HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
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「お。来たな…あん? 誰だそいつ」
「あなたがワル?」
「はぁ? 何言ってんだ、こいつ――」




やって来たのは校舎裏だった
其処にはあの強面の二人と、優しそうな三年生
あと、女の人が二人いた
彼女達も三年生なのだと思う

校舎裏では、あり得ない光景が広がっていた

何あれ…皆、タバコ吸ってる
それにあの人…樹に登って何してるの、蝉の真似?
それを見て、皆が笑ってる――




「…っ」
「地味子」





ぎゅっと握り締めた拳に、晃司が触れてきた
ゆっくりとそれが解きほぐされる




「…お前、あの時の女か」




振り返った三年生が言った
その人の顔は、もう優しさの欠片も感じられなかった
少なくとも、こいつが一番のワル――地味子は直ぐにそう思った




「何しに来た? こいつと一緒って事は…何をされるか解ってんだろ?」




相手は上級生で、自分より背も高い
見下ろしてくるその眼は少しだけ畏怖を感じたけれど、今一度、地味子は自分を奮い立たせた




「こ、晃司を虐めるの、止めて下さい」
「…あ?」
「あなたたちはワルだ。寄ってたかって人を虐めて…」
「ワルだぁ? こいつ何言ってんだ」




強面の太った人が嘲笑うように此方を見てくる
女の子たちもくすくすと笑っていた
この状況を面白がるように…何これ、なんでこの人たち笑っているのかな

赤・青・黄
その三人の着ているジャケットがまるで信号機みたいだった

ちょっと太った人が赤い服を着ていて、今まさに地味子の前に立ち塞がっている
止まれってことかな?
子供にも解りやすくていいね

青いのはもう一人の三年生
こっちは進め、かな
三人の中で一番弱そうな気がする…

そして――黄は注意
リーダー格と見られる優しそうな男だけど…今は全然違う顔つきだ
見た目通り…要注意人物かもしれない




「おい、一年坊」
「…っ」
「これはお前の差し金か? チクったのか?」
「…」
「晃司は関係ない。私が来たくて来たんです」
「へぇ…」




その人の顔がにやりと笑っていた

晃司には何も言わせなかった
全部私が言うからと、黙っているように言っておいた
今も無表情のままだが、何か言いたげにちらちらとこっちを見ている気がする

ごめん、晃司。
あとで文句はいっぱい聞くからね!




「こいつ、生意気だよな。女が男を助けに来たってか?」
「ぷくく…」
「なぁに、この子―?」
「一年生? ちっちゃくて可愛いー」




女の子たちが見ていた
それが、男達には小さなプレッシャーになっていたのだろう
少なくとも、いいところを見せたり、格好つけたい気はあったと思う




「晃司が何したって言うんですか。馬鹿じゃないの。男のくせに情けない」
「何ぃ…?」
「おい、てめぇ。今なんつった?」




――パンッ



「…生意気だ。女の癖に」
「地味子!!」




人を平気で傷つける事を、男らしいと呼べるのなら…それはきっと間違っている




「きゃっ!?」
「ちょっと、相手は女の子なのに…!」




女子たちが驚いたように声を上げるのが解った
脳髄ごと揺さぶられた気分だ、頭がくらくらする
おまけにちょっと吐きそう…

頬も痛い、引っ叩かれたのって母親以外に初めてだ
男の人って結構力あるんだなぁ…お父さんは一度も私に手をあげたことないから
それでも足を必死に踏ん張って耐えた
泣く事だって…絶対にしない!




「…ワルめ」
「あ?」
「そうやって暴力を振るって、力を誇示して…女の人に見せつけたいんですか?」
「てめぇ…!」
「ねぇ、やめなって…!」




ちらりと地味子の眼が女子に向けられれば、彼女たちは戸惑った顔をしていた
どうして自分と違う人にはケラケラと笑っていて、自分と同じ人には止めようとするんだろう
男と女で、何が違うんだろうか




「人として最低ですね」
「お前ら、押さえろ」
「は?」
「おい、何もそこまで…!」
「うるせぇ。女の癖に、この俺に楯突いた罰だ」
「こいつ…キレてやがる!」




こうなったら俺達でも止められないと、赤も青も揃って表情を歪めた
とりあえず逆らったら自分達も何をされるか解ったもんじゃない





「…!? ちょっと、なにするんですか!」
「騒ぐな!!」
「じっとしててくれ!」




赤はともかく、青にはちょっとした良心的な意志を感じられた
でも結局やってることは同じだ

あっという間に両腕を左右で拘束された




「地味子!」
「お前は其処に居ろ!」
「ぐっ…!」
「晃司っ!」



晃司は助けようとして、黄色い人に殴られていた
完全にグーだった




「お前は俺のプライドをズタズタにした。こいつらが見ている前でな…」

「あ、あたしたち――先に帰ろっか?」
「う、うん。そうだね…っ」
「おう…また明日な?」




逃げる様にその場を去る二人
サイコパス――ふと女子の一人がそう口にした気がした
何だろう、それ? 知らない言葉だと地味子は思った




「おい、蝉」
「ひ、ひぃっ!!」
「お前まで帰るとか言わねぇよな? 逃げたら…どうなるか解ってんだろうな」
「ひいいいいっ!!」




蝉と呼ばれたその人は、先ほどまで樹に登っていたその人だった
二人に便乗して逃げようとしたみたいだけど、残念だ

とりあえず、両腕ががっちり握られてて動けない
二人して拘束なんて狡いぞ

黄色い人が近づいてくる
その表情は――怒った母よりも何となく怖くて、狂ってる気がした




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