HERO GIRL

□私と回想とお正月
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それから四宮兄妹は、これからお参りだと言うので手を振って別れた
人混みに紛れてしまうのを防ぐため、紅輝に手を引かれる茜ちゃんは、最後の最後まで手を振ってくれて本当に可愛かった

良い後輩を私は持ったな、うん




「さて。今度こそ屋台めぐりをしますか!」
「結局何にするんだ?」
「えーっとね…」
「あれ。二人も来てたんだ?」



二度あることは三度ある――

この神社、本当に遭遇率高いんじゃないかって思う




「瑞希ちゃん、流星も!」
「晴れ着来てるー! 可愛いっ!」
「瑞希ちゃんもねっ」
「私のはただのジャージだけどね」



いやいや、ただのジャージをそこまで可愛く着こなせるのは、瑞希ちゃんぐらいだよ

というか、晴れ着を着てる私の方が浮いてるんじゃないかって思う
あ、もう脱ぎたくなってきたな…ちょっとだけ痛いし



「よぉ」
「おう。デートか?」
「ばっ。そんなんじゃねぇよ。バスコは一緒じゃねぇのか」
「バスコは出稼ぎ中だ」
「はあ? 何でまた」
「借金を返すためだろうな」




借金が百万円なんて、本当に稼げるのだろうか
コンビニのバイトだって時給は高くないし、それを週休二日と考えても、返済するにも月額じゃ微々たるものだ
何カ月かかるのだろう
それ以上に稼げる割のいいバイトって言えば、まあ――肉体労働ぐらいかな




「屋台見てたよね。何か食べるの?」

「うん。迷い中…焼きそばかたこ焼きか、ステーキ串か、じゃがバターか――全部食べ歩くって言うのも有りかなぁ」

「流石にやめとけ。その格好じゃろくに食べれやしねぇよ」
「それもそうだね。窮屈でしょうがないよ、ホント」
「だからって脱ごうとするなよなっ!?」
「あ、しまった。いつもの癖で」



ついつい邪魔なら脱ぎ捨ててしまえ、の感覚で帯を緩めそうになった
危ない危ない、此処は外だし、人の眼もある




「私も何か食べようかなー。地味子、一緒に選びましょ?」
「うんっ」

「…あぁ言う格好をしてると、あいつも女なんだなーって思う」
「あ? んなもん、最初から知ってるよ」




誰よりも、何よりも、地味子を女と認識しているのは自分だって、解ってる




「解ってるさ…一番近くであいつを見てきたんだ」
「翔瑠…」
「同じ幼馴染なのに、どうしてこうも違うんだろうな。お前らと」
「…同じじゃねぇよ。瑞希の方が断然可愛いに決まってんだろ。ばーか」
「は。言ってろよ」



ただの幼馴染だよなんて、もういい飽きてる

そして幼馴染として、俺はどうするべきなのか、悩んでる――



「言わねぇのかよ」
「…」
「バスコに遠慮してんなら気にすんなよ」
「別にそう言う訳じゃ――!」
「あいつもこいつも馬鹿だからな。口にしないと気づいてもらえねぇぜ」



…まさか、流星に説教される日が来るとは思わなかった

言葉にすることがどれほどの重みで、どれほどの物を壊すのか、解ってるのだろうか

それとも、俺が考えすぎ?


…考えれば考えるほど解らなくなる



「――好きだなんて、そんなの、言えるかよ…」

「翔瑠!」
「な、何だっ?」



突然名を呼ばれて、驚いてしまった

まさか、今のを聞かれていた――?



「甘酒飲みたいの。瑞希ちゃんと」
「あ、甘酒…?」



どうやら、その心配はなかったようだ
俺も流星も焦りはしたが、直ぐに平静を取り戻せていた



「お前、こいつにたかるのかよ」
「違うもん。さっき翔瑠が買ってくれるって――おっと、すみません」



さっきの人混みよろしく、地味子が人にぶつかってしまったようだ
こう人が多くては、ぶつかるのも当然――なわけがない

まるで、そいつは自分から地味子にぶつかっていったように見えた…
そして、何かを手にしていた気がする




「地味子、大丈夫?」
「ちょっとよろけただけだから」
「…あれ。巾着は?」
「え? 巾着なら此処に…ない?」
「まさか。さっきのって…!」



その姿は、人に紛れて逃走を図ろうとしていた
手には確かに巾着が握られている――地味子の巾着が




「これって…もしかして引ったくり?」
「もしかしなくても引ったくりよ!」
「…っ。あの野郎!」
「翔瑠!」
「ちっ! 待てコラァッ!」
「流星!」




走り出した翔瑠が、人の波を押しのけて進んでいく
その後を流星が追って行ったのを見て、私もまた走り出そうとした――…のだが




「へぶっ!」
「地味子っ!?」
「…自分が晴れ着だって事を忘れていたよ」
「だ、大丈夫なのっ!? 怪我は!?」
「あー…丈夫だからホント、大丈夫。うん」
「鼻血を出しながら言う事!?」




瑞希ちゃんに起こされて、何とか立つ事が出来た
本当にありがとう、瑞希ちゃん

私一人じゃ、きっと恥ずかしくて立ち上がる事も出来なかったよ




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