HERO GIRL

□私と回想とお正月
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きっかり一時間後、地味子の家にやって来た
チャイムを鳴らすと迎え入れたのは彼女の母親で、相変わらずの美人だった



「あけましておめでとう、翔瑠君。今年もよろしくね」
「此方こそよろしくお願いします。あの、地味子は?」
「待ってね。今、準備してるのよ」
「準備?」



一時間後に来ることは伝えていたけれど、それでもあいつが準備をしていないなんて珍しいと思った

近所の神社に行くつもりだから、それなりに暖かい格好をすれば十分だけど、彼女の母親は妥協を許さない人だ
地味子を女の子らしい格好に仕立て上げるのに、一役買ったに違いない

良いお母さんだと思う
それに比べて…




「あけおめ。翔瑠君」
「お、おはようございます…」




…廊下の影から覗いている人を、俺はどうしたらいい?



「お年玉要る?」
「えっ。い、いやっ。いいです…」

「はぁ。翔瑠君もバイトしてるんだもんね。あのカフェ、おじさんもよく行くの。捜査で」




――マジか。知らねぇぞ…!?



「そ、そうなんですか」
「君はしっかりしてるから、悪い人に唆される事はないだろうね」
「は、はい」
「お待たせ―っ!」




其処へ、地味子が姿を現して――驚いた
何と晴れ着を着ていた
ちょっと予想外なチョイスに、本当に驚かされた




「晴れ着…!」
「やっぱり重いし窮屈だよ、これ」
「大丈夫よ」
「これに下駄を履くんでしょ。絶対に転ぶよ、履き慣れてないし」
「手を繋いで行けばいいじゃない。ね、翔瑠君」
「えっ!?」



いきなりそんな事を言われても…って、親父さんが物凄くこっちを睨んでるんだけど!?



「はーい」
「いやいや。『はーい』じゃねぇよ…」
「地味子! 写真!」
「七五三とかじゃないから、要らないよ」
「せっかく着たんだもん。記念にさぁ!」



嫌がる娘の写真を一枚、二枚、めちゃくち撮ってやがる
一度も笑ってないけど、いいのか?




「もー。行こうよ、翔瑠」
「お、おう」
「お参りが済んだらお昼にしましょう。翔瑠君もいらっしゃいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「行ってきまーす!」




近所の神社までは、歩いて10分とかからない距離だ
普段ならすぐに辿り着けるその距離も、今日に限っては彼女も晴れ着に下駄と言った格好なので、歩くのも辛いようだ
おまけに昨夜降った雪がまだ道に残っているため、少々滑りやすい




「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよー。着付けだけでどれだけ締め上げられた事か。中身が出ると思ったよ」
「そこまでか」
「メイクもさせられてさ。お母さんに肌が荒れてるって怒られちゃった」



彼女のお母さんは、娘を本当に大事にしている
だからこそ、ケアをしっかりさせたいんだろう
本人にその自覚がなく、美にも無頓着なのが頭を抱えるところだ



「女は大変だな。そして正月早々死ぬなよ」
「うう…苦しい」




息をするのも辛そうな彼女には悪いが、その晴れ着姿はなかなか…可愛いと思う
普段は長い髪を高い位置で結っているからか、雰囲気も違って見える

筋トレの時もたまに結ってはいるけれど、晴れ着と合わさるとまた違う印象だった
髪一つでも、女って変わるんだな…何て思ってしまう

ぼーっとそんな事を考えていると、いつの間にか隣に居た筈の彼女が、少し後ろに居る事に気付いた



「か、翔瑠。待って…おっふ。滑るかと思った…!」



しまった
あいつは今、歩きにくいんだった

自分の注意不足に、殴りたくなる




「大丈夫か? ゆっくり行こうぜ。神社は逃げねぇし」
「是非そうして下さい!」
「必死だな、お前」



ただし、中身は変わらず一緒だった
大人しくしていれば、ちゃんと見目麗しいと思うんだけどな




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