HERO GIRL

□私と新入生と嵐の転校生
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「将軍?」
「あいつが勝手にそう呼んでるだけだ」
「ふーん。不思議なあだ名だね。もぐもぐもぐ…」
「こいつ…っ。とうとうパンを食い始めやがった!!」




この状況で飯を食えるなんて、やっぱり馬鹿なのか!?




「あ。やっぱり今日のパンは当たりだわ」
「てめぇ…この俺様をおちょくってんのか。あぁっ?!」
「いや、おちょくるつもりはないんだけどさ。でも相手してたら段々と面倒臭くなって――おっと、口が滑った」
「て、てんめぇ…!」




再び振り上げられる拳
何故己の拳が見切られたのか、今西には理解出来ていなかった



そこらに居るただの女
そう言った認識でしか、彼女を見ていなかったのだろう


――繰り出された拳は、勢いと共に彼女の顔面へ




「――見切った」
「なっ…!?」

「避けて懐に入った!!?」




だから、彼女が普段どれだけ努力をしているのか




「馬鹿が!! 懐に入ったお前の負け…っ!?」
「とーうっ!!」




――その時、一瞬にして彼女の姿が消えた

同時に視界が、脳髄が激しく揺さぶられる…




「!?」



誰と、筋トレをしているのか




「必殺! カエルパーンチ!!」
「ぐほぉおおおおっ!?」

「しょ、将軍の顎にクリーンヒットだってぇええ!!?」




彼女の『地味子ちゃん』たる所以を



今西は知らない――





周囲からはおおお!と歓声が響き渡っていた
その賞賛の嵐は全て、この女に注がれている


この、俺が――ふらついただと!?

たかが女のパンチだ、威力もさほど痛くねぇ
けどなんだ――あいつ、本当に人間かよ!?
ただの女じゃないのか? 何か格闘技でも――!




「将軍! 頑張ってくれ!! やっつけるんだ!」
「もぐもぐもぐ…座って食べないと、お行儀悪いかな」

「さすが『地味子ちゃん!』」
「転校生相手にも怯まないなんて、凄すぎる!!」

「どいつもこいつも――うざってぇ!!!」




今西の咆哮がビリビリと振動する
久々の強者の匂いに、心が躍った
自然と笑みが浮かんでしまう




「何笑ってんだ。てめぇ」
「今西、強いんだね!」
「はぁ?」
「もっと遊びたいけど、お昼休み終わっちゃうからさ…あ」




其処で気づく、今西にあげたパンの存在
再び床に落ちたそれを見て、テンションが一気に下がった

私が殴らなければ、パンがこうなることはなかったんじゃ…!?




「い、今のは私が悪いよね、確実に! あぁ、残りは幻の限定パンだけ…!」
「こいつ…不用意に近づきすぎだろ」




ふらふらと足元に落ちたパンを救出すれば、やはりそれは重力に負けて変形していた
このパンも凄く美味しいんだけどなぁ
中身はまだ食べられるかな、大丈夫だよね

今西の大きな掌が此方へ迫って来るのに気づいたのは、不覚にもそこから顔を上げた時だった




――ガシッ



「!?」
「何をしている」
「何だ、こいつ…!?」

「バスコ!」
「バスコだ! バスコが来たぞ!」




今西の腕を止めたのは晃司だった
今西もムキムキだけど、やっぱり晃司には敵わないよねぇ
自分の幼馴染を見て、本当にそう思う




「おいっ、離せよっ!!」
「何をしているのかと聞いているんだ」
「あぁっ!? こいつを殴ろうとしたに決まって――」
「地味子を殴ろうとしたのか、お前…!!」
「…っ!?」




ギリギリと骨が締め付けられるような音が聞こえる
それくらい晃司の握力が強いのがよく解った
今西の逞しい腕が、ピクリとも動かない




「地味子、大丈夫か!?」
「うん。大丈夫だよ翔瑠。何もされてないし」
「は? だって今、こいつに…」
「今西は転校生なんだよ。さっき友達になったんだ」
「と、友達??」




あれ、翔瑠はなんでそんなに驚いているの
それより晃司、そろそろ離してあげないと可哀想だと思う




「晃司。離してあげて」
「す、すまない。地味子の友達とは知らず…!」
「くそっ…! なんて馬鹿力だ…!」
「地味子の友達は俺の友達だ」
「はぁ? 揃いも揃って馬鹿なのかよ…!」




ギャラリーも続々と増え、誰が呼んだのか先公まで現れる始末だ
さっきの喧嘩と言い、転校早々トラブルを起こすのも面倒だった
これ以上やっても埒が明かねぇし…




「ちっ、白けたぜ。女、今日は見逃してやる」
「確かに女だけど、次は名前で呼んでほしいなぁ」
「…は? ふざけんな」
「しょ、将軍。お昼持ってきたんだけど…」
「完全に伸びてんじゃねぇか。要らねぇよ、てめぇで食え。あと保健室何処だ」
「ええええ…あ、案内するよ」



気分が悪ぃな。保健室でも行くか
結局、昼休みは何も食えないままだ
あいつに関わらなきゃよかったと、今更ながらに後悔する

何だあいつは…



「今西っ」
「な、何だよっ!?」




三度現れたそいつには、何度驚かされただろうか
相変わらず馬鹿みたいにニコニコしやがって――




「はい。これが一番美味しいんだよ。特別にあげる!」
「…」



こいつの腕には潰れたパンが二つ
対して今差し出されたのは、綺麗で高級そうなパンだった
こいつは、何度俺にパンを渡すために話しかけたのだろう

ただそれだけの為に――


…俺の為に?


それからすぐに、あのバスコとか言う奴の元に向かって行った
あいつもむかつく奴だ

だが、この学校に入ってよかった

此処には強そうなやつらが沢山いる
ただの底辺高校だと思っていたが――面白い


退屈せずに済みそうだ




「…うめぇ」




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