HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
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「地味子、どうしたの。食べないの?」
「…うん」
「ダイエットか!? 地味子はそのままが一番可愛いぞ! お母さんみたいにちょっと体重が増えたからって、気にする事――」
「あ・な・た?」
「と、とにかく! 食べないとハンバーグはお父さんが貰っちゃうぞ!」
「せっとーのよーぎで逮捕しまーす」
「難しい言葉覚えたね、地味子!」




いつもの食卓、いつもの家族――これが当たり前の日常

家族との晩御飯は絶対に一緒がいいと、子供の様に駄々をこねる父は、働く部署が変わっていもそれを決して曲げなかった
特に急な応援や厄介な出来事がない限りは、基本的に地味子が寝る頃までには帰宅している




「あのね、晃司が変なの。翔瑠も変なの」
「晃司君は昔からちょっと変わっていたけれど…」
「翔瑠君は元気いっぱいの男の子だな」
「うん、お父さんが飛び入りで入ってきた、ヒーローマン役やってた方だよ」



父はともかく、母も昔から二人のことを知っていたし、その母親とも仲がいいようだ
今でも時折お茶をしているらしく、旦那の愚痴ばかり言い合っているらしい…父さんドンマイ



「二人がどうしたの?」
「…いつも一緒だったのに、今日は別々でご飯食べてた。多分今日だけじゃないと思う――」
「喧嘩か! 思春期にはよくあることだな。父さんもそういう時があったなぁ」
「…そー言うのじゃないと思う。あと、お父さんのお話は別に要らない」
「!?」




挙げ出したらきりがないけれど、とにかく変だと言う事は解ってもらいたかった
気になりすぎて、母の作る大好きなハンバーグにも手が付けられない
この子がご飯も喉を通らないなんて…と、少なからず父も母も娘を心配していた
大好きな二人の事がそんなに心配なのかと――顔を見合わせる




「三年生が晃司を呼び出したりしてるみたいで、そんなに仲がいいのかなぁ」
「…晃司君は、何て?」
「『気にするな』って…」
「そう…」



母は、何か解っているようだった
でも何も言ってくれなくて、少しだけ目を伏せた




「…もし、晃司君が困っていたら――傍に居てあげてね」
「? うん」
「晃司君は正義感溢れるから、きっとワルに狙われてるんだなー」
「…ワル?」




あっけらかんと父はそう言って、食後のお酒にもう手を伸ばしていた
お酒はそんなに強くない癖に飲みたがるのは、何故だろうかと母は小さく溜息を吐く




「悪い奴が晃司君を虐めているから、誰かが助けてやらないとなぁ」
「あなた、酔っ払ってるの?」
「いやいや? 俺は酔ってませんよー?」
「…苛め? 晃司が?」




そう、なのかな――




「こんな時、ヒーローマンなら…『ワルめ、もう許さないぞ!』とか言うんだろうなぁ」
「あなた、ちょっと黙ってて?」
「…晃司を護らなきゃ」
「地味子? 変なことを考えてないでしょうね?」
「晃司君を護ってやれるのはお前だけだぞ、地味子!」
「あなた!! 余計なこと言わないで頂戴!!」



父は相変わらず、母に怒られていた


…晃司を護れるのは、私だけ

悪い人を懲らしめる父のような正義感が、私にもあるだろうか…





――晃司がボロボロになっていく様を、気づいてあげられなかった

漸く気づいた頃には、もう――晃司は限界だったと思う


昼休みに担任から宿題を運ぶように言われて、職員室に寄った帰りだった




「何でクラス全員分を集めなきゃいけないんだろう、話しかけるのも一苦労だった。特に女子!」



あれは自分にとって難易度高いよ、先生…
私が独りって解ってるよね?
なのによく班を創れとか、グループ作れとか授業で言うよね
アレって苛め? この野郎…



「ん?」



ふと廊下から見た窓の外
校舎裏に面する其処に人の影を感じて――




「…晃司?」



それが晃司だと言う事に、直ぐには気付けなかった
はっと目に入った光景に、窓を全開にする




「晃司!」
「…っ!」




驚いた様子の晃司が此方を見て――ボロボロに泣いていた
その姿に、地味子は直ぐに窓枠に手を掛けてよじ登り、上履きのまま外に出た
びりっと何かが裂けた気がする――けど、何よりも晃司が心配だった




「どうしたの、晃司…何で泣いてるの?」
「…っ」



ゆっくりと近づけば、彼はびくりと肩を震わせた
人が泣いている姿を見ると、自分まで泣き出してしまいそうになるのは何故だろうか


こんな場所で、一人で、声を押し殺して――

理由を聞くのも、躊躇われた

泣いている晃司を見たのは、初めてだったかもしれない
それだけ、衝撃的だった



『もし、晃司君が困っていたら――傍に居てあげてね』



母が言った言葉を思い出して、地味子はそっと自分よりも小さな体を抱き締めた




「…晃司。私は傍に居るからね」
「地味子…」




自分に何が出来るか解らないけど…傍に居るよ


晃司は、ずっと声を殺して泣き続けていた――




ふと、誰かが此方を見ている気がしたけれど、その人物は直ぐにその場から走り去ってしまった

誰だったんだろう――それが翔瑠だと言う事を、地味子は気付かなかった

最近目が悪くなってきたからなぁ…
目を凝らしてみたけど本当に解らないや


お母さんに眼鏡でも買って貰おうかな――


あとごめん晃司、私ってばハンカチすら持ってないよ
女子力? 何それ美味しいの?




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