HERO GIRL

□私と担任と不祥事
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「――諸事情により、担任の先生は自宅謹慎となりました。その為、暫くは私が代理でこのクラスを受け持ちます」




その日のHRで、彼女はそう言った
副担の先生がHRを取り仕切るのには驚いたが、担任が自宅謹慎となった事にはもっと驚いた

一気にクラス中がざわつく




「諸事情って…なんかあったんすか?」
「それは言えません」
「えー。何をやらかしたんすか、あのセンセ」




生徒の疑問に彼女は答えてはくれなかった
多分、この中で事情を知っているのは自分だけだと、地味子は思う

結局校長室に呼び出された担任の先生は、それっきり姿を見せることはなかった
先生以外にも他に生徒の姿はあっただろうけど、その全員に口止めが出来るかどうかは定かではない


自宅謹慎も、正式な処分が下されるまでの猶予と言ったところだろうか
生徒を盗撮した教師なんて、決して許されることではない
警察沙汰になってもいいぐらいだが、其処はお爺ちゃん先生が何とかするだろう


学校を辞めさせられるか、最悪――教員免許剥奪もありそうだ

一気に職を失って路頭に迷ってしまうのだろうか…可哀想に、まだ25歳だっけ




…まあ、本当に先生がやったのであれば、の話だが――




「…では、今日はこれでHRを終わりにします」




程なくして、委員長の号令を合図にHRは終わる
放課後になると、生徒達は帰る準備もそこそこに、教室を出て行った




「先生、どうしたんだろうね?」
「さあ…体調でも悪いのかな」
「今朝はあんなにピンピンしてたのにねぇ…」




瑞希と美怜が話しているのを横目に、席を立ちあがる




「あ、地味子。帰りにカフェ寄っていかない?」
「ごめん。ちょっと用事があるんだ」
「そっかー。新作のケーキ出たんだよ?」
「本当にごめんっ、今度絶対に行こうね!」




美怜のお誘いはとても魅力的だったけれど、断るしかなかった
どうしても、担任の先生の事が気になるからだ

あの写真を先生が盗撮したなんて、考えられないから
鞄を引っ掴んで教室を出ると、足早に真っすぐ校長室へ向かった




「お爺ちゃん先生、聞きたいことが――あれ、部下の人?」




ノックもせずに校長室の扉を開ければ、中にはお爺ちゃん先生と部下の人がいた
部下の人は此方を見るなり、眉を顰めている




「地味子ちゃん…」
「こんにちは。今日はお一人ですか?」
「うん。先輩も違う事件に駆り出されてて、今はいないよ」
「ほう…で、部下の人はどうして此処に?」
「…君の担任の件でね」




それだけで、何となく解ってしまった
例の盗撮の件をお爺ちゃん先生は、警察に通報したのだと――




「お爺ちゃん先生。担任を疑ってるの?」
「私も事を荒立てたくはないのですがね…」
「校長先生は、以前から盗撮被害を警察に相談していたんだ。それで今回の件も」
「…全部、うちの担任がやったと?」




自然と言葉が強くなったが、部下の人はただ困ったように笑った




「…机の中から大量の写真が出てきただけだから、どうにも言えないけどね。校長先生もまだご納得されていないようだし…」

「えぇ。私は彼がやったとは思えません」
「とまあ、そう言う訳なので…まだ話を聞いている段階なんだ。その先生がやったって言う証拠もまだないし」




でも、言い換えれば――担任が犯人だと言う証拠が一つでも出てきてしまえば、それは盗撮確定と言う事だ

あの担任に限ってそんな事ないと思う…のは、ただの願望だろうか




「先生や生徒の眼もありますので…彼には暫く、自宅謹慎と言う形を取らせていただきました」
「はい。その方がいいでしょう」
「暫くって――いつまで?」
「少なくとも、白か黒か証明されるまでは、でしょうか…」
「…そっか」




どちらにしても、担任が暫く学校に来ることは出来ないらしい

問題は――誰が何のためにあんな写真を用意したのか?
聞けば、それらは全て私の写真だったと言う

担任がやったにしては、何と言うか…おかしい
どうして机の中にそんなものを忍ばせておく必要があるのか?

そう言う写真って、他に隠しておく場所とかあるんじゃないの?
例えば自宅とかさ
間違っても職場――学校なんかに持ってくるほど、あの先生も馬鹿じゃないと思う





「まさかこんなことになるとは…」
「お爺ちゃん先生。なんかごめん、迷惑かけてるよね」
「いえ。貴女の所為ではありません。未然に防げなかったことが心苦しいですよ」
「…誰がやったんだろうね」
「地味子ちゃんは、別の人間がやったと考えてるの?」




その問いに、地味子は部下の人をまっすぐ見つめて頷いた




「あの担任に限って盗撮なんてありえない」
「…随分はっきりしてるね?」
「だって、あの人本当に驚いていたもん」
「そう言う演技をしていたのかもしれないよ」
「だとしても――私はあの担任が盗撮犯だって思えない」





例の副担の件もあるし、まだ犯人が誰かなんて決めつけるのは性急すぎる気がした

なにより、地味子自身が担任が犯人じゃないと信じて疑わなかった


部下の人の眼が校長先生に向けられる
どうしたらいいものかと考えているのは、双方同じようだった

やがて、口を開いたのは校長先生だった




「――彼女がそう言っている以上は、私も彼が犯人と決めつけるには早いかと…」

「念の為、捜査は行います。誰であれ盗撮は間違いないですから」
「はい」
「また捜査にご協力いただくこともありますが…」
「ええ。構いませんよ」
「ありがとうございます。…と、失礼」




部下に人は立ち上がるなり、一礼をした
盗撮の件以外にも仕事を抱えているの、部下の人も同じようだ
鳴り響く呼び出し音に眉を顰めている





「また別件だよ…」
「大変ですね」
「ホントにね。では、これで――」





足早に校長室を出た彼の声が、電話に出たのを聞いた
次第に遠ざかっていくそれに、部下の人も大変だなと肩を落とした





「そう言えば、地味子ちゃんは何か御用なのですか?」
「あぁ、そうだった。お爺ちゃん先生、担任の事なんだけど――」




…そして、自身も本来の目的を忘れそうになった






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