HERO GIRL

□私とスカウトと地獄の原点改
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「…おっふ。迷った」



ちょっとトイレに行っただけなのに、もう迷ってしまった
おかしいな、一本道で来たはずなのに…こんな道、通ったっけ?




「蛍介達、練習室に行くって言ってたよね。えっと、こっちだっけ? それともあっち?」




迷うくらいなら待っててもらえばよかったかな
でも、蛍介達の練習時間を無駄にするわけにはいかないし…

無駄に広いよね、この事務所!
今自分が何階に居るかも解んないし!

エレベーターを上がったとこまでは解るんだけどなぁ


おまけに此処のパスを持っていないから、完全に不審者扱いだし
さっきから道行く人に、物珍し気な目で見られてるよ…
なるべく目を合わせないようにしているけれど、あれれ。これって…不審者丸出しじゃない?




「そうだ。晃司に電話して何処に居るか聞こう!」




晃司は蛍介達と一緒に居るはずだから、きっと来てくれる――




「…君は」
「はい?」




スマホを取り出したところで、誰かの声がした
顔を上げると見た事がある


――あれ、この人って…




「前にも会ったな」
「えっと…何処かでお会いしましたか?」




この人って有名人だよね?
サングラスしてるし…
そんな人と私、何処で会ったんだろう

雑誌とかさっきの巨大ポスターとか、そう言ったところでしか目にしてないと思うんだけど




「HNHに居た子だろう」
「?」
「お嬢さんの知り合いじゃないのか」
「お嬢さん…明里さん?」




知った人の名前にふっと記憶が呼び起される
そう言えば、明里さんのお父さんの会社がそんなグループ名だったかな
前に貰って帰って来たパンフレットが、部屋に在った筈だ


あ、そうだ
この人、明里さんのお父さんと一緒に居た人だ

直ぐにエレベーターで降りてしまったけど、そのサングラス姿を見て漸く解った




「君も11人の1人? それとも誰かの後継者か?」
「あー、私は明里さんのお世話係ですよー。バイトですけど」




そうだ、バイトなんだからそれなりに報酬がないとねっ
でも譲さんが出してくれるのかな、それとも明里さんに貰うのかな

えー、それなら無償で働こうかな
お金目的で明里さんと居たい訳じゃないしー




「じゃあ君は――名無し 地味子さん?」
「そうですけど」
「そうか。君が」
「?」




その人――『DG』は、私を見るなり黙り込んでしまった


あ、そうだ。
此処で会ったのが偶然だとしても、絶好のチャンスだ

サイン、貰えないかなぁ




「君も呼び出されたのか?」
「呼び出す? いえ…友達の練習の見学に来たんですけど」
「友達?」
「はい。長谷川 蛍介って言うんです。Aクラスの」
「あぁ、奴か――」




どうやらDGは蛍介を知っているみたいだ
凄いね! 憶えられてるよ!




「…」
「出来たら、練習している場所を教えて貰えると嬉しいです。あ、あと、友達がサインを欲しがってて――あれ、色紙何処やったっけ」




持っていた色紙が手元になかった
トイレに入る前は在ったから、其処で忘れたかな?




「解った。着いてくるといい」
「あ、はい。ありがとうございます。えっと、DGさん」




良かった、これで蛍介達と合流出来る
この人も有名人だし、さっきのアルさんみたいに知らないって解ると、一般人でも失礼にあたるのかもしれない
芸能界ってよく解らないなぁ

それにしても、迷子になんてなるもんじゃないな、ホントに
DGさんが居てよかった!


先を歩く彼の後ろを着いて行くだけで、注目を浴びた
やっぱり彼は凄いんだなぁ
なんだか自分まで見られている気がして、自然と背中が丸まってしまう




「着いたぞ」
「…? 此処に蛍介達が居るの?」




こんな厳かな扉、お爺ちゃん先生のとこでしか見た事ないや
練習室ってもっとこう…気軽に入れる扉じゃないの?

そうこうしている内に、DGさんが中に入っていく




「やっと来たか」
「待ちくたびれたぜー」




其処で聞こえてきた男の声に、思わず顔を顰めてしまった

とても最近聞いた声だった
もう一人は、何処かで聞いたような…




「あぁ、すまない。彼女が迷っていたんでな」
「彼女…?」




そして、女の人の声――




「地味子!?」




其処には、明里さんがいた


わー、よく会うなぁ。ホント




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