HERO GIRL

□私と集金と4大クルー
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家を出ると、軒先には一台の高級車が止まっていた
当然、淳助さんが乗って来た車だろう



「まあ乗れよ」
「はぁ…」



車に乗る時も溜息なんて、今日一日でどれだけ幸せが逃げて行くんだろうね

そんな事を考えていると、淳助さんが助手席に乗ろうとしているのを見た
車は国産だし、間違いないと思う



「淳助さん、座るとこ間違えてるんじゃないですか?」
「いーや?」
「でも運転するならそっちは…」
「運転? あぁ、あいつが買って出た」
「…あいつ?」



不思議に思っていると、助手席のウィンドウが突然下がり始めた

そして見えたのは――



「さっさと乗れ」



――譲さんだー!?



「え、何で!?」
「俺が居たら悪いか」
「いや、悪いも何も…聞いてないです!」
「あれ。言ってなかったか?」
「一言も!」
「まあいーよ。乗れって」



か、帰りたい…!!

淳助さんが居て、譲さんまでいるなんて…
これは早く乗らないと何をされるか解らない

もう逃げられないと、涙ながらに後部座席に乗るしかなかった

何でこの二人が??




「ど、何処に行くんですか…」
「シートベルトを閉めろ」
「はいぃっ!!」
「ぶはっ。お前どもりすぎだろ」



助手席に乗り込んだ淳助さんはケラケラと笑って居る

譲さんと仲が悪いんじゃないの?
アルさんの時、あれだけ周り巻き込んで喧嘩してたじゃん!



「お前、何処に行きたいの?」
「えっ。帰りたいです。今すぐに」
「却下だ」



答えたのは譲さんだった

何故聞いたし



「えーっと…急に言われても」
「決めとけ」
「決めとけって…」
「出発―!」



会話もそこそこに、三人を乗せた車は走り出した

朝っぱらからエンジン音が唸り、明らかに法定速度を超えた走行をしている
お父さんが見たらサイレンを鳴らして飛んできそうだ
生憎後方を振り返っても、其処には朝の散歩をしている近所のおじいさんしか見えない



「何処に行くのかも聞いてないし…私に聞くぐらいだから、まさか決まってないとか…?」



どうしてこうなった
今日はゆっくりのんびりまったり家で過ごしたかったんだ…!

春の陽気が心地いいのに、車内はまるでブリザードの様に肌寒い
大変居心地の悪い車内に、私はただ前の二人の会話を聞いていた



「せっかくだし、集金周りてぇんだけど?」
「いいだろう」
「あれ、いいの? ラッキー!」
「こいつの社会見学にもなるしな」
「社会見学?」




何か嫌な予感しかしない気がする

そんな考えとは裏腹に、車はどんどん速度を上げて行った
隣の車線を走る車なんてなんのその、簡単に追い抜いていく

何でこれ、捕まらないの?
お父さんちゃんと仕事しろ!



「おー。なるほど!」
「お前はそのために連れてきたんじゃないのか」
「単にこいつで遊びたかっただけ」
「さっきは『私と』って言ってたと思いますけど!?」
「あー。そうだっけ?」



ほんの数分前の出来事を、この人はもう忘れているんだろうか
だとしたら物凄く可哀想だな、うん



「…今、俺に対して可哀想って言ったか?」
「おっふ。口に出してた!?」
「出てねぇよ。バーカ」
「ぐぬぬぬぬ!」
「なっ。こいつ面白れーだろ」
「ふっ」



譲さんまで笑うなんて酷すぎる!
今日は明里さんもいないから、この二人を止めてもらう事だって出来ないし…

…駄目元で呼んでみようかな


緊急事態に備えて、さっきからスマホを握り締めたままだった
いや、もう緊急事態に変わりないんだけどねっ



「お嬢を呼んでも無駄だぞ」
「…え」
「日中は体質の所為で、家を出られないのを知っているだろう」
「その割には、譲さんも彼女を連れ回してますけどね」
「俺が? お嬢に連れ回されてるの間違いだろ」




バックミラー越しに目が合った気がするけど、サングラスをかけているから表情が読み取れない

確かに明里さんはそんな体質だと解っているから、安易に助けてなんて言ったら、本当に来てしまいそうだ
ストーカー事件の時も、困っている蛍ちゃんに親身になってくれたし、本当に優しい人だから

明里さんの連絡先を表示したままだったが、やむなく画面を暗転させる
それなら自力で何とかするしかない



「で、何処から周るんだ」
「この方向なら例のとこが近いだろ?」
「あぁ、あそこか」
「あのー。お、降ります!」
「別にいいけど? ここ高速だぜ?」
「おっふ…逃げられない」




時すでに遅し

私の知っている街からは随分とは慣れてしまったようだ
通りで車の流れが速いと思った

高速まで使うなんて、本当に何処に行こうとしているんだろう

そして私は、無事に帰ることが出来るんだろうか――…



「大人しく乗ってろ」
「はーい…」



諦めるしかないかと、また溜息を吐いた




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