HERO GIRL

□私とカフェとくまさん
3ページ/6ページ



新人の奴はやってたんだろ?
俺だって多少は鍛えてるし、動きも機敏な方だ

体操選手までとはいかないけどな


いいぜ、やってやるよ!

その前に子供達を離れさせないとな…
あと、周囲の人も確認して――




「あれ。何かするのかな?」
「うーんと…離れて、かなぁ」
「じゃあ離れよー!」




チラシの束と看板を置いて、軽く両手足を動かす
正直着ぐるみって奴は、頭もそうだが全体的に重い
ちょっと動かすだけでも力が必要だし、歩こうものにもふらふらする
ましてや飛んだり跳ねたり、しかも踊ったりなんて、それこそ遊園地で見たナイトパレードみたいには、一朝一夕じゃ出来ない

着ぐるみを着て数分の俺でも、それくらい解る事だ
子供達の挑発に乗ったってのもちょっと大人げないけれど


…此処まで来たら引けないわな




「あっ、くまさんが走った!」
「ジャンプした!」
「くるって回った! それも二回だ!」
「今度は跳んだよ!?」
「うわぁっ、くまさん凄い!!」




――おおーっ!!!


――パチパチパチ…!!



子供達からの賞賛と一緒に、行列に並ぶお客さんからも拍手喝采を頂いてしまった
なるほど、聞こえていた拍手や声はこの事だったのか

悪い気はしないけど、ちょっと動くだけでもうバテ始めている事に気付いた


…着ぐるみでも、意外と動けるもんだ
俺が凄いのか? それともこの着ぐるみの性能が凄いのか?
そう言えばこれも店長考案の作品なんだっけか

まるでこういうパフォーマンスを見越して作られたかのようで、ちょっとゾッとする


あれ、さっきまで蒸し風呂だったんだけどな…
今度、蒸し風呂の改善をして貰えるように言ってみようか




「僕、知ってる! あれってムンムンソルトっていうんだよ!」



――ってか、ムンムンソルトってなんだよ?


そうじゃなくて、これは…



「残念。あれはムーンサルトって言うの」

「「ムーンサルト!!」」



ん? 何か聞き慣れた声が…




「おっふ。可愛いくまさんだ…!」
「っ!?」



眼をキラキラさせてこっちを見ている奴が居た
言わずもがなそれは地味子だった




「あっ。早く帰ってヒーローマン観なきゃ!」
「ぼくもー!」
「わたしもー!」

「「くまさん、ばいばーい!」」




慌ただしく駆けて行く子供たちに、ひらひらと手を振って見送る
とりあえず、被り物の頭が取れなくて本当によかった

しかし一難去ってまた一難である事には変わりない
幼稚園児の次は高校生――つまり地味子だ
これほど厄介なことはないと、思わず頭を抱える



「此処って翔瑠の働いてるカフェだよね。何だろこの人だかり…イベント?」




マジか、お前の帰り道じゃねぇだろ此処
何だってこんな所を通ったんだ?

頑張って背伸びをして中を覗いているようだが



「うーん、カウンターはネコミミとかウサミミの女の子だ。居ないのかな翔瑠」



あの賑わいの中で見えたのかよ
そして『アニマルフェア』の真髄を知られてしまい、また別の意味で頭を抱えた

この格好――着ぐるみでよかった。まだくま耳を姿を見られるよりはマシだな
あれほど恥ずかしい物はないから




「くまさん、翔瑠知らない?」
「…」



喋れる訳がない
特に今はな!



「あ。くまさんは喋れないんだった。人間の言葉を知らないのかも…」



お前はメルヘンか!
遊園地と言い、本気で中の人が居ないと思ってるのか

地味子の事だ、普通にあり得る
妖精さんとか言ってたし…あれ、もしかしてサンタクロースとかもまだこいつ、信じてるのかな?

本当に純粋な奴だと思う





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ