HERO GIRL

□私とカフェとくまさん
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「何してるの?」
「くまさんにぎゅーってしてもらってたの!」
「くまさんって…」
「瑞希ちゃんは流星と一緒だったんだね」




カフェから出てきた瑞希の後ろに、流星の姿が見えた




「おう。地味子じゃねーか」
「流星。瑞希ちゃんとデートなんて羨ましい!」
「べ、別にデートって訳じゃねぇし。瑞希が来たいって言うから来ただけで…」
「今度は私とデートしてね! 流星みたいにあーんってしてあげたい!」
「聞けよ。そして俺はそんなことしてねぇ!」
「隣のテーブルのカップルは、堂々とやってたけどね」




…二人に、今のを見られただろうか

気が気でないと、さっきから心臓がバクバク言ってるのが解る
あくまで、見られたことへの危惧だと言っておこう


…はあ、チラシ配らないとな




「あっ、くまさん。お仕事の邪魔してごめんねっ!」



ホントそれな…
早く帰れ、日が暮れない内にそいつらと




「地味子、くまさんに抱き着いてどうだった?」
「もっふもふのふわっふわ! 瑞希ちゃんもどう?」
「えーっと…人の前だし、また今度にしようかなっ」
「そっかー」
「…おい。確かあの中って翔瑠じゃ――ぶっ!?」




勢いよく投げつけた物が、あいつの顔面に直撃した
うん、ちゃんと動くな
さっきの不調が嘘みたいだ




「くまさん、流星にチラシの束を投げつけちゃった」
「そ、そうね」
「何しやがる!」




それはこっちの台詞だ!!
何を言い出す気だ、こいつっ



「くまさんは恥ずかしがり屋さんなんだよ、きっと」
「何処をどう捉えてそうなった!?」
「チラシ落ちちゃったね。拾ってあげる」




くまの手よりも人の手で拾ってもらったほうが早い
直ぐに瑞希が足元のチラシを束にして整えてくれた




「はい。どうぞ」

「駄目だよ。大事なチラシなんだから、投げるんじゃなくて手渡さないと」



それもそうだ
流星のお蔭でチラシが凶器になるところだった。もうなったけど




「…」
「…」



――スッと流星に差し出す




「…いや、何十枚も要らねぇよ」

「そう言えば翔瑠を見なかった? 今日はバイトをしている筈なんだけどさ」
「えっと…」
「だから。翔瑠なら此処に――ぶほっ!?」
「…今度は看板を投げつけたわね」
「このくまさん、アグレッシブ過ぎるよ」




流星が余計な事を言うからだ
わざとやってるならタチが悪いし、天然だとしたら尚更タチが悪すぎる!




「さすがに看板が壊れちゃうからやめようね。周りの人も吃驚だよ」

「えぇと、翔瑠は見てない、かな」
「そっかー。翔瑠もあんな風に何かの耳を付けてるのかな。見たかったな、きっと可愛いだろうに」
「…もっと可愛い姿になってると思うわよ?」
「そうなの?」



瑞希も瑞希で変な事を言うんじゃねぇ
もうお前ら仲良しか!
いや、解ってた! 解ってたけどな!



「…お。いいこと考えた!」



その時、流星が何かを閃いたらしい
それはもう意地の悪い顔をしていることに、俺は気付いてしまった




「おい地味子」
「うん?」
「あのくまと写真撮ってやるよ」
「!」



流星がそんな事を言い出した
どういうつもりだ、こいつ



「えっ。ホント!? 流星が撮るなんて珍しい!」
「たまにはな。ほら、並べ並べ。寧ろくっつけ!」
「流星? …あぁ、そう言う事」
「瑞希ちゃんも撮ろうよー!」
「ううん。二人で撮ってくれていいわよ」



いいわよ、じゃなくて…!
瑞希は止める気ゼロなんだな、畜生っ




「地味子、もっとくっつけ。とりあえずぎゅーってしとけ!」
「!?」



流星…この馬鹿は本当にどういうつもりなんだ!?



「ぎゅー? はーいっ」
「…っ!」



――カシャリ




「おしっ!」

「ねぇねぇ、後で送ってね」
「おう。ついでに翔瑠にも見せてやろうぜ」
「何で翔瑠? まあいいけど」




完全に弱みを握られた気分だった
もうやだこいつ

ここから逃げよう…
心からそう思った


あいつはどれだけ俺を虐めたら気が済むんだ?
こっちが声を出せないのをいい事に、やってくれる

だけど、心身ともに疲れ果てていた俺には、この場から離れる事すら辛かった




「おいくま。まだチラシ残ってんぞ。何処に行くつもりだ」
「…てめぇ、覚えてろよ」
「あー? 聞こえねぇなぁ。もっとはっきり言えよ」
「ちっ」



流星の手にあるチラシをひったくって、店の脇路地に入る
後ろからは地味子の声が聞こえたけれど、聞こえないふりをした




「くまさんもう行くの? ばいばーい!」

「こいつはホントに気づいてねぇのか…」
「…言わない方がいいかもよ? アニマルフェアだって隠してたくらいだし」

「翔瑠が恥ずかしがってるだけだろ…まぁ、割と面白かったな。あいつの反応」
「そうねぇ――でも地味子のこと。もしかしたら翔瑠も…」





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