HERO GIRL

□私とストーカー女とヒーローマン
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「いやいや。今回は厳重注意だけですから。所長から直々に連絡を頂いた時は、本当に驚きましたよ」




さっきまで僕を怒鳴っていたおじさんの態度が、急に変わった
優しい声色で、しかもデレデレしている
隣のお兄さんはぽーっとしている

全ては、彼女――明里ちゃんのお姉さんが来てからだった




「ありがとうございました」



…駄目元で連絡をしてみたけれど、やっぱりこの人は凄い人だ
連絡をして三十分も経たない内にこうして駆けつけてくれた

彼女のお蔭で漸く交番を出ると、ホッと一息吐く



「た、助かりました。他に頼れる人が居なくて…」
「いえ。それより大丈夫でしたか?」




僕が監禁されていた事や、明里ちゃんの同級生の蛍介が危ない事は、既に伝えていた
とても親身になって話を聞いてくれて、お金まで貸してくれたのは有り難い

でも、こんな事でしか頼れないなんて、僕は何てみっともないんだろうか…




「監禁されて自力で脱出したんですよね? それで、長谷川蛍介さんはまだ誘拐されていると…」
「そうなんです…」
「わ、私も協力します!」
「えっ。あ、ありがとうございます!」




まさかの申し出に驚きはしたものの、助けてもらえるのは本当に嬉しい




「何か解ったら連絡をください! あと、お金を必ず返しますから」
「は、はい…」




誘拐された場所の特定に、思い当たる節があった
あの女が食べていたラーメンの丼には、出前の店名がしっかり書かれていた
律儀に電話番号まで記載されていたから、それをしっかり覚えていたんだ

後は公衆電話を見つけて――


その時、一台の車が交番の前に止まった



「やれやれ、なんで俺がこんな事をしないといけない訳?」
「先輩が課長に仕事の量を減らせって言うから、こうなったんでしょ」

「『何年刑事やってんだ馬鹿野郎』だもんな。しかも巡回しつつ資料の配達って何だよ、面倒くせぇ」

「えっ…」




出てきた人に吃驚した
今まさに、僕が会いたいと思っていた人だからだ…!




「この後は書類作成だろ? 完全に事務員じゃねぇか。俺は刑事さんなんだけどー。正義の味方は悪い人を捕まえるのが仕事だし」

「さっき俺が言った事忘れました? 仕事量を減らせって言ったのは自分じゃないですか。文句言う前に仕事終わらせましょうよ。俺も手伝いますから」

「はいはい。優しい部下を持てて俺は幸せもんだなー」
「全く…ん?」




其処で、部下の人が僕たちに気付いた
コンビニやバスコの誕生日ぐらいでしか面識はないけれど、覚えてくれているだろうか




「うわっ。凄い美人!!! …あ、すみません。急に大声を出して」
「い、いえ…」




部下の人の声に、彼女は笑みを零した
美人とかそう言う言葉に慣れているんだろうな

僕は妹の明里ちゃんの方がいいと思うけど…




「先輩っ。彼女綺麗ですよね」
「んぁ? そうだなー」
「あれ。ドストライクじゃないんすか」
「俺は奥さん一筋だから。浮気しないし」
「あー…なるほど」
「ほら。さっさと資料を渡しに行くぞ」




二人が僕たちの前を素通りしていく
どうやら交番の中に入るようだ

姿を現した二人に、先程のおじさんとお兄さんが揃って立ち上がるのが見えた




「あっ。お疲れ様ですっ!」
「おーう。何もない?」
「は、はいっ! いつも通り平和な街ですっ!」
「そうかそうか」




あのおじさんが、地味子ちゃんのお父さんには頭が上がらないみたいだ
少し不思議な光景を見ていたけれど、此処で声を掛けなきゃと我に返る

引き止めるなら今だった




「あ、あのっ!」
「ん?」
「あっ。お前まだ居たのか! …おっと、まだいらっしゃったんですかぁ?」




明里ちゃんのお姉さんが居るからか、それとも地味子ちゃんのお父さんの前だからかは解らないけれど、おじさんの態度は鳴りを潜めている




「た、助けて下さいっ!」
「え。何、どうしたの? その服」
「そ、そっちですか!?」
「いや、だって…君の趣味なの?まぁ、服の趣味はとやかく言わないけどさ」




ジロジロと僕の格好を吟味するように見てくる
うう、僕だって好きでこんなのを着ている訳じゃないのに…っ




「先輩。からかうのはよしましょうよ」
「あはっ。ごめんごめん。で、本当にどうしたの?」
「じ、実は…」
「あー。彼の言う事は真に受けない方がいいですよ」




ぼそり、横槍をおじさんが入れて来た
誰もが彼を見るとニコニコと手揉みをしていたが、一瞬だけその顔が面倒くさそうに歪んでいたのを僕は見てしまった

このおじさん、僕の事を本当に毛嫌いしているみたいだな
皆が居る半面、表には出さないんだろうけど…

すると、部下の人がすかさず問いかけた




「どういう事ですか?」
「はぁ…ちょっとばかし言動が不安定で。どうやら酒を飲んでいるみたいですよ」
「酒? 君はまだ未成年のはずじゃ。飲んだの?」
「ち、違います!」
「け、蛍介さんはお酒なんて飲んでませんっ」
「君が言うなら間違いないね、うん!」
「お前。美人にホント弱いな」




地味子ちゃんのお父さんが、困ったように呟いていた




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