HERO GIRL

□私と回想とお正月
6ページ/7ページ




この私がひったくりに遭うなんて――

晴れ着じゃなかったら追いかけて、ワルをお仕置きしたいぐらいだ
でも今はそれも叶わなくて、神社境内の隅に腰を下ろしている

翔瑠も流星も、ワルを追いかけたっきり戻って来ない
まあ二人の脚は早いから、ひったくり犯なんてすぐに捕まえられると思うけど…




「地味子、痛くない?」
「平気平気! 足の痛みなんて瑞希ちゃんのお蔭でもう治ったよ!」
「足? 私が聞いたのは鼻血の事だけど…え。痛いの?」
「おっふ…気にしないで下さい」



履き慣れない下駄に、早くも足の指が悲鳴を上げていた
足袋にも薄っすらと血が滲んでいるのが見える

間違っても瑞希ちゃんに、こんな醜態を曝すわけにはいかない


って。あれ、するんと足袋が脱げて…




「ちょっと! これって今って訳じゃないでしょ!?」
「え」
「こんな痛々しくなるまで我慢してたの!? ねぇ馬鹿なの?」
「…馬鹿ですみません」
「もうっ。絆創膏、絆創膏…!」




私でも気づくのが遅れるくらいに、瑞希ちゃんが足袋を脱がせてくれた
あれれ。平和ボケかな?
この私が脱がされるまで気づかないなんて…

うん、馬鹿だから仕方がないよね


晴れ着だろうが浴衣だろうが、こう言った足の擦れにはとても悩まされる
瑞希ちゃんが絆創膏を持っていてくれたおかげで、本当に助かった

同じ女子なのに、どうしてこうも違うんだろうか




「あの二人、何処まで追いかけたのかな? 捕まえられるといいんだけど…」
「大丈夫だよ。足の速さは流星が早いし、喧嘩なら翔瑠も強い。ワルだって即K.Oに決まってる」
「そうね…地味子、自分のが盗まれたのに随分と冷静ね」
「だってじたばたしてもどうにもならないし」
「さっきは追いかけようとして転んだもんね」



瑞希ちゃん、それを蒸し返すのはちょっとやめて欲しいな

あれは本当に恥ずかしかったから



「うっ…そ、それに大したもの入ってなかったし!」
「巾着の中に何を入れていたの?」
「お財布とスマホ」
「充分大したものよっ!?」



瑞希ちゃんは驚いていたけれど、財布の中にはそんなに金額を入れてなかったし、スマホも止めてしまえばいい話だ
連絡先や個人情報、撮った写真などは流出してしまうだろうが、また一から集めればいい

…女の子一人一人に頭を下げて聞くしかないか、うん


流出云々や悪用の心配よりも、私には再び女の子の連絡先を獲得するほうが、とても心配だった
それを瑞希ちゃんに告げれば、とても呆れられてしまった



「心配する方向が違うと思うの」
「そうかなー」
「でも、直ぐに追いかけてくれるなんて、翔瑠はいい人だね」
「うん。優しいんだ翔瑠」
「赤ん坊の幽霊の時もそうだったけど、地味子の事を良く見てる気がする」



翔瑠が私を見ている――?



「そうかな。私がそそっかしいから、見ててハラハラするのかもね」
「それだけじゃないと思うわよ? 見かけによらず優しいとこあるみたいだし」
「うーん。翔瑠はいつも優しいからなぁ」



翔瑠はいつも優しい
だから、私はその優しさにいつも甘えてしまう

時に私を叱り、時に慰めてくれるのには、本当に感謝している




「盗んだ人、ちゃんと見つかるかな」
「願えば大丈夫だと思うけど。此処の神様は凄いんだよ」
「私もその噂を聞いて来たんだ。おみくじも当たるって言うし」
「おみくじって言えば…」



さっき引いたのが、袂に居れていたのを思い出す
毎年狙ったかのように大吉なのだが、ひったくりに遭うなんて、新年早々運が悪いじゃないか



「何処が大吉なんだか…」




お財布を失くすし、スマホも失くすし、足は痛いし、晴れ着は窮屈だし、食べたい物も何一つ食べられない

何一つ、いい事なんてない



「『失せ物:すぐに見つかります』――だって、ホントかな」

「『恋愛:大切な物を得る代わりに、大切な物を失います』――これって本当に大吉なの?」

「うぉわっ…!?」



瑞希ちゃんが覗き込んで来たから、少しだけ吃驚した
まあみられても別に構わないんだけどね



「流石の神様も、全部のおみくじを当てるなんてこと出来ないよ」
「でもさ。当たるって有名なのよね。もしかしたらそのおみくじも…」
「え。大吉でラッキーなはずなのに、何このホラー感…」





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ