HERO GIRL

□私と担任と不祥事
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少し前から、机の引き出しに忍ばされていた写真
それは全て同じ人物を映しているのだが、明らかに目線が合っていない
盗撮されたものだと想定しているのだが、なぜこんな写真が毎回引き出しにあるのかが理解出来ないでいた

捨て場所に困るもので、切り刻んだり焼いたりなんか出来ないし、そのまま棄ててしまうにも問題がある
仕方がないから自宅に持ち帰っているのだが…
その量はもうアルバムが一冊出来上がるぐらいに増えていた




「…どうしてこんなことになったのか」




思わずため息を吐く
外は明るいと言うのにカーテンは閉め切られている
本来なら、今日も学校に出勤している筈だった
それが今日から自宅謹慎と気づいたのが、数時間前のこと
日々の習慣とは恐ろしいもので、ついついスーツに身を包んでしまった

結局、それを脱ぐことすらせずに、こうして写真を眺めている
当たり前の日常が、ガラガラと音を立てて崩れていくようだった



一応まだ教師として在籍している分、まだニートという訳でもない…
しかし、再就職を探すのも早い気がする
というか、その前に無実の罪で捕まるかも?





「…はぁ」





何度目かもわからないくらいに溜息を吐いた
溜息を吐けば幸せが逃げると、何処かの女子生徒が言っていたけれど、もう俺の幸せはとうに逃げている

自分に罪がない事は、自分がよく知っている
無意識の内に起こした事とは、到底思えなかった――否、そう思いたい



――ピンポーン




久しく聞いていなかったそれに、思わず何の音かと考えてしまう――インターホンだ
誰かが来たと知らせるそれは、確かに鳴り響いた


警察?
もう逮捕しに来た?


そんな嫌な予感しかない
事態が事態なだけに、思わず身を強張らせてしまう




――ピンポーン




もう一度、それは室内に響き渡る
強張った身体をゆっくりと解きほぐして立ち上がった
リビングから廊下を抜けた先に玄関があるが、その僅かな距離でさせも遠く感じた

この部屋にはインターホン用のカメラが付いており、受話器を取るだけで通話や来客の姿が確認できる
しかしこの時ばかりはそれすら確認を怠るほど、動揺していた

ゆっくりとした足取りで廊下を抜け、玄関まで辿り着く
その時センサーが感知してパッとライトが付いて、少しだけ驚いた
それだけ動揺していたのかもしれない…


ドアスコープを覗く




「…!?」




其処に居たのは、見知った人物だった
何で此処に、と思う前に――手はドアの鍵を開けて、ドアノブに伸ばしていた





「あ、やっぱり居た」
「お前――!」
「へへ…来ちゃった」




照れくさそうに笑う彼女がいた

…自分に彼女がいた頃でも、こんなことはなかったぞ――と、頭の片隅で思う
それと同時に、はっと辺りを見渡した




「どうしたんですか。誰もいませんよ。私一人です」
「それが問題なんだろうが! 何しに来たっ」
「うわぁ…せっかく様子を見に来てあげたのに――あ、これ。差し入れのパンです」
「お、サンキュー…じゃねぇよ」




ガサリと揺れたコンビニの袋を条件反射で受け取る
中には好みのパンが幾つかあった
偶然か適当か解らないけれど、有り難く頂こう――って違う違う!




「何で此処が解った?」
「とある人に聞きました」
「は?」




誰だか知らないが余計ない事をしてくれた
教職員の自宅を生徒に教えるなんて、いいのだろうか?
現に彼女は此処までやって来ている――が、たぶん今お互いが会うことは良くないと思う
何せ、盗撮疑惑が掛けられているのだ
こう言った事でも警察にバレたら心象が悪くなるかもしれない…




「今すぐ帰れ!」
「えっ。今来たばかりのに? あと先生はなんでスーツ姿?」
「うっ…」
「もしかして出勤しようとして、自宅謹慎な事に気づいちゃったパターンですか。で、脱ぐのも面倒で今に至ると…ちなみにもう夕方ですよ?」
「お前ってなんでそんなピンポイントに当てるんだ!?」





何ででしょうね、と彼女はくすくすと笑った
彼女は制服姿だ
夕方と言うのなら、学校帰りにそのまま来たのだろうか




「あんなことがあったのにお前、よく来れたな…」
「先生、とんだ迷惑でしたねぇ。副担の先生のあんな姿、初めて見ました」




彼女のせいにしたくはないが――発端は、副担の先生が挙あた悲鳴からだった
まさに狂喜乱舞
引き出しに大量の写真があった事に驚くことは無理もないが…




「写真。どうしてすぐに『私』って解ったんでしょうね?」
「え?」
「あ、急に担任を押し付けられて、あの人も大変そうです。うちのクラスって曲者ぞろいですから」
「お前もな」
「先生。早く戻ってこないと駄目ですよ」
「…俺だってそう思うさ。今は何も出来ん…」




自宅謹慎だっていつまで続くか解らないし、その間にも給料が入るかどうかも心配だ
特に食いっぱぐれは勘弁してほしい
早いところ決着をつけたいところだ――勿論自分が白と言う形で





「意外といいマンションに住んでますよね。てっきりボロアパートにでも住んでるのかと思いました」
「おい、勝手に入るな――」
「ドキドキを返して下さい」
「なんで!?」




いつの間にか靴を脱いで部屋の中に入る彼女を追いかける
直ぐに追い返すはずだったのに、どうしてこうなった?

ズンズンと廊下を突き進み、リビングへと入る




「わー。真っ暗。先生、電気も点けずに何してたんですか?」
「べ、別に…っ」
「カーテン開けましょうよ。こんな暗い中だと気分まで塞ぎ込みますよー」
「ちょ、待て…!」





我が物顔でカーテンを開けられれば、眩しさに目を細めた
太陽光がとても明るく、室内を照らす――




「うん。やっぱり明るい方がいいよね! …ん?」





彼女が何かに気付いた

…忘れていた
リビングには、床に散らばった幾枚もの写真があることを


それをじっと見つめて――彼女は何も言わない
これじゃ、盗撮犯だと言われても反論できないな…




「アルバムが出来そうなくらいの写真ですねぇ」
「って、それだけか?」
「…? じゃあ良く撮れてますねーの方がいいですか?」




きょとんとしながらそう言うので、少しだけ頭が痛くなる




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