HERO GIRL

□私と過去と地獄の原点
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それから先生たちが教室に駆け付けた
部外者が居る事に動揺を隠せなかったが、父はあくまで『保護者』として先生たちと話を付けていた




「あ、どーも。このクラスの先生?」
「(誰このイケメン!?)」
「ちょっとお話したいんですけどね。皆で職員室にでも行きましょうか」
「は、はい」




有無を言わさぬ物言いに、先生はたじたじだった
先輩ちょっとだけ刑事の本質が出ていると、部下は顔を顰めている

先生たちは教室内を見渡して、ただ事じゃないと悟ったらしい
すぐにその場に居た全員に口止めをした――警察の前とは知らずに



「…先輩」
「俺は今、『保護者』だからな」
「保護者でも聞き捨てなりませんけどね」
「んー。お前が何も言わなかったら大丈夫だろ。信じてるし」
「…そうっすか」




この人は、本気でそう言っているのだろうか
だとしたらとんだお人よしだ
でも――悪い気はしない




「あと俺、殴っちゃったからそれも言わないでね」
「…じゃあ車に戻ってますね」
「おー。すぐ終わらせるから」




バレたら大変だな――と深い溜息を吐いた




それから関係者全員が応接室に通された
被害者をはじめ、加害者、保護者、クラス担任と学年主任、校長までが一堂に会している
物々しい雰囲気が漂っていた
特に学校側は――重い緊張感に包まれていた




「何でお前も着いてくんの?」
「あれー。俺も一応関係者じゃない?」
「従兄弟の付き添い的な感じじゃなかったっけ」
「何か楽しそうだし。それに目撃の証言は一人でも多いほうがいいっしょ」




何故か淳助までが其処に居た
お前が居るとなんかややこしい気もするけど、まあいいか
一応助けてくれたし




「せ、先生! 俺はこいつに殴られたんです!」
「こいつって何? 大人に向かってそんな口きいていいの?」
「うっ…」
「教育と指導がなってないと思います。親も学校もね。お蔭で保護者の私が乗り込んでくる始末だ」




やれやれと肩を竦める
父親がこんなにも頼りになるとは思わなかったと、地味子は隣に座って聞いていた




「娘や友達が酷い目に遭わされても、先生方は気付かなかった。いや知らない振りをしていたのかもしれない…どっちだろうともう遅いけどね。特にこの子は酷い」




晃司の身体には、無数に刻まれた酷い落書きの痕があった
それが、苛めと言う存在を言葉通り浮き彫りにしている
学校側もそれを認めざるを得なかった




「じ、事情は分かりました…」




其処で校長が漸く重い口を開いた
さっきから汗がだらだら流れていて、ハンカチで拭いているけどそれはぐっしょりと濡れていた
それだけ事態は深刻なのだろう




「これだけの事態に陥っても、学校側が何もしないなんてことないですよね? うちは娘がこいつらに傷つけられている」
「…そ、それは」
「あれ、本当に何もしない気? それならこっちも出るとこ出るよ。警察来ちゃうよ?」




警察は自分だけどね――父は性悪な笑みを浮かべていた
その顔、さっきまで黄色い人が見せてたのと一緒だね

あれ、どっちがワルか解らないや




「け、警察は――その…」
「学校のイメージと言うものがありますよね、解ります。私も出来るなら警察を呼びたくない」
「あっは! あんたがそれ言っちゃうんだー?」
「き、君は何だねっ!? うちの学校の生徒じゃないようだが…!」
「あ、俺はこいつの従兄弟っす。虐められてるってんで相談に乗ってたんすよー」




びくっと淳助の隣に居た眼鏡の生徒が身を震わせた
自分が連れてきたんだろうが、この極悪人を
今になって怖いなんて言わないよね、こいつに頼った君が悪い




「あー。気にしないでください。こいつはあくまでその子の保護者みたいなもんですから」
「そーそー。俺は何もしてませーん」
「せ、先生! そいつは俺に机を投げてきたんだ!」
「…ぁあ? お前誰に向かってそんな口きいてんの?」
「ひっ…!」




――淳助、お前はもう黙っててくれないかな?

あと黄色の少年、君だけだよそんなに喚いているのは
両隣を見てごらん、赤と青の二人は何も言わないよ
ガクブルしてるだけ




「とにかく、子供が安心して学校に通えるように、彼らには真っ当な処分を下していただきたいものです」
「…処分、ですか」
「もういっそのこと転校させてください。その方が楽だ。どうかな晃司君?」
「…はい」




晃司はしっかりと頷いた
事を大きくして母親に知られたくないと、父は解っているみたいだった




「――解りました。彼らには転校と言う形で責任を取ってもらいます」

「「転校!?」」
「ふざけんな…!」

「…少年院に入れられないだけマシと思え」

「「!」」

「あっは! あんたがビビらしてどーすんの!」




淳助は腹を抱え、面白可笑しく笑っていた
何がそんなに面白いのか、涙まで流していた
大丈夫か、こいつ――




――そして

学校側は三人を強制転校させることで合意した


それぞれの身体に、心に、深い爪痕を残した事件は



一先ずこれで幕を閉じることになる――




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