HERO GIRL

□私と過去と地獄の原点
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話し合いが終わり、父は部下の人が待つ車に向かっていた
これからまた仕事のようだ

車に乗り込もうとする後ろ姿に、地味子は声を掛ける




「お父さん」
「ん?」
「…ありがとう」




とても忙しい合間を縫って来てくれたことに――少しだけ感謝する

多分、お母さんから聞いたのかな?
だとしたら…心配をかけただろうか

すると父は、とても嬉しそうに運転席に座る部下を見た



「聞いた? 珍しく娘がありがとうって…!!」
「先輩。普段どれだけ感謝されてないんですか。父親としての威厳はないんすか?」
「何それ酷い。あとお前、なんかちょっと変わった? 先輩だよ俺」
「…先輩が変わったんすよ、きっと」




正直部下としては、キリッとして仕事の出来る先輩のままでいてほしかった――
まぁ、こっちの先輩の方が気さくに話しかけやすくていいけど…




「ありがとうございます」




部下の人にも深く頭を下げれば、父越しに少しだけ驚いた顔をされた




「…礼儀正しい娘さんっすね」
「だろ。惚れるなよ」
「先輩を『お義父さん』って呼ぶのは勘弁したいっす」
「俺もお前が息子になるのは嫌だなぁ…」




何を話しているのか解らないけど、苦労を掛けてすみません部下の人




「えぇと、娘さん――地味子ちゃんだっけ」
「はい」
「辛かっただろうけど、これからは笑って過ごせると思う。だから安心して」
「…一番辛いのは晃司です」




晃司に比べたら、自分の傷なんて大したことない…

心にも、身体にも深い傷を彼は負っていたから――




「これからは晃司、笑ってくれるのかな…」
「地味子ちゃん…」
「地味子」
「ん?」
「晃司君が笑えるかどうかは、お前次第だよ」




くしゃり、頭を撫でられた
余りにも雑すぎるそれに、髪の毛がまるで鳥の巣のように爆発している
なにこれやめて。『休日モード』のお父さんじゃないんだから――

やがて身体を反転させられると、目の前には見知った二人が経っていた




「晃司。それに翔瑠…?」




晃司は、ビシッと直立した姿勢から何も言わずに頭を下げた
それを見て、慌てたように翔瑠もまた頭を下げる




「お前が笑っていれば、彼らもきっと笑ってくれる」
「…うん、…うん、頑張る…っ」




ぐすぐすと泣く娘の姿に、父は困ったように笑って――その背を優しく押した



背中を押されて、


走り出す




「晃司…翔瑠…っ!!」
「地味子…!」




大切な幼馴染達の元へ、地味子は二人に勢いよく抱き付いた
晃司も翔瑠も驚いていたが、二人は決して彼女を離しはしなかった




「な、泣くなよ馬鹿…っ」
「…うう、そう言う、翔瑠だって…っ」
「な、泣いてねぇし…!」
「出るもの全部出てるぞ、翔瑠」
「う、うるせぇっ…!」
「…痛い」




いつの間にか、地味子につられて翔瑠も泣いていた
晃司は泣きこそしなかったものの、ずっと地味子を慰めていた
ふと、その向こうで彼女の父親がひらひらと手を振って、車に乗り込んだのが見えた
もう一度晃司が頭を深く下げると、車はゆっくりと学校から離れて行った




「約束の口座に金、振り込んでおけよー」
「えっ。でも淳助は何も…」
「俺が何もしてないって? …あの刑事が居なけりゃ、いい金儲けになったんだぜ」
「ひっ…!」
「それに一応、あのリーダーみたいな奴をボコったし」
「わ、解ったよ…」




丁度帰る頃だったのか、淳助と蝉先輩がやって来た
校門の傍に居る三人を見つけると、ニヤッと笑っていた




「地味子ちゃん、だっけ?」
「は、はい…」
「俺、淳助。昔あんたの親父さんにはすっごく世話になったんだ――勿論悪い意味でさ」
「そうなんですか…じゃあお兄さんもワルなんですか」
「ワル? あぁー、そうだね。それも超がつく極悪人だ」
「はぁ…」



あれ、意外と驚かない?
女の子にしては度胸があると言うか、それとも興味がないとか?




「ワルなんて言われたの二人目だ。さすが親子だよ」
「お父さんと一緒にされるのは嫌です」
「あっは! 君面白いねー!」
「…それじゃあ、お兄さんも強いんですか?」
「俺? うん、強いよ。君のお父さんには…うん、何回か負けたけど、昔の話だし?」



今なら勝つ自信あると豪語していたが、その自信は何処から来るんだろうか
父親も一応警察の人間だ
それなりに悪い人を捕まえたり、修羅場を潜り抜けたりと話は聞くから、結構強い人だとは思うけれど…


すると、晃司が口を開いた




「ど、どうしたら――そんなに強くなれるんだ?」
「…あ?」
「強くなるには、どうしたらいい」
「あー。…毎日ランニング10キロ、腹筋、腕立て、スクワットを100回でいいんじゃね?」




それが明らかに面倒臭そうな物言いだった
地味子でさえも雑だと解るが、あの晃司の事だ




「…なるほど」
「お、おい、お前…まさか本気にしてないよな?」
「翔瑠。早速明日からやろう」
「えっ!?」
「強くなる為には、それしかないんだ」




別にそれだけが道じゃないとは思うけれど…まあいいか

馬鹿正直に信じたそのトレーニングは、晃司と翔瑠をより逞しく成長させることになるのだが


今はまだ、誰も知らない――




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