HERO GIRL

□私と過去と地獄の原点
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「警察…!?」
「そう、警察だよー。警察手帳は…ほれ!」
「先輩、写真がまた落ちましたけど」
「おっと。可愛い妻と娘の写真だ。はっはっは!」




何それ、そんなものを警察手帳に挟んでるの
世も末だね
部下っぽい人は呆れたようにそれを見ている
もうそれ以上、イメージを崩すのやめてあげて?



やがて父は本当に『仕事モード』で教室中を見渡した

床に倒れて呻いている赤と青のジャケット二人
そして一番悪そうな黄色の男が、教室の中央に佇んでいる

それを遠巻きに見るクラスの生徒達と

尻餅をついて動けない翔瑠君

それから――晃司君と、地味子




「しかし、まあ…酷い光景だね」
「君、その身体の傷はどうしたんだ!?」
「…っ」
「あー。その子は、知ってるからいいよ。気にしないで」
「先輩!?」




何で知っているのお父さん
その声は、地味子の口から発されることはなかった

またも開かれた扉――今度は誰だ?




「あっれー?俺の出番ないじゃん。お前どういう事、話が違うけど?」
「そ、そんなの俺にも解んないよ…!」




あれは、蝉の真似をしていた人…
隣は、誰だ?
眼鏡をかけた金髪、制服姿じゃないって事は――外部の人?




「あれ、お巡りさんじゃないっすかー!」
「今は刑事だよ」
「あ、昇進したんすね。おめっとーございまーす!」
「お前、悪さしてないよな?」
「もっちろんっすよー!」




どの口がそれをほざく、と連れてきた男はそう思った

遠くに住んでいる自分の従兄弟
喧嘩が強くて、地元じゃ高校生にも恐れられている
金の亡者なのが玉に瑕だが――本当に強い極悪人だ

ただ、あの刑事さんとは顔見知りらしく、その様子は微塵も見せていない
此処に来るまでは、喧嘩が出来るって嬉しそうな顔してたのになぁ…




「何で此処に来た?」
「あー。俺の従兄弟が虐められてるって聞いたもんですからね。ちょっと顔を見に来たんすよー」
「…淳助。俺が居なかったらお前、こいつらに何かしていたな」
「やだなー! 俺ってばそういう風に見られてるんすか―?」




止めて下さいよー!と、従兄弟――淳助は笑っていたけれど…本当はそうなんだよな

ふと、淳助が刑事の足元に座る女の子を見た




「お?お? もしかして娘さん!?」
「…っ!!」
「やめて。地味子がビビってるから、顔近づけないでね、大事な娘に」
「へぇ、地味子ちゃんっての? 可愛いっすねー」
「だろ? 自慢の娘だ。はっはっはー!!」
「はっはっはー! 超が付くほど親馬鹿っすね、相変わらず!」




もうやだ、この上司もこいつも――

部下の人は小さく溜息を吐いた
可哀想にと思わず憐みの目を向ける地味子




「――でも、こいつは娘に一生ものの傷をつけやがったんだ…」
「あー。傷物にしちゃったんすね。やべーなそれー」




淳助が教室に足を踏み入れて、黄色い男に不用心にも近づいていた
余りのも簡単に近づくものだから、一瞬相手が狼狽する姿が見える




「お前、ヤッちゃったんだー」
「な、何だよ。てめーは!」
「俺? 俺はお前と同類だよ。ただし…極悪人だけどな」
「ひっ!?」
「おーい。ビビらせるだけにしとけよー。これ以上の騒ぎはやめてくれ。報告書が面倒だ」
「先輩…?」




大丈夫かこの人…
警察がそんなんでいいのだろうか、これって隠蔽ってやつじゃ?




「とりあえず…皆、逮捕する? もう少年院送っちまうか」
「いや、あの――先輩、学校の先生にもこの事を伝えないと…」
「少年院…!?」
「あれ、ビビってんの? それだけの事をしたんだからあたり前じゃん。それとも自分は入れられないとか思ってた?」




――あそこは面白いよー


まるで経験したことのある言い方だった




「ゆ、許して…」
「――それで、お前は許したのか? 彼らを」
「え…」




晃司、翔瑠、蝉先輩、そして地味子――
それぞれを見て、父が言う




「ふざけるなよ…!」
「ひっ!!」




…怒っているお父さんを見たのは、初めてだった




「お前は最低な奴だ」
「…!!」
「人を平気で傷つけるなんて、ワルのすることだぞ。あぁ、誰か…先生を呼んでくれないかな」
「ふざ…けるな――」
「は?」
「先輩!!」




部下が叫ぶと同時に、その男は歪んだ顔で手近にあった机からカッターナイフを取り出した

…びくり、と肩が震えたのは――気のせいだと思いたい
でもあれ、自分が受けた時よりもはるかに大きいやつだ

目一杯に刃先を出して、それを父親に向けて突っ込んでくる

え、嘘。お父さん――!!



ヒュッと見えたのは、教室の机だった

…机?




「あ、手が滑った」
「ぐほおおお!?」
「淳助。お前なぁ…」
「刑事さんを助けようとしたんですよ」




どうやら淳助と言う人が、机を放り投げたようだ
手が滑ったと言っているが、そうでなくてもそれで殴っていた事になる

何この人、恐ろしい…




「刑事さん、面倒事起こしたくないんでしょ。此処、娘さんの学校だしさ」
「…まあ、ありがとーな。礼は言っておくよ」
「いーえ」




痛がっているその男は、それ以上の抵抗を見せなかった
多分、この二人の前では無駄だと悟ったのかもしれない
赤と青の男達も、同じように意気消沈していた


…お父さんを凄いと思ったのは、ただその一度だけだった

――酷いねっ!?




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