HERO GIRL

□私とカフェとくまさん
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「くまさん、ぎゅーってしていいですか?」
「…は?」
「あれ。今、声が…」




しまった、と慌てて両手で口を押さえる
つい素で声が出てしまった

マズい、バレたか…?
恐る恐る様子を伺えば、地味子はにこにこと笑っていた




「気のせいかなぁ。そうだよね、くまさんだもん」




俺だと言う事も中に人が居る事もバレてないみたいだ

こいつは馬鹿なのか、アホの子なのか
とにかく助かった…!



「遊園地じゃ皆の目があったから、出来なかったんだよね。もふもふしたい…」



いや、此処にも人が居る事を忘れるなよ!?
行列に並ぶ客に通行人だっているんだ
条件は限りなく同じか、それ以上にハードルは上がっているぞ?

遊園地でやけに着ぐるみ着た奴をじーっと見ていたと思ったが…そう言う事だったとは




「ね。ぎゅーってしていい?」


――ブンブンッ!!!


「えー、駄目なの…?」



小首を傾げて今一度、地味子はそう問いかける

見上げてくるのやめろ…!
さっきの幼稚園児たちとは訳が違うんだ

そうだ、断るんだ
そうするしか道はない


両手を前に否定的に手を振ったつもりだったが、何せ今は着ぐるみ
重たい両手を真横で上下に動かすことしか出来ない

あれ、おかしいな
さっきのムーンサルトで何処か壊れたか…?

これじゃあ、両手を広げて迎え入れているみたいな――



「えっ!! やっぱりいいって!? やったぁ!!」



…あれ?

逆にOKと捉えられてしまった



違う、そうじゃない…!


ま、待てって!




「わぁ、もっふもふのふわっふわだー。何これ予想外です!」



…終わった

完全に俺、身動き取れないんだけど…これどうしたらいい?


周りの人からはくすくすと笑い声が聞こえるし、何より着ぐるみを着ている俺が恥ずかしい
なのにこいつは嬉しそうにすり寄って…おい、長くねぇ?




「えへへ…ぎゅー」



…それに近い
俺にはこの状態が、軽く拷問な気がする

ホントこれ、いつまで続くんだ…?



そんな事を思っていると、ふと地味子が見上げて来た




「くまさん? ぎゅーってされたらぎゅーってしないと駄目なんだよ?」



そんなお約束みたいなことを言われても困るんだけど?
と言っても口に出せる訳もなく…

数秒ほど、俺は固まっていた





近い…


けど、少しくらい…



ほんの、少しくらいなら…





「わぁ。くまさんもぎゅってしてくれた! えへへ…」
「…」





――どうせなら


こんな着ぐるみ越しじゃなくて、もっと…





「あれ、地味子?」
「瑞希ちゃん!」
「っ!!!」




聞こえてきた声に、勢いよく両手を挙げる
完全に万歳をした状態で、俺はずっと固まっていた

心臓が煩い
冷や汗も出てきた

暑いのか寒いのかマジで解んねぇんだけど!



…あと腕、ちゃんと動くじゃねぇか





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