HERO GIRL

□サイコパスレディとヒーローガール
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――漸く遠くでサイレンが聞こえてきた頃には、女も観念した様子でボロボロと泣いていた
あれだけの執念深さには驚かされたけれど、これでもうひと安心だと思いたい
そして、私は何時になったら蛍介の拘束を解くことが出来るんだろうか




「はー。また絡まっちゃったよ…」
「地味子ちゃん。ぼ、僕の後ろポケットに、カッターナイフがあるんだ。それを使ってくれるかな…」
「えっ。それ早く言ってよね!」
「ご、ごめん。僕もさっき気づいたんだ」




どうやら紅輝から貰ったカッターナイフの存在を、今の今まで忘れていたそうだ
それがあればもっと早く拘束を解くことが出来たのに…まぁ、いいか




「怪我はない?」
「うん、スタンガンで痺れたぐらいだから…」
「警察に調書取って貰った後、一応病院で診てもらった方がいいよ」
「そうだね…あの人大丈夫なのかな」
「…渡さない…ダーリンは、私の物…ビッチなんかに、絶対に…渡さない」




先程からブツブツと呟いている様子を見ていたので、蛍介は少しだけ身震いをした
とても観念した様子には思えないらしい




「大丈夫でしょ。それよりスタンガン探してくれない? 取り上げとかないと」
「…危険なものだよね? とても悠長だけど大丈夫?」
「だから探してるんじゃない。何処行ったのかなー」
「地味子ちゃん、近づくと危ないよ…!」




普通にあの女の傍をウロウロしていたら、蛍介にとても心配されてしまった
警戒心が足りないって? 私もそう思う




「私のダーリン…私の物なのに…!」
「…その人をものにしたいのなら、自分を磨いて下さい」
「な、なによ…っ!」
「傍に居たかったら、隣に立つ努力をして下さい。こんな方法じゃなくてもやり方はあった筈です」

「わ、私に…せ、説教でもする気なの…!?」




そう言う訳じゃない
ただ、彼女の愛はとても重すぎる
そんなんじゃ、蛍介だって喜ばない筈だ

好きな人と一緒に居たいのなら、相手の気持ちも考えるべきだから――




「貴女の言うお子様からの助言です」
「ぐぬぬ…っ。口ばっか達者なのね、あんた。女なのに馬鹿みたいに強くて――そんなんじゃ良い人だっていないんじゃない!?」

「…まあ、否定はしないですけど」



寄ってくるのは強面の人ばかりで、いつも泣く泣く引き下がっていくから、彼氏とかそう言うのもいないし
ナンパだってされた事も――あぁ、自己嫌悪


それでも、私にだって傍に居たい人ぐらいいる
彼女に言った台詞が、そのまま自分に返ってくるなんてまるでブーメランだ

強くなる為に自分を磨く
傍に居たいから、隣に立つ努力をする
あの背中に追いつきたいから


そうすることで、私は晃司の傍に居られるのかな
隣に並ぶことが出来るのかな…




「…」



暫く黙り込んでいると、不意に部屋の中に明かりが差した
誰かがドアを開けて入ってきたらしい――




「だ、大丈夫ですか…!?」
「貴女は…!」
「あ、明里さん??」



どうして此処に明里さんが?
意外な人の出現に、意識が彼女に集中した
警察よりも明里さんが来るなんて予想外だ




「地味子と…長谷川蛍介? 待って、蛍介さんは…?」
「蛍ちゃんはいないけど…そ、そうだ! 蛍ちゃんも監禁されてるんだった!」



其処で思い出すのは、蛍ちゃんだった
蛍介は解放出来たけれど、蛍ちゃんはまだ何処かで監禁されている
早く見つけないと…!



「えっと、蛍介さんなら警察の方と一緒のはずよ。自分で脱出したそうなの」
「そうなの!? よかったー!」
「そんな馬鹿な…! だって、ビンタしてないじゃない!!」



不意にサイコパスレディが叫び出した
ビンタって何? どういう事?
ちょっと何言ってるか解らないんだけど




「えぇと、貴女はどうして此処に…」
「わ、私は…その、蛍介さんの助けになると思って、私なりに貴方の居場所を調べてやって来たんです」
「ぼ、僕の為に?」




私なりにって、明里さんも蛍ちゃんが心配だったんだ
でも、どうやって調べたんだろう…



「そ、それよりも…これは一体…!?」




家の中に入って来た明里さんは、今の現状に心底驚いていた
悪趣味なインテリアに例のストーカー女の存在、そりゃ驚くよね




「サイコパスレディは私が成敗しました!」
「サイコパスレディ??」
「あ、何でもないです。それよりスタンガンを探すの手伝ってくれませんか?」
「ス、スタンガン?? って言うか、何よりもその人を縛っておくことが、先決だと思うのだけど…」
「…あ、そっか」
「貴女って人は…!!」




スタンガンの事で頭がいっぱいで、拘束しておくことを忘れていたよ
明里さんにこれ以上幻滅される前に、言われた事はしっかりやっておこう
えっと――この電源コードは切れてるから無理だね




「この家にロープとかないの?」
「な、ないよ。そんなもの」
「じゃあ無理だね。見張るしかないか」
「もうっ!! 貴女はのんびり屋さんなの!?」
「あはは。もうすぐ警察も来ますから大丈夫ですよ」




遠くに聞こえていたサイレンの音も、段々と近づいている気がするし
だからそんなに怒らないで、明里さん!




「また、ビッチが増えた…!!」
「え?」
「明里さんは美人だけどビッチじゃないですよ! そもそもビッチって何ですか?」
「地味子ちゃん…!?」

「警察…うう…私は、悪い事なんてしてないわ…!」




サイコパスレディはそう言いながら、ゆっくりと身体を起こした
ボロボロと涙を流し、その手には――火花散るスタンガンが




「あ、スタンガンあった」
「馬鹿っ!!」
「馬鹿って…酷い」
「すぐに逃げなさい!」




それは難しいよ
だってこの人、猪突猛進に突っ込んでくるもの
まあ、さっきみたいに避ければいいよね



――ズルッ



あれ? 視界が回って…何で天井?
何かに足を滑らせたような気はしたんだけど――




「地味子ちゃん!」




蛍介の叫び声が聞こえる
サイコパスレディがにやりと笑うのが、視界の端に見えた
手にはスタンガン――あ、これやばいかな
火花散ってるし、まともに喰らったら痛そうだ




「地味子!!」




明里さんが叫ぶんで駆け出すのと、彼女がスタンガンを振り下ろすのは、どっちが早かっただろうか
それぞれの一連の流れが、まるでスローモーションのように遅く感じた


…え、なんで明里さんがこっちに来てるの? 危ないよ!?

そんな心配を他所に明里さんは素早く私の傍で、その片足を軸に見事な回し蹴りを決めた




「ぐあぁっ!?」
「おお…!」




あんな技を持っていたなんて知らなかった
とても綺麗な型だ、見てて惚れ惚れするぐらいに
何処かで見たことがある気がするけど、何処だったかな…




「す、凄い…あの人、あんなに強かったんだ」




私もそう思うよ、蛍介



「地味子、大丈夫!?」
「た、助かりました…」
「もうっ。油断するなんて馬鹿!」
「ごめんなさい! でも、明里さん。あの技って――」
「あぁ、譲さんに習ったのよ。彼が傍に居ない時でも、身を護れるようにって」



そうか、譲さんだ
それなら明里さんが物凄く強くなった理由が頷ける




「明里さん、とてもかっこよかったです!」
「あ、ありがとう…って、そうじゃなくて!」
「え?」




またも床でのたうち回る羽目になったサイコパスレディの傍には、あのスタンガンがあった
それを明里さんが手に取ると、ホッとした様に息を吐く
そう言えば、スタンガンを取り上げなかったから、こんなことになったんだっけ

また馬鹿って言われるかな、反省しなきゃね



「あー。また忘れてた」
「ぐああああ!!」




…今日一日で、彼女は何度その身にダメージを受けた事だろうか
ちょっと可哀想な気もしてきたな




「痛かったでしょ、譲さん直伝だから。でも、蛍介さんの方がもっと痛かったし辛かった筈よ」
「こ、この…っ」
「蛍介さんをあんな目に遭わせて――絶対に許さないわっ」




――バチバチバチッ!




「ぐあああああっ!!」
「うわー。痛そう…」




スタンガンをモロに喰らってしまったから、彼女も暫くは動けないだろう
それにしてもこの人、凄い執念だったな…

蛍介、大変な人に好かれたものだね




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