HERO GIRL

□私と担任と不祥事
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「駄目じゃないですか。落としちゃ」




落ちたスマホを拾い上げるその姿をじっと見ていた
彼女がそれを見てしまう事を阻止することすら出来ない
それだけ――ショックが大きかった


たまたま…そう、偶然なのだろうと、そう思いたい




「偶然で片づけられたら、一番いいんでしょうけど――」




考えている心境が見破られたかのように、彼女はそう言った
驚いた眼で其方を見れば、落ちたスマホを差し出す彼女





「どうやらそうもいかないみたいですね」
「…は?」
「先生、良かったですね。思ったり早く学校に戻れそうですよ」




…言っている意味が解らなかった

とりあえず条件反射にそのスマホを受け取れば、またあの写真が目に入る
忌々し気にそれを見つめれば、彼女は何故か笑った




「随分と近くに居たんですね」
「って、笑ってる場合か――!」
「探しても無駄だと思います。もう此処にはいないでしょうし」
「何でそんな事が解るんだ? と言うかこれを撮ったのって――」




言いかけた言葉は、ふと聞こえてきた足音に飲み込まれた
此方へ向かってくる複数の足音に、自然と緊張に身体を強張らせる


この部屋は角部屋で、他の部屋はお向いさんくらいだ
隣部屋とは曲がり角を隔てて一つ部屋があり、少しだけ隔離されたような造りになっているから、隣接する部屋の住人とは思えない

ならば向かいの住人かと想像したが、そもそも此処に住人が住んでいるのかさえ疑問だ
ご近所づきあいなんて殆ど皆無だからなぁ…




「…」





足音は段々と近づいてくる
この部屋へ、確実に向かってきていることが解る

ただの足音だと言うのに、どうしてこうも緊張感が募るのだろうか
まさか――盗撮犯が戻ってきたとか…?




「――おや」




だが、其処に現れた姿はここ最近で見覚えのある人だった

少なくとも――自分以上に彼女が、その姿を知っていると思う




「お伺いすると事前にお教えしていましたかね?」
「い、いや…どうしてあなた方が此処に?」
「なに。捜査ですよ。例の盗撮の件でね」




そう言って、あのイケメン刑事は笑っていた

抜き打ち捜査に驚かされる部分もあるが、足音の正体が刑事二人組と言う事にももっと驚かされて、少しばかり声が出ない
そして、例によって警察手帳を見せては写真が一枚、はらりと落ちている…




「おっと」
「ねぇ、いい加減それ止めてくれない?」
「可愛い娘の写真を見せたいんですけどね」
「…娘にまで『仕事モード』で話さないでもらえます? この間の授業参観といい、いい迷惑」




本島に迷惑そうな顔で彼女はそう言った
するとイケメン刑事は、キリッとした表情から一変して号泣し出した




「だ、だって!一度でいいからちゃんと仕事しているお父さんを、見てもらいたくて…!」
「!?」
「先輩…」
「こんにちは部下の人。こんな人は放っておいていいです――調査ですよね?」
「あぁ、うん――そうなんだ」




苦笑いを浮かべて部下の人は此方を見た




「少しお話をしたいのですが、お時間宜しいでしょうか?」
「あぁ、はい…」
「何もありませんが、どうぞどうぞ」
「待て。お前は帰れ」
「ねぇ。何で地味子が先生の部屋に居るの? ねぇ、二人で何してたの。ねぇねぇ」
「仕事しろ」




何だか殺気のような鋭い視線で射抜かれている
刑事の眼光ってこんなに身に刺さるものだったのか?
と言うか…先日のキリッとした感じは何処に行った?




「もう完全に父親目線ですよね。俺の憧れていた刑事とは何だったのか…」
「はは…苦労するんだな、あんたも」
「えぇ。そりゃもう」




お互い同世代と解った時から、少しずつだが部下の人とやらとは打ち解けている
共通の話題があるっていいもんだ




玄関先の立ち話もなんだと、刑事二人を部屋の中に招き入れる
しまった、お客様用のお茶なんてこの家にはないぞ?

しかも――困ったことに、例の写真の存在をリビングに通した時点で気づき、後悔する
当然刑事の眼にも触れるわけで…




「これは…写真ですか」
「あ、いや。それはその――」
「良く撮れてるよね。全部私だよ。先生が集めていたの」
「へぇ…?」
「お前はちょっと黙ってて!?」




いや、集めていたと言うか…持って帰ってきたは事実だけど!

お前が余計な事を言うから、お前の父さんが物凄い形相で俺を見てるからねっ!?
もうあれ刑事じゃないよ、ただのお父さんだよ!




「先輩。その写真の件は既に報告してたと思いますけど」
「ん? そうだったか?」
「はぁ…先生、安心してください。その写真の件で逮捕とかないですから」
「ほ、ホントか?」
「貴方も涙目にならないでください…」




この中で振り回されているのは、部下の人なんだと思った

とりあえず、その写真は全て押収と言う形で警察の手に渡ることになった
処分に困っていたから本当に助かる…あれ、自宅謹慎で盗撮容疑を掛けられた今、それをやったらクロ確定じゃね?

ちょっと危ない橋を渡るところだった…
それはそうと、お茶を用意しなくちゃな



「先生」
「お前、まだ居たのか…」




帰れと言ったにもかかわらず、彼女はまだ此処にいる
しかもよくよく考えてみれば、警察を前に二人が一緒に居るって不味いんじゃないか

一応容疑者(仮)と被害者だし…あれ、本当にヤバくない?




「お茶なら私が出しますよ。お爺ちゃん先生からお土産に高級茶を貰ってきてるんです」
「何それ。校長ってば何してんの」
「先生はあのおっきい子供の相手をお願いします」
「…父親だろうが」
「私にはおっきい子供にしか見えませんよ」




ほらほらと背中を押されて再び刑事二人の前へ
立っているのも何だからと、奮発して買った高級ソファに二人を勧めた
普段家に人を呼ぶことが少ないから、自分以外の人間が其処に居る事に少しだけ違和感を感じる




「えぇと――お話と言うのは?」
「先日起きた盗撮事件の件です」
「あぁ、はい」
「実は、事件以降デスクのPCやロッカーからカメラやら、証拠がいろいろと出来てきましてね」
「は? 何かの間違いじゃ…」




そんなもの、何一つとして心当たりがない
苦笑しながらイケメン刑事が言う




「えぇ、私もそう思います。まるで捕まえて下さいと言わんばかりだ」
「まるで誰かが貴方を陥れようとしている風にも思えます」
「俺を…誰が?」
「誰が――と言うよりもまず、なぜこんな事が起きたのかと言う事からでしょう」
「はぁ…?」




つまりは、発端だ

始まりは、なんだったのだろう…
自分のデスクの中に彼女の盗撮写真が忍ばされていて…




「どうして貴方のデスクにあったのでしょう、盗撮写真ならば本人に送り付けるのが一番だ。だって自分の存在に気づいてもらえるから」




犯人が、何らかの理由で俺を陥れようとしていた
居なくなる事で得をする人物がいる?


写真を撮り続けたのは、彼女を気に入っているから?

彼女を追いかけ回すストーカーが犯人?




「それだけじゃない。SNSにあげられている写真や動画は、未だ不特定だが確実に『地味子=地味子ちゃん』と、早い段階でその人物には解っていた」




地味子ちゃん
それは、SNSに投稿されたとある動画から始まった

ドロップキック
水玉パンツ


これだけですぐにヒットしてしまう辺り、本当に有名になった
まさに伝説の始まりと言っても過言ではない





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