HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
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「ズタズタにされたら、お返ししてやらなきゃな」
「…っ」




スッとポケットから取り出されたのは、よくあるカッターナイフだった
細身のそれは、チキチキと刃先が出されている

ゾクリ、背筋が凍りついて心臓が跳ねた
見た事ある物も、時と場合によっては…とても恐ろしく見える

落ち着け――

ただのカッターじゃないか
図工とか工作でよく使っていた




「これが何だか解るか?」
「…カッターナイフ」
「そうだ」




顔の横に当てられたそれは、ぴたりと刃の冷たさを感じさせた

心臓の音が煩かった
まるで耳元で聞こえているくらいだった

赤い人の心臓だろうか、それともこっちの青い人?
ううん、自分自身?

どれがどれだか解らなかった




「まあ…謝れば、許してやらない事もねーけどな? 俺は優しいんだ」




そうは言っているけれど、目は笑っていないし、ちょっと顔つきも危ない




「謝るのはそっちの方だよ。晃司に、謝って」
「…あぁ?」
「酷い事をしたのは貴方達でしょ。このワルめ」




ピッと頬に痛みが走った
どうやら切られたらしい…

びくりと直ぐ傍で、青い人が震えた気がした




「お、おいっ…!」
「俺が、ワルだぁ――?」
「よせよ。この子は女の子だぜ!?」
「今更何言ってんだ。こいつは…ぜってー許さねぇ」



ホント今更だと思った
赤い人も青い人も、止めるならさっさと止めてほしい
それでもこの拘束はちっとも緩まなくて、結局堂々巡りだ

この人たちは何もしない

何も、期待しない――




「てめー…後で泣き叫んで先公や親にチクッたら――殺すぞ?」
「…そうしたら、いち早くお巡りさんが来るね」
「ポリなんて来ねぇよ。お前らが何も言わなければ済むことだ」
「…」
「チクったら、その可愛い顔や身体が大変なことになるなぁ…」




――叫び声も、泣き声も出なかった

必死で唇を噛み締めて、黄色い男を見据える
泣いても喚いても、相手の思う壺だ
それが相手を調子付かせ、さらにエスカレートさせる…
地味子でもそれは解っていた

ヒーローマンで悪役は、いつもそうだったから
最後には正義が勝つけれど…




『きゃー。ヒーローマン。助けてー』

今、それを口にしても、ヒーローマンはきっと現れない
本当に危険になった時にしか、ヒーローマンは現れてくれないから
そうお約束が決まっている

…どうやら今はまだ、私も人質として危険な目に遭う他ないみたい




「――とことんワルだね」
「…まだそんな口が利けるのか。お前もこいつと一緒で馬鹿なのか?」
「お前が馬鹿だ」
「…っ!!」





もしかしたら自分は、苛めって言うのを殴ったり蹴ったりすることしか、考えてなかったのかも知れない


相手が本当にキレ出したら、何をしでかすか解らない――
犯人を捕らえる最後の最後まで、気を緩めちゃいけないんだ…と、お父さんが言っていた記憶がある

懐かしい記憶が、まるで走馬灯のように流れていた



それって、確か命の危険に曝された時に――




「お前、生意気」




――左肩に、途轍もない痛みが走った気がして、ふっと意識が飛んだ




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