HERO GIRL

□私と過去と地獄の原点
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「手を出すな。地味子も翔瑠も…俺の友達だ」




見覚えのあるポーズを構えて、晃司はそう言った
両腕を上げて、頭の上で拳を構える独特のポーズ




『俺はヒーローマン。正義の味方―』




幼い頃、翔瑠がしていたヒーローマンのポーズを思い出した

なんだろう、今の晃司を見ていると――涙が出そうになる




「何あれ…」
「刺青?」
「ヤバくない――? 通報したほうがいいんじゃ…」




教室内が一気にひそひそと囁かれていた
晃司は制服を脱ぎ捨てて、タンクトップ一枚になっていた

その身体には…無数の傷が見え隠れしている
まるで尖った何かで傷つけられたような――そんな傷だった


…涙が流れた理由は、それだったのかと地味子は思った




「…二人を虐めるな」
「――おい。こいつを痛めつけろ」




黄色い奴が青に命令を下す
正直…もう懲り懲りだと思った

このデカ耳にしても、この女にしても――これ以上騒ぎが大きくなれば、こっちの身だって危ない
大体自分の手を下さないってどうなんだよ
自分は安全な所で高みの見物か?

其処の女だって肩に怪我をしてるじゃねーか
本当は傷害罪とかそーゆーの喰らってもおかしく――へぶぁっ!!?!?




「…おせーよ。俺の言うことは素直に聞け馬鹿」
「ぐあああああ!」




黄色が青を殴り倒していた
もう仲間でさえも関係なかった

次に向いたのは、赤だった
彼が自分の上でびくっと身体を震わせたのが解る

正直、青が動かなかった理由も理解出来た
流石にやりすぎだと――そう赤は言いたかった




「…おめーもか?」
「――っ!!」




恐怖で慄く赤の姿があった




「…ねぇ。何か聞こえない?」
「あ?」




ふと地味子が口に開いた
ずっと地面に這い蹲る様に耳を当てていたから、その振動が、声が――聞こえてくる

遠く、遠く…


それはもう物凄い勢いで誰かが――走ってくる足音
先公が来た――?
それなら見張りに出た奴がいるはずだ…

しかし、扉は勢いよく開かれる

だが、予想に反して現れたのは――見知らぬ男だった




「――てめえかこらああああああ!!!!」
「へぶっ!?!?」



――だ、誰っ!?

――超イケメン!!!!




そんな声が辺りから聞こえてくる
現れたその人物は、容赦なく赤い人に殴り掛かった
突如消えた重圧と聞き覚えのある声に――顔を上げる

そして、勢いよく抱き締められた




「地味子!!!!大丈夫か!?」
「…苦しい」
「何っ!? 何処か痛いとこでもあるのか!」
「自分がやってることに気付かないのこの馬鹿」
「酷い!お父さんこれでもすごく心配してたんだよ!?」




――お父さん!?



「親父だぁ…?」
「うわ、何あれ。まれに見ぬ凶悪犯っぽい顔―」
「お父さん、あれがワルだよ」
「そうか!」

「先輩!? 何してんすか! 駄目っすよ、俺ら一応警察官!」




――警察来るの早くない?

――誰か呼んでたの?




「うるせぇええ! 大事な一人娘のあんな姿、黙ってられるかああああ!」
「駄目だこの人、手に負えない」




つい最近異動になって、この先輩とコンビを組んだのはいいが…
まさかこんな人だとは思わなかった

普段は真面目に仕事をして、キリッとしていて、しかもイケメン
何この人、本当に同じ男?
しかも自分より少し前に異動したばかりだと言うのに、もう数々の検挙を挙げている――
自分よりも10も年上だとこうも違うのだろうか、と凄く尊敬したものだ

これが本当に、本当に――自分の尊敬した人なのか?


娘を抱き締めて、嫌がられている――ただのお父さんじゃないか




「お父さんが来たからにはもう大丈夫だからねっ!」
「うん、でも正義の味方がワルになっちゃだめだよ」
「了解!」
「あと、あの人もお父さんの職場の人? 何か引いてるけど…」
「…あ」




其処で思い出したように、父とその人は目を合わせた
やがて、パッと娘から身体を離すと、ネクタイを正し、キリッとした『仕事モード』で立ち上がった



「さ。仕事にかかろうか!」
「もういいっすよ、先輩…なんかいろいろ、イメージ像が崩れましたから」
「マジか。それならいいや、好きにさせてもらう」
「もう駄目だこの人、早く何とかしないと…!」




部下っぽい人からのイメージは、もっと最悪なものになっているよお父さん




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