HERO GIRL

□私と回想とお正月
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神社に着くと、その人の多さに驚かされた
正月の三賀日は人の出入りが激しいと分かってはいたが、年々その数は増大していると思う

賑やかな人の声と流れてくる越天楽の音色に、正月らしい雰囲気が一層高まる




「人が一杯だね」
「この神社も有名だからな」
「去年はこんなに人来てたっけ…憶えてないや」
「あの時は合格祈願でいっぱいいっぱいだっただろ、お前」




去年は三人で初詣に来たんだった
丁度受験シーズン真っ只中で、高校受験を控えていた私たちは、揃って合格祈願をした
特に、私も晃司も合格祈願を物凄い必死にやったんだっけ
神主さんに祈祷をして貰おうとしたけど、そこまでしなくていいんじゃないかと翔瑠に止められた
ついでに言うと、絵馬を三枚も書く必要はないんだとも言われた、呆れながらね

私的には、自分だけじゃなく二人の分もって思ってたんだけどなぁ


あれから一年が過ぎ、結果、無事に才源高校に合格して今に至る訳だけど…


無数に飾られた絵馬を眺めていると、ふと懐かしいと思った
今年は三人ではなく、二人きり



「晃司も来られればよかったのになぁ…」



ぽつり、そんな事を口にした



「地味子…」
「あっ! 屋台があんなに並んでる! 何食べる!? あとおみくじもしたい!」
「…お参りしてからな」




有名な神社と言う事もあって、地元だけでなく遠方から来ている人もいるみたいだ
家族連れ、カップル、色々な人がいる
お参り一つにしても、随分と大行列が出来ていた



「皆、お参りに来てるんだね」
「それを言うと俺達もだろ」



少しずつ進んでいく列の流れに乗りながら、隣に居る翔瑠の傍を離れないようにする

こんな人混みの中で迷子だなんて、私は絶対になると核心があった




「こう人が多いと、はぐれた時大変だね」
「…そうだな」
「はぐれないように、この手を握ってくれてもいいんだよ、翔瑠?」
「お前にはムードってものはないのか」
「何それ、美味しいの?」



そうは言うものの、翔瑠はやけに素直な態度で私の手を握ってくれた
やっぱり迷子になるのは翔瑠も嫌だったのかな

気温は低く寒いけれど、晴れ着と右手のお蔭で随分温かい
まるで人間カイロだと、思わず笑ってしまった

翔瑠に変に思われたかと見て見れば、その顔が少しだけ赤いような気がした



「翔瑠、寒い?」
「いや…」
「でも顔が赤い――あ、ごめんなさい」



人が多いと、あちらこちらから押して押されて、とにかく窮屈だった
翔瑠に何度ぶつかったか解らないけど、その度に近くの人に平謝りしていた私は、かなりの小心者だろう

私達が無事にお参りを終えるまでこの体勢が続いていたから、翔瑠には本当に迷惑をかけてしまった
何も喋ってくれなくなったし、顔をまた赤くしてプルプルしているから、これはもう怒ってるとしか思えない

後で甘酒を奢ってあげよう




「はぁっ。なんて拷問だよ」
「ホントにね。身動き一つとれなかったよー」
「俺が言ってるのは…っ。何でもねぇ」
「どうしたの翔瑠。あ、お腹空いた?」



そう言う訳じゃないと返って来たけれど、それならどういう訳だろう

私はお腹が空いているけれど、何処か屋台に行きたいな
お財布はきちんと巾着に入れてるけど、取り出したくても片手が塞がっててそれが出来ない




「何か食うのか?」
「あ、うん」
「買ってやるよ。何がいい?」
「えーっとね…」



――パシャリ


ん? 今カメラのシャッター音がしたような…




「えへへ。あけましておめでとー!」
「美怜ちゃん! おめでとう!」
「お前…!」




スマホ片手にニコニコした美怜ちゃんが現れた
吃驚したけれど、こんな所で会うなんて凄い偶然だ
今まで知り合いには誰一人として会わなかったのにね



「地味子と翔瑠だけ? お髭の人は一緒じゃないの?」
「晃司は出稼ぎに行ってて居ないんだ」
「ふーん? じゃあ今日の地味子が可愛いから、今の写真をお髭の人に送ってあげようかな」



先程のシャッター音は美怜ちゃんが撮ったらしい
しかも私の写真なんて…ただ晴れ着を着てるだけだよ?



「晃司に送るの?」
「駄目?」
「駄目じゃないけど…恥ずかしいもん」
「あれ。この前と反応が違う…嫉妬はもういいの?」




嫉妬だなんて、そんな…

あの時の私はどうかしてたんだ!
自分の芽生えた恋心とやらに、本当に情けなくなる

顔すらまともに見られないとか、ホントなんだったんだろうね!




「まあ、普通にお髭の人と喋ってるもんね。あの時の地味子、面白かったなー!」
「面白がらないで美怜ちゃん…」
「ふふ、送信!」
「…!」
「えー、本当に送ったの?」




まあ、送ってしまったものはしょうがないか
早くも切り替えていると、翔瑠が美怜ちゃんに話しかけていた




「おい。今撮ったのって…」
「ん? 二人が手を繋いでる写真だけど」
「やっぱりか! 消せ。今すぐ削除しろ!」
「やーよ。もう送っちゃったもーん」
「この子、タチ悪ぃ…!」



くすくすと笑う美怜ちゃんと、悔しがる翔瑠
二人がいつの間にか仲良くなったようで、私も友達として嬉しいな





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