった友達だからだろうか
全然馴染めている気がしない
どういったことで友達の定義が決まるのか、地味子には解らなかったけれど…
少なくとも今の翔瑠は、晃司といるときとは全然違う顔だった




「翔瑠、晃司は――」
「きょ、教室だよ!」
「…うん、解った」



どうしてそんなに声を張り上げるのか、解らなかった
もしかして、私って邪魔なのかな?
新しい友達が出来て、翔瑠は…本当に楽しいのかな


ふと、そんな事を思った




教室には晃司が居て――独りでお昼ご飯を食べていた
クラスの誰も晃司を誘おうとしていないみたいで…少しだけ、胸が痛んだ




「晃司」
「…地味子」
「酷いよー。ご飯食べるなら呼んでよね!」



それでも努めて明るく、地味子は晃司に話しかけた
晃司…なんだか前にも増して傷、増えてない?

地味子はそれを聞かなかった…いや、聞けなかった




「翔瑠を売店で見たんだけど…」
「…うん」
「…あ、そのパン美味しいよね! 私も好きなんだ!」
「俺も好きだ」
「うんうん! あとね、昨日お父さんがすごい人捕まえたんだって言ってた。こーんなおっきい身体なのに、お父さんコテンパンに負かしたんだって!」
「地味子のお父さんは、正義の味方だからな」
「家ではお母さんに頭が上がらないのにね」




お互いに顔を見合わせて、笑いあった
良かった、晃司は笑っていた――と安心するしかなかった




「翔瑠、飯食おうぜ」
「あ、あぁ…」




教室に戻ってきた翔瑠が、楽しそうな二人を複雑な思いで見つめていた





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ