HERO GIRL

□病人と逃亡者といいね
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「学校に来てなくて行方不明って聞いてたけど…大げさだなぁ。流星も心配しすぎ」
「は? 流星が俺を?」
「うん」
「ぶはっ! そんなのある訳ねーよ!」
「うーん。凄く珍しいと思った。じゃあ、なんで流星がそんな事を――」




其処で、言葉を止める
道也達の後方から、一台の車がゆっくりと近づいてきていた




「道也、後ろ危ないよ。車が来てる」
「おっと――」




二人が端によって車を避ける
同時に自分も危ないからと、同じように端に避けた

だが、車はスーッと滑る様に目の前を通過し――やがて止まった



――ガチャッ




運転席のドアが開くと、其処から一人の男が姿を現す
若い男性だった
薄手のシャツの胸元に、チラッと刺青のようなものが見える
もしかしたら自分と同じか上かもしれないなと、その人を見て思った


…あ、この人もいい身体つきしてるよね

あれ、こっちを見た




「…おい。居たぞ」




男の声を合図に、車の中からもう二人の男が姿を現す
スキンヘッドの長身男と七三分けのずんぐりとした体形の男だった
七三男のその手にはスマホがあり、何故か此方に向けているような気がする




「おい、ちゃんと撮ってるか?」
「おう」
「しっかり撮っとけよ」




撮る? 一体何のことだろう…?
とりあえず、人の許可なしに撮るなんていい気はしない




「あ…!?」
「どうしたの、坂木さん?」




見れば、ガタガタと震えている彼の姿があった
頭の先から足のつま先まで、完全に震えている
寒さではなく、恐怖に、だ




「あいつらだ…!?」
「道也も――あいつらって?」
「俺達を追って、此処まで来たんだ…!!」
「??」




どういう事だ、追って来た?
道也達は追いかけられているのか、この人達に?

でも何で?




「加藤道也と坂木泰典だな?」
「ひぃっ!!」
「俺の事を知ってるよな? 会いに来てやったぜ」
「ひいいいいっ!!」

「おー。いい顔。まさに絶望って奴だな」




ケラケラと七三男が笑う
スマホはずっと此方に向けられたままだった
動画でも撮っているのだろうか

…やめてほしいんだけどなぁ




「誰。知り合い?」
「そ、そ、そんなんじゃ…!!」
「でもこの人、会いに来たって…」
「勘違い! そうに決まって――」
「あ? てめーらが会いに来いって言ったんだろーが」




その男が凄むように言うと、道也は目を合わさないように俯いてしまった
心なしか委縮しているように見える
坂木さん――あれれ、もうガクブルだ




「えぇと、話が見えないんだけど――」
「…君は? こいつらの知り合い?」




やがて、運転席に居た男が此方を見る
その表情は先程とは打って変わって爽やかで、優しそうな笑みだった
声色だって全然違う




「知り合いって言うか、同級生――」
「し、知らねぇよっ! そんな子! 俺達とは関係――へぶっ!!」
「道也!?」
「俺は今、この子と喋ってんだよ。邪魔すんな糞が」




…今、この男は容赦なく道也の顔面を殴った

手加減なんて微塵も見せず、本当に渾身の一撃を放っていた
驚いて目を見開いていると、彼はまたにこっと笑いかけてくる




「あぁ、ごめんね? 驚かせちゃったかな」
「…」
「声も出ない、か――やれやれ」
「貴方、誰?」
「あぁ、ごめん。俺は神野大翔さ。なぁ、こいつの同級生ってホント?」




こいつ――と指を刺した先には、たった一発の拳で気絶している道也がいた
隣では、坂木さんが力なくへたり込んでいるのを、スキンヘッドの男が目線を合わせて見ている




「神野に宣戦布告したってぇのにこの様かよ。笑えるぜ!」
「…宣戦布告?」
「ペースブックって知らない? 俺、一応そこの有名人なんだけど」
「生憎、SNSには疎くて」
「そ。まあ、早い話がこいつらは俺に対して侮辱してきたんだよ。んで、来れるもんなら来いっつーから来た訳」




ちらっと車を見やる
そのナンバープレートにある地名は、この界隈ではあまり見ないものだ




「随分遠くから来たみたいね」
「まあな。それだけ俺は――キレてるってことさ」
「ふぅん」




きっかけは、流星から届いたメッセだった
道也が学校に来ておらず、行方不明と言う事を知った
どういう経緯でそうなったかは詳しく教えてくれなかったけれど、道也が何か厄介事を抱えているのは確かなようだ

この男――神野が教えてくれた




「皆さーん。漸く見つけましたよー」




一方、七三男は未だにスマホで動画を撮り続けているようだ




「あれは何をしているの?」
「見つけたって言う証拠の動画を撮ってる。皆がそれを待ち望んでるのさ」
「皆…?」
「俺のフォロワーさ――おい、起きろ。寝てんじゃねぇ」
「ぐほっ!?」




今度は容赦ない蹴りが道也を襲った
まるでゴミくずの様にふっ飛ばされたその身体は、一回、二回と硬いコンクリートの上に叩き付けられる

遠くで、人の悲鳴のようなものが上がり始めていた
道のど真ん中で、喧嘩騒ぎがあれば誰かしら、声を上げるだろう




「ど、どうする?」
「警察呼ぶ?」

「お騒がせしてすみません! 警察を呼ぶのであれば、どうぞどうぞ。俺達は逃げも隠れもしませんから!」




高らかに堂々と、スキンヘッドの男がそう口にした
余りにも堂々としているものだから、道行く人々もどうしていいのか解らない
警察に通報することも躊躇われた




「本当にすみません!」




神野に至っては、律儀に頭まで下げていた




「良い人なのか、ワルなのか解らないわ…」
「俺がワルだって? どう見ても礼儀正しい好青年じゃないか」




駄目だよ、皆。騙されてるよー





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