HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
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――いいか。お前もチクッたり、厄介なことになったら…ただじゃ置かないぜ?


――そこの女も、あのデカ耳にも、同じように痛い目に遭わせてやる…



――解ったか? 耐えてみろよ…





夢の中で、そんな声が聞こえてきたと思う
誰の声か、よく解らなかったけれど…いい気はしなかった

意識が浮上して目を開ける
目覚めも――ちょっと最悪だった




「…?」




一定のリズムで移動しているそれは、いつもの見慣れた通学路を辿っていた
なんでこんなに目線が高いのかと考えて――人の頭らしきものが見えた
あと、知った人の匂いもした



「晃司…?」
「――地味子。起きたのか」
「うん…あれ、なんでおんぶされてるの私」
「…」
「晃司、あいつらは?」




――帰った、と晃司はそれだけを口にした

目が覚めたって事は、自分は今まで寝ていたってことだ
何で、どうして
あの状況で――って、上手く思い出せないけれど…




「あいた…っ」
「大丈夫か」
「う、うん――ちょっと痛いかな」



何だか左肩がジクジクして、血の匂いが――




「…何これ。血が出てる」
「ごめん地味子」
「え、何で晃司が謝るの…」
「もっと早く応急処置したかったけど…出来なかった」
「…? うん、いいよー」




へらりと地味子は笑っていた
どうして彼女が笑うのか、解らなくて…晃司は眉を顰めた

左肩は思いの外血が出ていて、制服のブラウスを汚していた
帰ったらお母さんに怒られるかなぁ…汚しちゃったから
自分の身体よりも、服の心配をしてしまう

タオルか何かで抑えられているけれど、それもまた血で赤く染まっていた


さっきまで眠っていたはずなのに、どうしてかまた、眠気が襲ってくる――




「こっちこそ、ごめんね…おんぶなんか、させて…」
「…地味子?」
「…ごめん、晃司…家に着いたら、起こして…」




なんか変だ、と思った時には、歩く速度を速めていた

もうすぐ彼女の家に着く頃だった――





――激しく鳴らされるインターホンに、新聞の勧誘か何かだったら容赦なく追い返そうと思っていた




「はいはい。どちら様――あら、晃司君」
「おばさん…っ」
「どうしたの――って、地味子? 何なのよこれ…」
「地味子は…っ」
「…あぁ、お母さん…ただいまぁ…」




ふにゃりと笑って、地味子はそう言った
ゆっくりと晃司から降りると、呆然とする母親を余所に家の中へと入っていく




「地味子!」




母親が呼び止めても、彼女はふらりとして立ち止まらなかった
晃司を見れば、びくっと肩を震わせているのが解る




「ちょっと…いらっしゃい? お話ししたいのだけど」
「…はい」




晃司は素直に従って家の中に入った
リビングに通されてすぐに、地味子の母親は彼女の部屋に向かった

ガチャガチャとドアノブを動かすものの、それが開かれることはない




「地味子? 開けなさい」
「着替えてるからやーだー」
「何が遭ったの? なんでそんな姿なの、それにこの匂い…」
「あれだよ。とうとうきたんだよ、私」
「そんなもの何年も前からきてるでしょうが!」




個人的には別に知らなくてもいい事だけど、晃司の耳にはしっかり届いていた
暫く押し問答を繰り返していたけれど、やがて母親の方が折れたのかリビングに戻ってきた




「ごめんね、晃司君――」




母親が見たのは、リビングで土下座をする晃司の姿だった




「どうしたの晃司君…顔を上げて?」
「地味子は俺のせいで…!」
「…」




震えた声で、晃司は決して頭を上げなかった
晃司の前に同じようにして膝を突く母親に、彼はびくりと身体を震わせる

その必死に謝る姿に、思わず表情が歪んだ

頭に過ぎる、最悪の展開を予想して――




「…地味子が言っていたの。晃司君と翔瑠君が、一緒に居ないって」
「…!」
「喧嘩でもしているの?」
「それは…」
「――上級生に呼び出されているって言うのは、本当?」




晃司は何も言わなかったが、それは肯定と捉えるしかない
地味子が母親に、何処まで話しているか、解らないが…




「…っ」




またも沈黙――




「そう――酷い傷ね…」
「俺より、地味子が…」




本人は平然と笑っていたけれど、部屋の中では何を思っているのだろうか?
彼も娘も、ズタズタで、ボロボロで――それでも泣く様子はなくて

こっちが泣いてしまいそうだと、母親は思う


――傍に居てあげて、何て言うべきじゃなかった…っ




「――晃司君」
「…はい」
「お母さんは知っているの?」
「…心配かけたくないから、言ってない――」




この子は、何処まで優しいのだろうか
気持ちは解るけれど、これじゃ――辛い事も吐き出せないんじゃないか




「…あの子は、理由を隠そうとしている。きっと私が言っても話してはくれないと思うわ。変な所で頑固だから」
「…」
「だからおばさんも何も知らないし、勿論おじさんにだって知られない――けど、それでいいの?」
「…そうなったら、あいつらは地味子や翔瑠を――」




そこで、ぐっと言葉は飲みこまれた
皆まで言わなくても、その続きは解ってしまう




「そう――酷い事するわ」




そっと手を伸ばして、未だ下げられたままの頭を優しく撫でる
感じたのは、人肌よりも温かすぎる体温だった




「今日はもう帰りなさい。ちょっと熱っぽいから…心配だわ」
「大丈夫です…」




漸くあげられた顔もまた赤かった
傷口はまだ血が滲んでいて、下手をすれば化膿してしまう恐れもある――




「病院に行きましょう?」
「いえ…おばさんにも迷惑がかかる」
「そんなの気にしないでいいのよ。貴方は」
「…お邪魔しました」
「あ、晃司君――」




ふらりとした足取りで、晃司は家を出て行った
頑固なのは彼も同じなようだと、息を吐く




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