HERO GIRL

□地味子ちゃんと復活といいね
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タン



『――お掛けになった電話番号は、電波の届かない所に居るか、電源が入っていないため、掛かりません…』




タンッ



『お掛けになった電話番号は、電波の――』



…ダンッ



『――お掛けになった電話番号は…』




…ミシッ




「おーい、また壊す気じゃないよな」
「翔瑠…っ。地味子と連絡が取れないのだ」




今にも泣きそうな…いや、本当に泣いているバスコを見て、翔瑠は頭を悩ませる
先程から何度も同じ行動を繰り返していた




「ずっと電源が入っていない」
「地味子さん…」




大木がとても悲しそうに呟く
其処には、バーンナックルの全員が集まっていた

そして、坂木もまた同じバーンナックルのメンバーである





「本当に地味子は坂木の件に巻き込まれているのか」
「少なくとも、電源が入っていない時点で、何か遭ったとしか考えられないだろ?」
「…そうだな」





スマホを見つめ、バスコは呟く
其処には、いつか撮った自分の幼馴染の写真が在った

それを眺める彼の表情は――誰の眼から見ても同情の色が浮かぶ




「バスコ…!」
「ちくしょう。あの神野って奴、許さねぇ!」
「あぁ。だが――今回の件は、坂木のとばっちりだ。責任は奴にある」
「翔瑠。坂木は俺達で…」
「いや…元はと言えば、坂木の方から吹っかけた喧嘩だ。仲間が去らわれたってだけで動くのは、バーンナックルの原則にもそぐわない」




発端は、坂木が投稿した宣戦布告動画だ
何を考えてあんなことをしたのか知らないが、後先考えずの行動だろう
坂木は喧嘩が強いわけじゃない
神野ほどの男が本気で行動に出たら、勝ち目なんてあるはずがない




「それに、神野は奴の地元じゃそれなりに有名らしいからな。バーンナックル総出でまともにぶつかれば――いろいろ厄介だ」
「坂木はどうなる?」
「さあ…とにかく、バーンナックルは動かない事にした」
「…」





バスコは腕を組み、黙った
仲間を想う彼の気持ちは、翔瑠にだってよく解っているつもりだ
だが、バーンナックルのリーダーを背負う身としては、簡単に動けない
何より、仲間達に示しがつかない




「地味子さん…ぐすっ」
「大木。泣くなよ…」
「だって、だって…坂木の奴が地味子さんを巻き込んでるんだろ。あ、余りにも可哀想で――!」
「…」





さめざめと泣いている大木を、バスコはチラッと見た
それから、バーンナックルの面々に視線を移していく

此処にいる全員が、高校に入る前から知り合う仲だ
対して坂木だけが唯一、入学後に知り合い、バーンナックルに入った

気が弱く、喧嘩が強いわけじゃない


それでもバスコにとって、坂木は仲間だった




「解った。バーンナックルは動かない」
「バスコ…」




それからまたスマホに眼を落として――やがて、立ち上がる




「俺一人で行く」
「バスコ!?」
「ゴールデンレトリバーを見たくなっただけだ」
「え?」
「約束を果たしに行く」




――約束

ある日の学食で、確かにバスコは約束をした

坂木が、チワワサイズ並みのゴールデンレトリバーを飼っていると言う、言葉を信じて…




「それに、…地味子はまだ病み上がりなのだ」
「え??」



バーンナックルがポカンとした
連絡が付かないのに、どうしてそんな事が解るのだろうか




「動画を見た。まだ顔色が悪かった」
「お前、そう言うのよく解るよな!?」
「…? 翔瑠には解らないのか。幼馴染なのに」




――いや、お前だけだよ!



そう言いたかったが、翔瑠は言葉を飲み込んだ

つなぎの上にジャンパーを羽織る彼の姿を見て、思わず溜息を吐く




「バスコ、場所は日ノ出町の工事現場だ」
「解った」
「ほ、本当に一人で行くのか? だったら俺も地味子さんを助けに――!」

「駄目だ」
「っ!?」




バスコがきっぱりとそう言い放ったので、大木はびくっと身体を震わせる




「俺が行く」
「…大木、此処はバスコに任せようぜ」
「…っ! あ、あぁ」




翔瑠が自分の肩を叩かなかったら、ずっとバスコの顔を見続けたまま、硬直していただろう
それぐらい――バスコの表情は怒っているように見えた

それは大木だけでなく、翔瑠も他のバーンナックルだって同じだった





「それに、翔瑠のテレパシーがあるから大丈夫だ」
「テ、テレパシー…」
「お、おう。任せろ。安心して行って来い!」




まだテレパシーを信じているのか、バスコ…






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